第62話 パーティーへのお誘い
二人の美しさが予想より遙か上であったことに、ゲオルフは満足を覚え、どちらも自分の側室にしたいという強烈な欲望がわき上がっていた。
「お二方とも、実にお美しい。どうです? 明後日に開催される私のパーティーに出席しませんか?」
11月5日に開催されるゲオルフ主催のパーティーへの参加を申し込まれる。レオンシュタインに依頼するのではなく女性に直接出席を促すのはマナー違反であるけれども、ゲオルフは全く気にしなかった。
しかも端女呼ばわりをしておきながら、この態度の変わり様。レオンシュタインに冷たい声を掛けたこの男に気分を害したイルマは、レオンシュタインを元気づけるために側に寄り、腕を組む。
「レオンと一緒に出席してほしいってことかな」
それを見たヤスミンは逆の腕を組む。
「私、そばにいるよ。ね、マスター」
少しむっとしながらゲオフルは3人の様子を眺めていた。けれども、今まで自分のような素晴らしい男に会ったことがないのだろうと思い直す。自分と多くの時間を過ごせば、すぐに夢中になるに違いない。こんな、ぱっとしない男よりも自分がいいに決まっている、という根拠のない自信が、ゲオルフの全身を渦巻いていた。
「パーティーでは私と一緒に踊ってもらいます。簡単なドレスコードはありますが、お二人の美しさなら大丈夫でしょう」
いつの間にか一緒に踊ることが決まっており、イルマはゲオルフの強引さに呆れる思いだった。しかも、ゲオルフはレオンシュタインの側にいるティアナを馬鹿にするような態度を崩さなかった。仮面をかぶっている道化をパートナーにするのはマナー違反だとレオンシュタインに釘を刺す。ティアナは全く気にもせず、無関心な態度を取っている。
むしろレオンシュタインと腕を組んでいる二人が気になって仕方がない。
話が途切れ、レオンシュタインは最も気になっていたことを質問する。
「ゲオルフさまの城にはシュタインヴェークのピアノがあると聞いているのですが」
シュタインヴェークは世界最高峰と呼び名の高いピアノメーカーである。ユラニア王都でも3台しか無いピアノで、この城にあることをレオンシュタインは記憶していた。ゲオフルは初め何を言っているのか分からなかったが、ようやく記憶の片隅からピアノのことを思い出し、大ホールに1台置いてあると伝える。
「そのピアノを演奏したいのですが、よろしいでしょうか?」
思い切ってレオンシュタインは自分の願いを話していた。ゲオルフはつまらなさそうにその願いを聞いていたが、別に断る理由もないので許可を出していた。レオンシュタインは大喜びでゲオルフに礼を伝える。
「ところで、レオンシュタイン殿は決まった伴侶はいらっしゃらないのですか? かなりお見合いをしたと伺っていますが」
さすがに情報をよく知っている。その上でレオンシュタインを落とそうと話題を変えてきたのだ。レオンシュタインがいないと素直に答えていた。ふんとした表情でゲオルフは、レオンシュタインを睨め付ける。
「あまりこのお二方と遊ぶのは控えた方がよいのではありませんか。ますます、ご縁が無くなって……。これは失礼」
失礼な物言いが止まらない。レオンシュタインがどう答えたら良いのか考えていると、ゲオルフはヤスミンの方に向きを変え声を掛ける。
「褐色の肌に銀色の髪。本当にお美しい。どうでしょう。私の城で働くのであれば、小金貨10枚を支度金として渡しますよ。いかがですか?」
口元がだらしなく開いていたゲオルフは、あからさまにヤスミンの胸元を見ながら誘っていた。
ヤスミンは相手にせずマスターに全て捧げていると淡々と答える。
「もう経験済みですか……。じゃあ、小金貨5枚でいかがですか?」
それを聞き、ティアナが無言でレオンシュタインの前に立つ。
「ねえ……レオン。経験済みって何を経験させたの?」
抑えた声が凄みを感じさせる。
「えっ? 何も経験させてな……」
「正直に……ね」
レオンシュタインの後ろの木に雷が落ち、多くの木の葉が空中に舞い上がる。ティアナの口元の笑みが怖い。不快な成り行きに、ゲオルグは呆れたような表情になる。
「本当です。何も……」
レオンシュタインが答えられずにいる中、ばれてしまっては仕方ないというふうに、ヤスミンは謝罪の言葉を口にする。
「ティア……。ごめん……」
頬を染めるヤスミン。その瞬間、レオンシュタインの全身が黄色く光る。何かを話そうとするレオンシュタインだが口がしびれてうまく話せない。
「レオン! 不潔!」
そうティアナが断言した瞬間、ヤスミンは小さく舌を出して「嘘」と平然と答えていた。慌てて魔法を中断したティアナは、すぐにレオンシュタインの元へ駆け寄っていく。
「大丈夫? レオン……」
甲斐甲斐しくレオンシュタインの頭を自分の膝に載せるティアナだが、原因をつくったのもティアナである。レオンシュタインは複雑な思いで、ティアナを見つめていた。上級貴族の前で派手な立ち回りをするティアナを不快そうに眺めながら、ゲオルフはレオンシュタインに申し伝える。
「ドレスが準備できないときには、女性だけの参加にさせてください。パートナーにドレスも準備できないのでは紳士と言えませんから。では、明後日の午後6時に城でお待ちしています」
ゲオルフはさっさとその場を去り、護衛の騎士たちもそれに続いていった。
「何あれ? 感じ悪い」
ティアナが珍しく毒づき、イルマも肩をすくめて感想もない。バルバトラスやフリッツは、ほとんど空気のような扱いだった。その場の誰もがゲオルフによい印象をもたなかった。
「ただ、正式に参加を依頼されています。断るのも角が立ちそうですねえ」
フリッツが懸念を述べる。けれどもドレスは一着も持っていない。
「辺境伯の城では、よくパーティーが開催されております。きっと城下にはドレスを扱っている店があると思いますよ」
フリッツの言葉を頼りに、早速ドレスの店を探しに行くレオンシュタイン一行だった。




