表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/62

第48話 王都への道

 王国歴162年10月15日 18時頃 フリッツ馴染みの宿にて――


 エイムハウゼンの町に入り、フリッツがよく利用している山鳩亭の前に馬車が停められる。心なしか活気がなく、中に入ると宿泊者はレオンシュタイン一行の他に1組しかいなかった。受付の女将さんの顔色からも景気の良くないことが察せられる。


 宿代は安いほうだと教えられたのだが2部屋を借りて銀貨8枚を支払うことになった。以前はもっと安かったと、フリッツは部屋で荷物を降ろしながら溜息混じりに話していた。


「最近は景気が悪いですからね」


 確かに馬車の荷台から眺めたエイムハウゼンの風景はどこか寂し気で、人々の笑顔もあまり見られない。


 食堂まで下りていくと客はレオンシュタイン一行しかおらず、料理人も手持ちぶさたのように窓際で煙草を吹かしている。レオンシュタインたちが席に着くと料理人も厨房へと戻り、5分ほどでパンとソーセージとザワークラウトだけが運ばれてくる。

 

 ドンと音を立てて食べ物が置かれ、それだけで悲しい気持ちになる。


「こんな店ではなかったんですがねえ。今年は不景気そうですね」


 フォークに刺した小さなソーセージを食べながら、フリッツは謝罪した。レオンシュタインは、寂しい食事内容よりも気になっていたことがあった。


 それは、この町エイムハウゼンでフリッツとの契約が切れてしまうことだった。この5日間という短い期間の中で、フリッツとの出会いはレオンシュタインを大きく変化させた。深い洞察力と慈しみに溢れた言動など、単なる一介の馬車屋とは思えない。伯爵家の中では出会えなかった「本当に頼りになる存在」に思えるのだ。


 これからの旅にフリッツに同行してもらいたいとレオンシュタインは心から願っていた。


 けれども、この段階でそれをお願いするのは憚られたし、気持ちだけが先走っているようにも感じる。食後の小さなプラムをかじりながら、思い切って提案をしてみた。


「フリッツさん、私たちを王都まで運んでもらえないでしょうか?」


 フリッツはテーブルの向こうで難しい顔をして考え込んでしまった。レオンシュタイン、ティアナ、イルマは互いに顔を見合わせる。夕食のテーブルは静けさに包まれたまま、時間が過ぎていった。レオンシュタインが3つ目のプラムに手を伸ばした頃、ようやくフリッツは覚悟を決めたといった顔つきになる。


「実はリンベルクで長期の仕事が3件、待っているのです。お金も王都へ行くレオンさんの5倍ほど稼げます」


 やはり虫のいい話だったかとしょんぼりしていると、フリッツが笑顔で話しかけてくる。


「でも、このわずかな旅の間にレオンさんと話ができて、とても楽しかったんです。おおげさに言えば「運命」ってやつを感じたんですよ」


 レオンシュタインも盛んに頭を上下させている。同じ気持ちなのだ。


「喪男同盟のケスナーさんからも「レオンちゃんを助けてやってくれ」って頼まれてますからねえ。王都まで同行します。ただ、馬のために3日間は休息日を設けたいのですが……」


 馬の休息日のことを話すところがフリッツらしい、とレオンシュタインたちに笑顔が広がる。


 自分たちとの契約を優先させてくれたフリッツに、3人はホッとしつつ大歓迎の意を示した。フリッツの馬車の乗り心地の良さは徒歩とは比べ物にならない。それを実感していたイルマとティアナは特に喜んだ。


「ありがとう、フリッツさん」


 二人からお礼を言われフリッツは顔を赤らめる。また、レオンシュタインも笑顔で握手を交わした。


 自然にこれからのルートの話になり、フリッツはテーブルの上に地図を広げる。


「王都に行くにはコムニッツ公爵領を通るルートとレーエンスベルク辺境伯領を通るルートがあります。コムニッツ側を通ると、馬車でだいたい5週間、レーエンスベルク側だと3週間程度で到着します」


 地図で見ると、コムニッツ公爵領は東回りのコースで、王都に行くためには中央山脈の東側を大きく迂回しなくてはならない。逆にレーエンスベルク辺境伯領のルートは山脈の西側を通り、ほぼ直線である。


「3週間だと料金は銀貨が42枚となります。5週間だと70枚ほどです。ご予算から考えるとレーエンスベルク方面の方が宜しいかと。私も王都で仕入れたい品物がありますので、ついでと言っては何ですが運賃を3割引にしましょう」


 4人は同意のハイタッチをし、レーエンスベルク辺境伯領のルートで王都に行くことが決定した。


 銀貨29枚(約29万円)で王都まで送り届けることをフリッツは約束し、レオンシュタインと固い握手をかわす。すぐにお金を支払おうとするレオンシュタインを、フリッツはやんわりと押しとどめていた。


「今日までの分は頂きます。将来は何があるか分かりませんから」


 今日までの分、銀貨10枚を支払っても、レオンシュタインの懐にはまだ銀貨53枚が残っていた。


 食事が終わり部屋に戻ると、レオンシュタインはいろいろ考えこんだ。まずはフリッツさんとの縁が切れなかったことが何よりも嬉しい。また、お金に余裕があること、屋根があるところで眠れることは安心の度合いが違う。


 きちんと洗濯されたシーツに頭を埋めながら、レオンシュタインはゆっくりと眠りにつくのだった。


 §


 3日後、ついに王都へ向けて出発する日になった。


 朝食中にフリッツから、この先、教会付属の施設を宿として利用してはどうかという提案を受ける。教会施設での宿泊はお金はかからず、雨露を凌ぐことができる。奉仕活動をすることは必要だが、それとて長時間でもない。すぐに決定事項となり、フリッツがよく利用していた教会を訪ねることになった。


 その馬車の荷台で、イルマとティアナはリンベルクでやっていたように働きたいとレオンシュタインに申し出ていた。心配ではあるものの、確かにユラニア王都までの所持金が銀貨30枚程度では心許ないのは確かだ。


 レオンシュタインはくれぐれも気をつけるように、と釘を刺して許可を出す。荷台の中で、ティアナとイルマは神妙な顔つきでうなずくのだった。


 領境の町に近いトロップの町は教会が中央にあり、エイムハウゼンほどではないが高い尖塔が目印になっている。教会に着き、宿の利用について受付に尋ねると、中から若いシスターが現れて挨拶もそこそこに宿舎の使い方についての説明を始める。


 シスターはエイムハウゼン出身のケイトさんという年若い女性で、礼拝に参加すること、礼拝後に掃除をすることが宿泊の条件だと優しく教えてくれた。4つのベッドを備えている部屋が1つ空いており、部屋を衝立で2つに分けられるため男女でも大丈夫とのことだった。


 レオンシュタイン一行は喜んで宿泊することを決めた。


 その日からケイトさんの教会を拠点として、活動を始めることになった。イルマは警邏隊で働き、ティアナは魔法ギルドで解呪のバイトを始めた。どちらもリンベルクと比べると半額ほどの給金であったが、それでも二人は文句も言わずに働いていた。


 レオンシュタインはバイオリンの練習に明け暮れ、あっという間に3日間が過ぎようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ