第43話 お客さん、こういうお店は初めて?
王国歴162年9月25日 午後20時頃 鷲亭にて――
その日、レオンシュタインは仲良くなったオイゲンと何度も乾杯をしながら会話を楽しんでいた。水道を敷設するというオイゲンの話は大きなロマンがあり、レオンシュタインは飽きもせずに何度もその話を聞きたがった。
そこにケスナーが乱入する。
「レオンちゃん、明日は大人の楽しみってやつを体験しに行こう」
ドンとレオンシュタインの肩に手を絡め、ひそひそ声で語りかける。
「大人の……楽しみ?」
「そうさ、今まで行ったことがなかったろ」
「は、はい」
レオンシュタインから旅立つことを聞いていたケスナーとオイゲンが、急遽、企画してくれたのだ。
「まあ、期待しててくれ」
「分かりました!」
店内でイルマが聞いていたか気になったレオンシュタインは、慌ててり後ろに目をやる。どうやら聞こえていないような雰囲気だ。
その日の喪男同盟はそこで解散となった。
宿に戻り、部屋に入ってからレオンシュタインは冷静さを装ってティアナに話しかける。
「実は明日はケスナーさんと一緒に出かけることになったんだけど」
「あら、どこに行くの?」
「リンベルクの面白いところを紹介するって言ってたけど、どこかは教えてくれなかったなあ」
別に不審には思っていないティアナを見て、レオンシュタインは密かに安堵する。
「うん。じゃあイルマが付いて行くのね」
それだけは断固阻止だ、と考えたレオンシュタインは慌てて手を振った。
「いやいや、護衛はケスナーさんがしてくれると思う。弓の名人らしいから」
「分かった。じゃあ、気をつけてね」
冷静さを装い、うまくいったことを喜ぶレオンシュタインだったが、イルマはその瞳の奥で何かを考え込んでいるのだった。
§
「レオンちゃん、遅いよ」
翌日の夕方、鷲亭に喪男同盟のメンバーが勢ぞろいしていた。もちろん、行き先はお姉さんのお店だ。
「みなさん、今日はレオンちゃんのデビューの日です。クールな飲み方を教えてあげましょう」
「うい~す」
メンバーは旧市街の奥へ向かって、どんどんと進んでいく。繁華街を過ぎ、あっという間に行きつけだというお店にたどり着いた。
「さあここだ。綺麗なお姉さんがいっぱいだぞ」
「フォー!」
「ローレちゃんは俺のもの!!」
レオンシュタインのドキドキが少しずつ高まる中、全員が階段を下り薄暗い店内に入っていく。どぎつい香水の匂いはせず、むしろ石鹸の淡い香りが漂ってくる。レオンシュタインのドキドキは最高潮に達する。
「いらっしゃ~い」
身体を薄い布で覆ったお姉さんが出迎えてくれる。店内は薄暗いためはっきりとは見えないが、もし明るいところだったらいろいろ見えてしまうだろう。肌色はかなり多めだった。
「今日は初めてのお客さんを連れてきたぞう。レオンちゃんだ」
「わあ、かわいい」
「お姉さんがサービスしてあげる」
レオンシュタインもまんざらではなく、両脇を可愛いお姉さんに挟まれながら飲み会が始まった。
「じゃあ、レオンちゃんのデビューに!」
「乾杯!!!」
みんながジョッキを高く上げ、レオンシュタインは横にいた女の子と遠慮がちにジョッキをぶつける。
「ねえ、レオンちゃんは何才?」
「18歳です」
「あら、若~い。こんなお店に来ていけないんだあ」
お姉さんにほっぺたをつつかれるが何だか嬉しい。近くに座っているケスナーとオイゲンは、いかにも常連といった顔でアドバイスをしてくれる。
「レオンちゃん。ここは俺たちがよく使う場所だから安心だよ」
何が安心なのかオイゲンに聞きたかったが、緊張したレオンシュタインは何も言えなかった。顔役の女の人がやってきて、新人の女の子が入ったことを教えてくれる。
とっても可愛いい子だと「可愛い」を強調してくるが、こんなお店ではいつものことなので話半分に聞いておくのがマナーだ。
ケスナーが会話に応じる。
「若い子か、それは珍しいね」
「ついさっき入ったばかりなんです」
そう言って横に立っている新人を紹介する。ベールをつけているため顔はよく分からないが、均整のとれた肢体と大きな胸に目を引かれてしまう。薄いベールからのぞく口元は赤くて悩ましく、常連のはずのケスナーですらその美しさに圧倒されてしまった。
「へえ。確かに……これはすごい新人さんだね」
「でね、ケスナーさん。この子がね、あなたたちと話してみたいんだって」
「もちろん、いいぜ!」
ケスナーとオイゲンの間に新人の女の子は座ったけれども、あまり会話は弾まなかった。今日が初めてだからと、二人は気にもせずに別の女の子たちと話し込んでいた。会話がうまくつながらないレオンシュタインは、もっぱら酒ばかりを飲んでいた。
美味しい酒には違いない。けれども実は度数のきついお酒で、近くに立っていた女の子はハラハラしながらその様子を見守っていた。
「あんまり飲まない方がいいわ。お客さん、初めてでしょ」
そばに立っていた女の人がレオンシュタインの横に座り、話しかけてくる。さっぱりとした顔立ちが美しくレオンシュタインより年上のように見える。
優しそうな声にレオンシュタインはほっとしていた。
「ええ、友だちに連れてこられて」
その女の人は小さく微笑んで、レオンシュタインをからかい始める。
「本当は一番興味があるんじゃなくて?」
「そ、そんなこと」
「いいのよ。男の子だもんね」
照れ笑いをするレオンシュタインだったが嫌な感じはしなかった。
「私、ローレって言うの。あなたは?」
「レオンシュタインっていいます」
ローレはまた小さく笑っていた。
「とっても丁寧な挨拶ね。こんな場所にはふさわしくないわ」
ふわっとした雰囲気に包まれたレオンシュタインは、本当になんとも形容しがたい、むずがゆいような、嬉しいような気持ちになる。
そこへ急に新人さんが割り込み、強引にレオンシュタインの隣に座って、この人と飲みたいとローレに宣言した。少しむっとした様子のローレだったが、どうぞというふうに右手をあげる。
新人さんはそれまでしていた顔のベールを取るのだった。




