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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。


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第49話 礼拝でのハプニング

 王国歴162年10月18日 18時頃 ケイトの教会にて――


 夕方、一行はいつものように教会の礼拝に出かけた。その日は、地元の聖歌隊が特別に歌うこともあり、教会の長椅子に50人ほど座っているのが見える。静けさはなく、歌を期待する喧噪が教会に溢れていた。


 司祭の話が始まると、教会内にしんとした静けさが広がる。皆が祈りを捧げる中、オルガンの演奏が始まる時間になっても教会内は静かなままだった。演奏者が何度ペダルを踏み込んでもオルガンの音が出ない。少しずつ異変に気付いた人たちは、これからどうなるのかと隣同士で話し合っている。


 聖歌隊にゆっくりと近づいたケイトは聖歌隊のリーダーと対応を話し合った。音楽なしで歌うことも可能だとリーダーは話すのだが、できることなら演奏と合わせたいケイトだった。オルガンの演奏を楽しみにしている人も多いのだ。


「でも今日は無理ね。音楽なしでやりましょう」


 後ろで話を聞いていたレオンシュタインは勇気を出してケイトに話しかけていた。


「あ、あの……。ぼくが演奏を、し、しましょうか?」


 レオンシュタインはいつでも誰にでも親切だと、ティアナは優しい提案に口元が緩んでいた。壁に寄りかかっていたイルマも、スカーフの奥に隠れている頬を緩ませる。


「それは嬉しいのですが、本当に弾けるのですか?」

「大丈夫です。リハーサルで演奏してた曲ですよね」


 小走りで部屋に戻ったレオンシュタインは、バイオリンのケースを抱えて急いで戻ってくる。ケースからバイオリンを取り出し調弦を始めると、レオンシュタインがいつも身につけていた指輪がすっと消えたのだった。


 師匠の言う通り5年間弾き続けた結果なのだが、レオンシュタインも含め誰もそのことに気付かなかった。調弦中にレオンシュタインはその異変に気付いた。


「何だか、弦が軽いな」


 弦に重さを感じないのに音が強烈に響き、弱く弾いてもフォルテッシモの音になる。皆が待っているため調節に時間はかけられない。何度か弾き直してようやく思った通りの音が出せるようになった。やれやれと思い周囲に顔を向けると、目を丸くしてこちらを見つめている。


 あまりにも音が美しく、レオンシュタインの立っている場所が光に溢れているように見えたのだ。聖歌隊の1人が思わず感嘆の声を出すほどだった。準備完了ですよとレオンシュタインはケイトに目配せした。バイオリンの音色に、ただならぬものを感じたケイトの声が上擦る。


「で、では、賛美歌27番を歌いましょう」


 10人の聖歌隊と50人の町民がバイオリンに合わせて歌い出した。繊細な主旋律と情感を盛り込んだビブラートが響き渡る。ところがバイオリンの音が圧倒的なため、みんな歌をやめて演奏に聞き入ってしまったのだ。


 周囲に感動の涙を悟られないよう、イルマは顔のスカーフを深く顔にかけ直す。ティアナは頬に涙が流れてしまうのを抑えられない。


 気持ちよく音を鳴らしていたレオンシュタインだったが、誰も歌っていないことに気がつき演奏をやめてしまった。


「あれ? 音、外れてました?」


 きょろきょろと周囲を見渡しながら、ティアナに「どうだった?」と小声で尋ねる。みんな音に圧倒されてたよと言いたいティアナだったが、涙が流れて上手く言えない。


 こんな時、仮面はありがたい……とティアナは思う。


「音が大きすぎたんだと思う。少し抑え気味に弾いたら?」

「そ、そう? 大きすぎたのか。じゃあ、少し小さな音で弾こうかな」


 ティアナは感動をかみ殺してケイトに提案する。


「シスター。少し音を抑えさせますね」


 はっと気がついたようにケイトがティアナを見つめる。そうですねと答えた時、座席の一番前に座っていたおばあさんが、レオンシュタインに向かって話しかけてきた。


「あのな、旅のお人。私らの町じゃ娯楽が少ない。たまに教会で聞く歌が私らの楽しみ。今日は歌うより、その……聞かせてくれないかねえ。あんたのバイオリンを。神様も許してくださると思うよ」


 隣に座っていた野良着の男も続けて話す。


「久々に教会に来て、あんたのバイオリン聞いたんだけど……。なんつうか、音楽っていいもんだなって思ったんだ。もう少し聞かせてもらえるとありがてえな」


 ほかの人たちも口々に賛同の声を上げ、薄暗い蝋燭の光に照らされた教会に暖かさが広がっていた。


 レオンシュタインは喜んで、ケイトに是非を確認する。


「神も許してくださると思いますよ。お願いできますか?」


 満面の笑顔でケイトはレオンシュタインに依頼する。レオンシュタインはティアナの方を振り向き、小声で音を抑えた方がいいか確認する。


「全力がいいに決まってるでしょ」


 全力でしか弾けない男なのだ。イルマも指で天井を指し、もっとやれと合図を出す。


「そうだね。じゃあ、賛美歌を2つ、元気が出そうな曲を1つね」


 そう話した後、レオンシュタインは口の中でぶつぶつ言い出した。曲のイメージを考えているらしい。3分くらい経った頃、レオンシュタインは顔を上げ、みんなを向いて宣言した。


「じゃあ、やります」


 教会内に拍手が響き渡り、それが収まるのを待ってレオンシュタインは賛美歌を弾き始めた。教会内に美しい調べが溢れ、先ほどより本気で弾いているのが分かる。何人かは涙が落ちるのを隠そうともしない。一番後ろの席で目を瞑っていた黒服の男ですら肩を震わせている。


 もう誰にも止められない。


 後半のパートになるにつれ神の優しさと愛がますます旋律に乗るようになり、聖歌隊のメンバーですら号泣していた。礼拝なのにと思いつつ、ティアナも涙を抑えられない。

 

 一緒に来ていたフリッツは、感動と驚愕を抑えるのに苦労していた。


(あの、いつも横でのんびり話しているレオンさんは、このような素晴らしい才能をおもちだった。やはり、共に過ごしてみなければ人の真価は分からない)


 終わっても拍手はなく、みんな感動につつまれたままぼうっとしている。


 それを気にすることもなく、続けてレオンシュタインは一番有名な賛美歌7番「主とともに」を弾き始めた。こんな暖かさにあふれた曲だったかと思わせるくらい素敵な曲になっていた。一番前に座っていた髭面の男は、ずっと目と口を開きっ放しのままになっていた。

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