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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。


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第5話 許嫁、爆誕!

「朝だぞ、二人とも! ご飯の時間だ!」


 眠い目をこすりながらレオンシュタインが上半身を起こす様子を見て、隊長のビコーが笑顔になる。


「おはよう、よく眠れたか?」

「いえ。地面が固くて」

「近くに小川があるぞ。顔洗ってシャキッとしてこい!」


 ビコーが教えてくれた場所へ二人は寝ぼけ眼のまま歩いていく。


 小川のそばにしゃがみ込んだレオンシュタインは、両手で水をすくった瞬間さわやかな冷たさで目が覚める。その爽快感に押されるように、顔をザブザブと洗って身体全体をシャッキリとさせる。


 その横でティアナも顔を洗う準備を始めたのだが、レオンシュタインの歯磨きが終わるまでモジモジと待っているのだった。


「レオン。先に戻っててくれる?」


 レオンシュタインは素直に寝床の場所へと戻っていく。その後ろ姿を眺めながら、ティアナは丁寧に顔を拭き始める。不思議なことに仮面があっても顔に触れることはできる。やがて辺りに人がいないか何度も確認しながら木の茂みに歩いて行き、するすると服を脱ぎ始める。


(やっぱり、水浴びをしないとね)


 均整の取れた肢体に滑らかな白い肌が眩しく、金髪が朝日を浴びてキラキラと輝きながら肩にかかる。


(誰かが見てたら大変。でも、朝からこんな水浴びをするとは思わなかったな)


 布で素早く身体をこすり、音がしないように気をつけて肩まで水につかる。暖かいお湯に入るシーンを想像しながら、水の冷たさを我慢する。それでも我慢しきれず、すぐに水の中から出て茂みへ移動してしまった。


(ん?)


 川向こうの茂みが不自然に揺れた気がして、まさかと思いながら魔法を詠唱する。


「雷の矢!」


 ゴウッと3つの黄色い矢が茂みに向かって飛んでいき、狙った場所の葉っぱを空中に舞い散らす。そこに人影はなく、自意識過剰だったかなとティアナは自分の行動に顔を赤くする。その恥ずかしさを誤魔化すように急いで食事の場所へと戻っていった。


 息を切らしているティアナに、ビコーが厚めのハムと白いチーズ、赤いトマトを挟んだパンを差し出す。


「では食べよう」


 ビコーが話すや否や、昨日から何も食べていなかった二人はパンにかぶりついていた。チーズが絶品でトマトの味がまろやかになり、ハムも弾力があり食べ応えがある。


「おいしいでしょ。うちの村で作ったチーズだから」


 ルイーズの話を聞きながら二人は夢中でパンと格闘する。


 二人の様子を眺めながらビコーは焚き火に新たな枝をくべる。パチパチと乾いた音が響きスギの香りが4人を包んだ。


「なあ、お二人さん。なんで旅なんかしてるんだ?」


 ティアナの仮面を外すために教会を巡っていると、二人はあらかじめ考えていた理由を話す。


「呪いか何かなの?」


 目を潤ませたルイーズが今にも泣きそうな声になる。


「いえ、父が私を守るために神に祈ったと母から聞いています。詳しい理由を聞く前に母は亡くなってしまいました」


 父親が死んでから1ヶ月もたたないうちに母が亡くなったと聞いたルイーズは、思わずティアナを抱きしめていた。


「そんな事情があったなんて……。神はあなたの願いを聞いてくださいますよ」


 その暖かさに包まれながら、ティアナはルイーズの胸に頭を預ける。


「ねえ、ビコー。一緒にヴェズレーまで行ったらどうかしら。奇跡の泉の近くに教会があったはずよ」

「ヴェズレーって、もしかして……」

「そう、フランダース地方にある小さな町だよ。ここから1ヶ月ほどかかるかねえ」


 ぎゅっと抱かれたままのティアナは悲しそうに路銀不足を二人に伝えると、そっとティアナを離したルイーズは胸の前で十字架を切る。


「いいのよ。お金なんて。これも神の思し召しですよ」


 ビコーは話の矛先をレオンシュタインに向けてくる。


「ところで、あんたは護衛かい? 腕っ節は強そうに見えないけど」


 薪がガサッと音を立てる。二人ともレオンシュタインの設定までは考えていなかった。


「あ、ぼくはティアナと一緒に住んでまして」

「一緒に? なら、使用人かい?」


 レオンシュタインは慌ててかぶりを振る。


「いえ。彼女は、そのう……私の身の回りの世話を」

「じゃあ、旦那さんかい?」


 真実しか話せない正直者のレオンシュタインは、額に汗を浮かべ、しどろもどろになっている。このままではボロが出るとティアナはレオンシュタインの手を握りしめる。


「私は許嫁なんです」

「ええ!?」


 ティアナ以外は全員驚いた。戸惑うレオンシュタインに向かってティアナは話を合わせろとばかりに足をぎゅっと踏む。


「はあ、はい。ティアナは許嫁です」

「そうかい。あんたも大変だな」


 その様子を微笑ましく感じながらもルイーズは声を潜める。


「でもティアナちゃんは目立つからね。気をつけなよ」


「そうなの?」と振り返るレオンシュタインに対して、ティアナは首をかしげるだけだ。


「気付いてなかった? ティアナちゃん、金髪でスタイル抜群でしょ。そりゃあ見ちゃうわ」

「気をつけた方がいい。身体や髪を隠すべきだな」

「そうだ!」


 ルイーズは自分の荷物置き場へ戻ると、薄い黄色の布きれを握りしめて戻ってくる。


「少し古ぼけてるけど、これで頭を隠しなさい」


 笑顔でお礼を言いながらティアナはスカーフを仮面の周りに巻き付け始める。確かに髪も仮面も目立たないような気がする。


「あと1時間で出発するから支度をしておいてね」


 二人が手を振って自分たちの寝床へ戻るのを見て、ティアナは胸の鼓動を隠しながらレオンシュタインに話しかけていた。


「ごめんなさい、レオン。そ、その……許嫁……」

「ああ、これからはその設定でいこうね」


 屈託無く答えるレオンシュタインに、ティアナはイラッとして彼の足を蹴った。恥ずかしさを隠すように、そそくさと彼から離れて自分の荷物をまとめ始める。


(一人で意識して。バカみたい)


 足をなでながら、レオンシュタインはティアナの行動について、ひとしきり考え込んだ。


(何で、蹴られたのかな?)

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