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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第1部 旅での出会い 第4章 馬車と少女

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第60話 さらなる陰謀

 王国歴162年10月24日 夜8時 調度品で囲まれた部屋にて――


「レオンシュタインの動向を聞こうか」


 暗い声が部屋の中に響き渡る。瀟洒な調度品で囲まれた中に一際贅をこらした椅子が置かれ、傍らにはビンテージのワインボトルとグラスが置かれていた。


 声を発したのはその椅子に座っている男で、館の主人であり20代の後半くらいに見える。金髪が光り、声は優しさを含んでいるような感じを受ける。近侍している2名の衛士は、どちらも歴戦の勇者であることが分かる筋骨隆々な身体つきをしていた。

 

「我が主」


 主人の前に立つ3人のうち黒頭巾の男が口を開く。


「レオンシュタインはレーエンスベルク辺境伯領に向かっております。現在、ディベルツに滞在しております」


 興味深そうに館の主人は一行の概容を尋ねる。それに関して商人風の男が代わって答えていた。


「女性陣はティアナさま、イルマと呼ばれる20歳前後の女性、ヤスミンと呼ばれる少女の3名です」


 やや意外そうな声を館の主人は発する。


「女にもてない男が3名もの女性を連れているとは……。奴も隅におけないということか。で、ティアナ以外の二人の女性は私に報告する必要はあるか?」

「ございます」

「ほう、それはそれは。では詳しく聞こうか」


 館の主人は、ぎしっと椅子に深く腰掛ける。商人風の男は自分の目で見たことを詳細に話し始めた。


「イルマでございますが、黒いシュバルツモンの傭兵団に所属しておりました。狼口ろうこうのイルマと呼ばれております」


 狼口では側に置く意味がないと思ったのであろう。不快そうに眉をひそめた主人を見て、男は慌てて情報を付け加えていた。


「リンベルクで治療を受け、傷は消えております。ティアナさまにはわずかに及びませぬが、かなり美しい方とお見受けしました」

「ふむ。どれくらいか?」

「この城の誰よりも美しいと思われます」


 主人の顔が輝き、嬉しそうな甲高い声が部屋に響く。


「それは素晴らしい。是非、手に入れよう。で、もう一人は?」

「はっ。ヤスミンは元アサシン教団に所属しておりました」


 アサシンと聞き、主人はまた顔を曇らせている。けれども、先ほどのことを思い出し、傍らにあった赤ワインに手を伸ばして、ぐっと一口、喉を通らせる。舌先に豊穣な葡萄を感じることで主人は落ち着きを取り戻し、グラスを持ったまま報告を聞くことにした。


「こちらは、かなり童顔に見えますが、おそらくレオンシュタインと同じ年齢でございましょう。ティアナさまには及びませぬが、こちらもかなり美しい少女です。この城どころか、我がマインゲビーターの領土にもいないほどの美しさでございます」


 ワインのグラスをテーブルに置いた主人は、領土と聞いてやや不快そうな顔つきになる。


「イルマよりヤスミンの方が美しいということか?」


 商人の男はそれを否定し、どちらも比べることができないほど美しいという意味だと答えた。けれども主人の機嫌は元に戻らない。


「レオンシュタインがそのような美しい女性を3人も引き連れているとは。さすがに分不相応だ。そう思わないか?」


 背筋にひやりとしたものを感じた商人風の男は、すぐさま同意し、けしからんという意見を率先して述べた。それを聞き、主人はようやく機嫌を直す。


「では、その二人も早く私の前に連れてくるように。私がいつまでも寛容だとは思うなよ」


 主人は机に置かれたお金の袋の中から一つを無造作に掴み、男の前に放り投げる。それを恭しく持ち上げ、深く礼をすると、男は足音を立てずに部屋から出て行った。


「お前はどんな情報をもっているのだ?」


 背の低い男に向かって主人が冷えた声で尋ねると、男は男性陣の情報をもっていると素直に答えていた。けれども、主人は全く興味がなさそうにワインの瓶に手を伸ばしていた。グラスにワインを満たし、部屋の中に芳醇なワインの香りが微かに漂う。その香りが良かったのか、主人は報告するように男に催促した。


「レオンシュタインに付き従っている男は、バルバトラスとフリッツでございます」


 ワインを楽しんでいた主人は顎で続けろと催促する。


「バルバトラスはボロニウス大学の元教授、フリッツは只の御者でございます」


 それ以外の情報はないか主人が尋ねると、しばらく首をひねった後、男はフリッツについて話し始めた。


「はっきりとは分かりませんが、私は以前フリッツをどこかで見たような気がします」

「どこで見たのだ? コムニッツ領か? それともシュトラント領か?」

「おそらくシュトラントでございます。我が主」


 けれども、それ以上の情報は出てこなかったし、主人もほとんど関心を持たなかった。男は報酬を受け取ると、その場から去って行った。その場には黒頭巾の男が一人残されている。


「絶世の美女が3名。レオンシュタインには勿体ない話だ。私の側こそ相応しい」

「はっ」


 黒頭巾の男は無表情にそれに答える。


「私はレオンシュタインにも、その男たちにも興味はない。その意味が分かるな?」


 黒頭巾の男は黙って頭を下げる。


「そうだ! レーエンスベルク辺境伯に手紙を持っていってくれ。早馬で行けば間に合うであろう」


 手を叩いて家宰を呼ぶと、口頭で手紙の内容を伝える。その内容は実に身勝手なものだったが、当の主人は全くそのことに気付かない。完成すると黒頭巾の男に手紙を渡し、主人は館の奥にあるハーレムに向かって歩き始めるのだった。

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