第58話 ヤスミンの正体
王国歴162年10月20日 午後19時頃 宿の部屋にて――
宿に着くとレオンシュタインは全員を食堂に集め、早速ヤスミンをみんなに紹介する。
「私たちの旅に同行することになったヤスミンさんです」
当然のように一行は驚いた。いきなり旅の同行者が増えたことにフリッツは驚きを隠せない。
しかも、また美少女だったことから、レオンシュタインには人を引きつける魅力があるとの認識を深めるフリッツだった。いつも通りのマイペースな挨拶をしたバルバトラスは、ヤスミンの上着がずれた瞬間、目が大きく見開かれる。
(全く、兄ちゃんはおもしれえ。一緒にいると退屈しないな)
素知らぬ顔をしながら、耳だけは集中させているバルバトラスだった。
また、イルマはヤスミンが入ってきた瞬間から、警戒を強めていた。明らかに戦闘訓練を受けている足裁きで、音を立てないようにしているのが分かる。自分の殺気に気付くほどの実力者だ。
ヤスミンも同様にイルマを警戒していた。
食堂に入るなり壁際に立つ女が殺気を向けていて、その殺気が腰の剣から発せられている。剣の実力者であり、おそらく自分以上だということにも気付く。笑顔で挨拶をしながらも気を緩められないヤスミンだった。
それを知ってか知らずか、レオンシュタインは笑顔のまま、ヤスミンのことを仲間として歓迎する姿勢を崩さない。
「とりあえずヤスミンの得意なことを確認しようか」
のんびりと提案したレオンシュタインを見ながらヤスミンは頷き、ゴトリという鈍い音を立ててテーブルにダガーを2本置いた。
「ん?」
レオンシュタインの考えていた「パッチワーク」や「お菓子作り」とは、明らかに別物だった。
「ダガー使える。魔法は、探知、影足」
ダガーを見たティアナは眉をひそめる。納得したようにバルバトラスは何度も頷き、ティアナの懸念について代弁する。
「嬢ちゃんの予想通りだよ。アサシン教団がよく使うダガーだ」
それならば動きにも納得がいくとイルマはひゅうと口笛をならす。顔を上げて周りの人を見つめたヤスミンは言葉をつなげる。
「そう。暗殺と斥候の訓練を受けている」
レオンシュタインとティアナは顔を見合わせる。真剣な表情になったフリッツは会話に集中する姿勢になり、イルマは窓の側に近寄り、そっと窓を閉めた。あまり人に聞かせたくない内容になりそうだ。
「殺したことはない。訓練だけ」
小さな声でヤスミンは答える。ヤスミンに肩を見せてもらえるかバルバトラスは提案し、ヤスミンはうなずくと、肩の服をめくり上げた。
そこには、はっきりとアサシン教団の入れ墨が彫られていた。
「お金が必要だった」
悲しそうな声でヤスミンが話す。両親がおらず、弟の薬代を稼ぐためには入団しか方法がなかった、とぽつりぽつりと説明する。
それでも足りなかったのだ。
「ヤスミン。大変だったな」
ねぎらいの言葉をかけたレオンシュタインに、ティアナも同調して頷く。男の前で肌をさらしていることに気付いたティアナは、肩にタオルをかけていた。うなずいたヤスミンはゆっくりと服を元に戻し、入れ墨の跡を隠す。
斥候役がいると事前に危険を察知できるためイルマはありがたいと考えていた。ヤスミンがいれば奇襲を避けられるとバルバトラスも後押しする。
「斥候ができるヤスミンの加入はうれしいね」
イルマは話しながらヤスミンにウインクする。
「そうね。今まではイルマに頼りっきりだったものね」
ティアナも歓迎の言葉をつなげていく。それを聞き、ヤスミンは、ほっとしたように周囲を眺める。アサシン教団の一員と知られても、全く気にしない人たちに出会ったのは初めてだった。
「よろ……しく」
ティアナやイルマとは異なる生命力が弾けるような笑顔でヤスミンは答える。小さな赤い唇と長いまつげが印象的で、褐色の肌と銀色の髪がエキゾチックさを感じさせる。美少女には慣れてきたレオンシュタインだが、思わず目を逸らしてしまう。
「主。浮気はダメだぞ。私というものがありながら」
その様子に気付いたイルマはレオンシュタインに近づき、肩に手を乗せながら甘えたように話す。ティアナはその手をすぐに払いのけた。イルマはヤスミンに気を取られているレオンシュタインを見て、咎める口調になる。
「主……。まさか……こんな年端もいかない子どもに?」
ヤスミンは少しむっとしたように自分が19歳であることを再び告げる。レオンシュタインと同い年であるという宣言にみんなが驚いた。ヤスミンの目がトロンとしてきたため、男性陣と女性陣に別れて休むことになった。
男性陣の部屋は2つの部屋がつながっており、レオンシュタインの部屋にフリッツとバルバトラスの部屋がつながっており安全だ。
新しい旅の仲間が増えたことをレオンシュタインは単純に喜んでいた。
けれども、その新しい旅の仲間は、そうそうに問題を起こすのだった。




