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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。


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第52話 酒場での出来事

 王国歴162年10月18日 20時頃 教会の宿舎へ向かう途中――


 教会の宿舎へ戻るレオンシュタイン一行の足取りは軽い。同行者が増え賑やかなことこの上ない。


(これも『素敵な出会い』なのかなあ。伴侶じゃないけど素敵な人に次々と出会えたなあ)


 レオンシュタインは教会の教えを守り、次こそは相応しい伴侶を見つけたいと心に誓うのだった。そんなレオンシュタインの想いは別にして、バルバトラスを中心に一行は談笑しながら歩いていく。


「レオンさん。今日の演奏、本当に感動しました」


 いつも以上の笑顔でフリッツがレオンシュタインに話しかけてくる。それほどでもないと謙遜するがフリッツの興奮は止まらない。


「そもそもレオンさんは何者なのでしょう? ただの旅人とも思えませんが」


 レオンシュタインは旅にバルバトラスも加わったことから、全員に自分のことを話しておかなければならないと判断する。全員が部屋に集められ、思い思いの場所に座りレオンシュタインの言葉を待つ。


「私の名前はレオンシュタイン・フォン・シュトラントといいます。シュトラント伯爵の三男……いえ、三男でした」


 考え深そうな顔で聞き入るバルバトラス以上に、真剣な顔をしていたのがフリッツだった。


「父の死の際に1年間の修行を言い渡され、今、諸国を歩き見聞を広げているところです」


 そこにバルバトラスから質問が入る。


「兄ちゃん。修行はどれくらいの予定かな?」


 レオンシュタインは1年間の修行だと繰り返す。

 

「わしが知っている貴族の例では、1年と申し渡されても6ヶ月程度の修行で大丈夫だったぞ。形式的なもんだろうしなあ」


 との情報を話す。バルバトラスは頓着しない。


「レオンシュタインくんが伯爵家の一員かどうかは確かめようもないがバイオリンの腕前は本物だ。家にラテン語の家庭教師がいるところも、そんなにないと思うしな。ぐはははは」


 フリッツも同意の笑顔を見せる。


「レオンシュタインさんは修行が終わるとどうなるのでしょう? 領土をもつ小領主となるのでしょうか?」


 その部分についてレオンシュタインは何とも答えられない。ただ、領土をもらえるような言質はあったことを素直に伝えていた。そんなに大きな領地はもらえず、小さな土地しかもらえないであろうことも伝える。


「小さな村でももらえれば御の字なんですがね」


 自分の未来がそんなに明るくないことを、レオンシュタインは自嘲気味に話す。そこで自然に話が終了となり、みんなでご飯を食べに行くことになった。


 空には月が出ており、演奏の成功を祝福しているかのようだった。


 一番近くにある小さな食堂に入り、思い思いの食事を注文する。やはり野菜は少なめで、並べられていたパンは固くて舌触りが悪かった。それでも、食べられることはありがたい。食べ終わると、フリッツとイルマは先に戻ることになり、残りの3人は隣の酒場で一杯引っかけることにした。


 やはり祝杯を挙げたい。


 お酒の注文をしながら、レオンシュタインは薄暗い店内を見渡した。壁にリュート、太鼓、バイオリンが掛けられており、リクエストに応えて演奏する酒場のようだ。前方にステージがあり、その前に人が踊れるくらいのスペースが広がっている。


 客も20人はいるだろうか。座った瞬間に酒がテーブルの上に運ばれ、すぐに乾杯となる。


「では、バルバトラスさんとの出会いに」

「レオンのバイオリンに」


 乾杯の後、レオンシュタインはさすがに気が緩んだのか立て続けに3杯のビールを飲み干していた。ティアナは林檎ジュース、バルバトラスは赤ワインを飲む。見るとステージでは賑やかな民族音楽を奏でている。少し酔いが回ってきたレオンシュタインは、バイオリン奏者の方に近寄り1つのお願いをしていた。


「あの、私にも演奏させてもらえませんか」


 奏者はいいぜという風にバイオリンを差し出す。レオンシュタインはそれを手に取り音を鳴らした瞬間、酒場がしんとする。お酒に酔っているとはいえ、レオンシュタインの奏でる音は強烈に店内に響く。


「では、何かリクエストはありますか?」


 レオンシュタインが聞いても特に店内からは出てこなかったため、マスターから自分が得意なものを弾くようにと話される。そこで、先ほど弾いた『ディストラーダ』序曲を弾くことにした。店内に素晴らしい音色が響き始める。


 店内を圧倒するような音が響く中、一人の男がふらふらと立ち上がった。

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