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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。


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第45話 喪男たちとの別れ

 王国歴162年10月13日 朝6時頃 宿の部屋にて――


 季節はあっという間に10月を過ぎ、リンベルクには1ヶ月近くも滞在したことになる。


 解呪の仕事をし続けたティアナは自然に魔力が増大し、マーニから教えてもらった『雷の嵐』も使いこなせるまでになった。イルマはイルマで2日に1回は警邏活動に出かけていた。後半は盗賊と遭遇する機会が減り、あまり稼げないとぼやいていたけれど。


 リンベルクを離れる前日、レオンシュタインたちは部屋で全財産を確認することになった。


「レオン! 結構、稼いだよ!」

「主、びっくりするかも!」


 そう話すと、机の上に自分たちの袋を逆さにする。ザラザラと白い硬貨が積み重なっていく。ティアナは銀貨64枚(約64万円)を、イルマは銀貨48枚(約48枚)を稼いでいた。


「二人とも……ありがとう!」


 心からの感謝の言葉に、二人はニマニマした顔を隠せない。イルマは照れ隠しのように、


「リンベルクはお金が稼ぎやすいね」


 と、何でもないという態度を見せようとしていた。けれども、


「イルマさんが無事なまま終わって、ほっとしました」


 と言われた瞬間、レオンシュタインに抱きつこうとしてしまう。当然、ティアナに肘で防がれたけれども。


 財布に残っていた銀貨11枚と大銅貨4枚も机に置き、レオンシュタインが全てのお金を数えていく。


「所持金は銀貨123枚(約123万円)、大銅貨が4枚(約4000円)です!」


 期せずして3人から拍手がわき起こる。31日間の滞在費は銀貨64枚で、それを差し引いても所持金は銀貨59枚になり滞在する前より増えていた。


「これなら1ヶ月以上、生活できるね」


 ほっとした表情でティアナは胸をなでおろす。


「これからも節約は必要だな。主の旅はあと10ヶ月も続くからね」


 顔を引き締めながら呟くイルマだったが、やはり嬉しい気持ちは隠せない。二人に心からのお礼を伝えたレオンシュタインは、安心して出発を宣言する。


 宿の主人に支払いとお別れを済ませ、玄関から外に出て行くと、宿の前に魔法院副院長マーニと複数の男たちが立っていた。


 マーニと対面したティアナは心を込めてお礼を伝える。


「マーニさん、本当にありがとうございました」


 笑顔で何でもないとマーニは話し、今日、副院長を辞めてきたと宣言した。どうやら本格的に田舎に引きこもるらしい。


「りんごやプラムを育てて暮らすよ。人間相手は、もうまっぴらだね」


 そっとマーニに近づいたティアナは、心を込めてぎゅうっと抱きしめていた。


 その一方、レオンシュタインはむさ苦しいメンバーに囲まれていた。


「レオンちゃん、水臭いぜ」


 団長のケスナーが頭を軽く小突く。木工制作のオリバー、画家のクンツはレオンシュタインに近づき、名残を惜しむ。


「俺にお礼を言わせないつもりかよ」


 照れくさそうな表情でディーヴァが前に進み出る。銀貨100枚(約100万円)の寄付はディーヴァにとって衝撃的なことだった。


「お前のおかげで目を治療する希望が見えてきた。残り銀貨80枚、なんとしてでも稼ぐからな」


 見えないまま伸ばしてきた手をレオンシュタインは気持ちを込めて強く握りしめた。


「次に会うときを楽しみにしてます。ディーヴァさん」


 そのまま軽く抱きしめ、互いに肩を叩きあった。後ろからは、ハラルドが頭をかきながらレオンシュタインの前に出てくる。


「レオン、懐中時計はまだできてないんだ。次に会うときまでには作っとく」


 レオンシュタインが気にしないと握手をすると、横からルカスが蔓で編んだ籠を差し出した。


「レオン、この中に俺の作ったジャガイモのパンケーキが入ってるんだ。みんなで食べてくれよ」


 ずっしりと重い籠を、レオンシュタインは腹の前に抱えていた。


「イルマさん……にも、よろしく言っておいてくれ」


 小さな声だったが、ルカスはその一言を付け加えるのを忘れなかった。でも、その言葉をイルマは聞き逃さなかった。


「何? ルカスさん。私に餞別?」


 ベールを付けたイルマが笑顔で近寄ってくる。


「そうなんだ。自分のジャガイモを忘れてほしくないから、餞別はパンケーキにしたんだ。美味しいよ」

「え、すごい楽しみなんだけど」


 そう言うとイルマはルカスに手を差し出し、ルカスは一瞬怯んだが笑顔で彼女の手を握った。


「ありがとう、ルカスさん」

「イルマさん、出会えて嬉しかった」

「こっちこそ! 私、農家の人を応援することにした!」


 最後にアルベルトが、シルクハットを被ったままレオンシュタインに近づいてくる。


「レオン、オイゲンは会えないのを残念がってたぞ。何でも水道の仕事が舞い込んだって、急遽とんでったよ。絶対にまた会おうって伝言だ」


 そう言うとシルクハットを手に持ち替え、何もないことを確認させる。


「レオンの前途に」


 シルクハットを空中に投げ上げると、その中から3羽の白い鳩が空中に飛び出していった。


「また、会おうぜ!!」

「せえの!」

「喪!」

「喪!」


 同盟の合図を一糸乱れずに繰り出す。感動的な場面なのだろうが、はたから見ているとヘンテコな集団にしか見えない。でも、レオンシュタインにとっては初めての友人、大切な男たちだった。


「また、会いましょう!」


 レオンシュタインは大きく手を振り、大切な仲間たちとの別れを惜しむのだった。


 レオンシュタインが去って行った後、ハラルドがポツリと呟く。


「なあ。……あいつ、女連れじゃね?」


 みんながあえて触れなかったことにケスナーは突っ込みを入れる。


「おいおい、だとしたら喪男同盟にふさわしくないんじゃ」


 ケスナーの言葉をディーヴァがやんわりと否定する。


「 別に美人でもなかったんだろ。いいことにしとけよ」


 周りのみんなも頷き、納得する。イルマの素顔を知っているルカスは、会えなくなるのが嫌なので黙っていることにした。


「じゃあ、これからも喪男同盟、やっていきますか」

「うい~す」


 そう言って彼らも日常の中に戻って行くのだった。

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