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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。


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第66話 そんなに私のことを

「ねえ、レオン。大円舞曲なんてどう?」

「いいねえ。みんなが踊ってくれるとうれしいな」


 レオンシュタインが楽しそうにピアノを弾いている姿はティアナを幸せにする。ふふっと自然に笑顔になったティアナは、手を大きく広げ、周囲にいる人たちにこっちを見てと言わんばかりにアピールする。


「次はワルツを弾きますよ。踊りたい方は準備してください」


 呼びかけたティアナの周りに一瞬で20人ほどの男たちが集まった。


「では、わたしと一緒にお願いします」

「先ほどから、貴方の側で準備をしておりました」

「あなたの手をとる光栄は、どうぞわたしに……」


 そういう意味じゃないと慌てて否定するティアナだったが、どんどん男たちは近寄ってくる。悪戦苦闘するティアナをよそにレオンシュタインは鍵盤を叩き始めた。レオンシュタインの演奏が始まると、軽快なワルツのリズムが人々の気持ちを浮き立たせ、大勢の人たちが踊り出していた。


 レオンシュタインのピアノも踊っているような指使いだ。いつの間にか、中ホールは入りきれないくらいの人で溢れかえっていた。人々に笑顔があふれ、幸せそうな表情で踊っている。


 ただ、ティアナの近くは別の理由で男たちが溢れていた。


「初めて貴方を見たときから、私の目は貴方から離れません」

「私と踊っていただけませんか。お嬢さん」

「ああ……。あなたの瞳はまるで月のようだ」


 けれどもティアナは、にべもない。


「私は、今ピアノを弾いているレオンシュタインさまの」


 妻と言いかけて、思わず口ごもる。許嫁? いやいや、まだ完全には決まってないし。でも、友だちって言うのも……。あれこれ考えて頬を上気させてしまい、その表情がさらに男たちを引き寄せてしまう。


「嘘はいけません、フラウ。あなたには、この男爵たる私こそふさわしい

「男爵ごときが出しゃばるな」

「ピアノ弾きなんて、あなたにはふさわしくありません、フラウ」


 その瞬間、ティアの眉毛が吊り上がる。


「は? 今なんつった?」


 周囲の男たちがあまりの変化に戸惑ってしまう。けれども、怒っているティアナにはまた別の美しさがあった。ドMには堪らないだろう。そんな諍いをよそ目に、レオンシュタインは夢中で鍵盤を鳴らしている。最後の小節を弾き終わったとき、拍手とともに「もう終わりか」という大きな溜息があちこちから聞こえてきた。


 次の瞬間、歓声とアンコールが響き渡り、その声にひかれて招待客がどんどん入り込んでくる。メインホールに残っている人は少なくなりつつあった。

 

「目障りだな。あの男」


 メインホールにいたゲオルフが苦々しく呟くと、近くにいた執事の男が配下に指示を出す。レオンシュタインたちの会場に、手下の男たちがすぐに移動してきた。けれども、レオンシュタインとティアナは気がつかない。


「うるせえ。へたくそなピアノは止めろ!」

「酒がまずくなる」


 その大きな声に周囲の人々はさっと潮が引くようにピアノから離れていった。事態が飲み込めないレオンシュタインは、ただ呆然として男たちを眺めていた。4人がレオンシュタインの近くまで歩いてくる。


「だいたい、お前みたいなのがピアノを弾くなんて10年早いんだよ」

「これは、ゲオルグさまのパーティーだ。目障りだ」


 そう言って、レオンシュタインをつかもうとした瞬間、手の甲に雷のブリッツが撃ち込まれる。


「痛え! 誰だ?」

「汚い手でレオンに触らないで!」


 いつの間にかレオンシュタインの側にティアナが立っていた。


「せっかくの素晴らしいピアノの音色が……。誰の差し金?」

「誰の指図でもねえ。俺が気にくわねえんだ」


 と言った瞬間、4人の足の甲が雷のブリッツで地面に縫い付けられる。


「次は、足じゃなくて心臓を狙うわよ」

「た、助けてくれ!」

「お、俺たちは頼まれただけなんだ!」


 冷たい目のまま、ティアナはさらに問い返す。


()()頼まれたんですか?」


 男たちは口ごもって横に視線を向けると、ティアナは詠唱を始め、男たちの身体に雷光が光る。


「ぐあ!」

「思い出した?」


 笑顔でティアナは尋ねるが、目は全く笑っていない。まだ口を開かない男たちを冷たく眺め、ティアナはさらに詠唱を進める。男たちはティアナの身体から電光が走るのを見て、観念したのだろう。


「はい! 思い出しました!」


 手を挙げた男たちが一斉に白状する。


「あの人です!!」


 全員、一斉にゲオルフを指さした。


「そう。やっぱりね」


 カツンカツンと足音を立てながら、ティアナはゲオルフの近くに歩いて行く。眉を逆立てながら、ティアナはゲオルフに詰め寄っていったけれども、ゲオルフは全く気にせず別のことを話し出す。


「フラウ。名前を教えてください。今日は私の伴侶を見つけるパーティー。貴方の美しさは際立っております。このゲオルフの妻に相応しい」

「はっ?」


 恭しく手をとろうとするゲオルフの手を払いのけ、ティアナは叫ぶ。


「レオンシュタインさまへの無礼、どういうつもりですか!」


 怒りを隠そうともせず、ティアナはゲオルフを睨み付ける。ゲオルフは意に介さず近くにあるりんごを掴み、それを握りつぶして自分の力を誇示する。


「フラウ。私は辺境を守る守護神です。力も見てもらった通りです」


 さらにティアナに近づき、肩に触れようとする。その瞬間、二人の前にレオンシュタインが立ちはだかった。


「ティアに触るな!」


 そう言いながらティアナに触れようとする手を払いのけていた。


「……何のつもりだ。次代の辺境伯に向かって無礼であろう!」


 痛む手をさすりながらレオンシュタインを睨み付けるゲオルフだった。


 ゲオルフの憤りを全く無視するレオンシュタインの姿に、ティアは頰を赤らめ手を口に当てる。


(レオン。そんなに私のことを)


 レオンシュタインは必死に何かを伝えようとしている。その言葉を大切に受け取ろうと、ティアナは心の準備をして待っていた。


「い…」


 レオンシュタインは口ごもる。ティアナは胸の前で手を組みながら次の言葉を待った。


「い……いくらかかると思ってるんだ!」


 はい? 


 首をかしげるティアナをよそに、レオンシュタインは意を決したように全ての言葉を吐き出した。


「その衣装はレンタルだ。汚すと、いくらかかると思ってるんだ!」


 分からないなとゲオルフは首を左右にふる。同時にティアナの目がすっと細くなる。


「レオンさま。まさかとは思いますが、私より衣装代の方を心配しましたか?」

「えっ? いや……」

「正直にね」


 ゆっくりとティアナが迫ってくるのを、レオンシュタインは絶望の眼差しで眺めていた。


「い、いや。ティアなら、あんな奴にやられな……」


 その瞬間、レオンシュタインの前に雷が落ちる。


「当然、()()()のことを、案じてくださいましたよね?」


ティアナの笑顔が怖い。周囲の人の顔に『いったい何を見せられているのか?』という困惑の色が浮かぶ。レオンシュタインを睨みながら、ティアナは衣装の胸元に手をかける。


「あら? こんなところに糸のほつれが」


そう言いながらティアナは思い切り服を引き破る。ビビッという音が静かなホールに響き渡り、周りの男たちから「おお~」という感嘆の声があがる。大きく胸元が開き、もう少しで形のよい胸が見えてしまいそうになる。当のティアナは全く気にすることなくレオンシュタインに話しかける。


「申し訳ありません。レオンさま。()()()を直そうとして、手が滑ってしまいましたわ」


 その言葉を聞いた瞬間、レオンシュタインはティアナを突き飛ばしていた。


「何? 怒ったの?」


 倒れたティアナが毒づきながらレオンシュタインを睨みつけると、レオンシュタインの左肩に深々と矢が突き刺さっていた。


「レオン!!」


ティアナの悲鳴がホールに響き渡る。そこに、ゆっくりとゲオルフが近づいてきた。


「俺のものにならない、というなら無理にでもなってもらうさ」


ティアナはレオンシュタインにすぐに駆け寄って矢を引き抜くと、肩から吹き出る鮮血が、みるみるうちにドレスを紅く染めていった。


「誰か! 助けて!!」


叫ぶティアナを尻目に周りの人々は遠くに去ってしまう。近寄ってきたのはゲオルフと弓をかまえた3人の配下だけだった。


「詠唱するなよ。その瞬間、その男に矢が刺さることになっている」


しんとしたホールにゲオルフの声だけが響いている。


「さあ、こっちに来てもらおうか。まさか嫌とは言わないよな」


にやにやしながらゲオルフが手招きをする姿を憎々しげに睨むティアナだが、選択肢の余地はない。のろのろと立ち上がりゲオルフの側へ歩いていく。


「いい子だ。そして、誓ってもらおうか。俺の妻になることを」

「だれが、お前の妻になどなるものか!」


吐き捨てるようにティアナが答えた瞬間、ゲオルフの右手が動きレオンシュタインの頭の横に矢が突き刺さる。


「やめて!!」


 ティアナの顔がみるみる青ざめ、ゲオルフは口元に下卑た笑いを浮かべて語りかける。


「さあ、俺の側に寄れ。そして誓いのキスをするんだ」


突き刺しそうな視線でゲオルフを睨みつけるティアナだが、弓がレオンシュタインを狙っているのを見て、ぎゅっと口元を結ぶ。


「どうした? さあ早く!」


目をつぶったティアナは、ゆっくりとゲオルフの顔に自分の顔を近づける。


「ティア! 止めろ!!」


 びくっとしてレオンシュタインの方を振り返る。その瞬間、ゲオルフが強引に自分の方へ抱き寄せる。ティアナの目に涙が浮かび、ゲオルフの熱が感じられるくらい近いのを感じていた。


 唇を押しつけられ、ティアナ目から一筋の涙がつうっとこぼれ落ちていった。

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