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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。


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第42話 ルカスのジャガイモ畑

 王国歴162年9月22日 午前9時頃 アドラー亭の前にて――


 この日、アドラー亭の前にレオンシュタインとイルマが立っていた。イルマは武装している。


 それはこういう訳だ。


 この前の飲み会で、レオンシュタインはルカスと畑に行く約束をしたのだ。今までジャガイモの収穫をしたことがないレオンシュタインは有頂天になっている。ただ、イルマの護衛をどうするかという問題が発生していた。町の中では人に紛れ込みやすいが畑ではどうやっても目立つ。


「主、いっそ夫婦ということにしたらどうだろう?」


 一瞬でティアナに却下される。そんなことをするなら今日は魔法院を休む、とまで言われれば諦めるしかない。けれども、いくら考えても目立たないのは難しい。結局、護衛という本来の仕事をすることに決まる。ただ、女性と親しいことが分かれば、喪男同盟にいられなくなるかもしれない。


 そのため無口な護衛という役割がイルマに設定されていた。


 時間通り、アドラー亭の前にやってきたルカスは、レオンシュタインが女性を伴っていることに驚く。それというのも、イルマの出で立ちは傭兵団の女戦士という言葉がぴったり当てはまるような服装だからだ。しかも宿で打ち合わせたことをすっかり忘れて、親しげに挨拶を始めてしまった。


 設定、台無し……。


「私が護衛のイルマで~す。よろしくね」


 失礼のないようにスカーフを取ってイルマは挨拶する。イルマの美しさに当てられたルカスは、ごもごもと口ごもるばかりだ。イルマは気にすることなく話しかける。


「じゃあ、早速行こう!」


 イルマが出発の合図をするのを見て、レオンシュタインは溜息をついたが半ば諦めてしまう。ルカスもイルマが来るのを拒みはしなかった。3人は連れだって町中を抜けると、やがて前方に森林が見え始める。さらに近づくと、林の奥に整備された畑が広がっていた。


 ルカスの畑は100m四方と大きくはなかったが、よく手入れされていて美しさを感じさせた。


「じゃあ、早速、ジャガイモを掘っていきましょう」

「おう」


 3人はすぐに土の中に手を入れてかき分けると、握りこぶし大のジャガイモがゴロゴロと出てくる。


「えっ? ジャガイモって、こんなにすぐ採れるの?」 


 イルマは驚きと感動を含んだ声でルカスに話しかける。


「地面のすぐ下で成長するからね」


 そう説明しながらルカスはどんどん収穫していく。レオンシュタインも熱中してジャガイモを掘り起こしながら話を続ける。


「収穫、楽しいですね」

「そりゃそうさ。自分が収穫したものを食べるのは最高なんだ」


 夢中になった3人は、どんどんとジャガイモを掘り進めていく。


 そんな中、イルマのお尻がどんとぶつかりルカスが畑の前に倒れこむ。


「ごめん、ごめん。私のお尻が大きかったかな」

「い、いえ、そんなこと」

「そ? じゃ、良かった」


 ルカスは真っ赤になりながらズボンの土を払い、芋掘りを続行する。30分ほどで3つの麻袋が溢れんばかりに膨らむ。


 次にルカスは、二人に食べるジャガイモを選ぶように話す。


 二人は形が丸くて大きなジャガイモを選び、ルカスのところに持っていく。ルカスはその芋を丁寧に水で洗い、蒸し器の中に入れる。蒸している間に、イルマは外置きのテーブルを拭き、皿を三人分並べていた。


「ルカスさん、この塩はどうすんの?」

「ああ、それも使うよ。ここに置いて」

「おけ」


 ルカスとイルマは緊張せずに会話をするくらい打ち解けていた。というよりイルマはいつも通りだった。年上だろうと年下だろうと誰とでもすぐに親しくなれるし、差別もしない。それも一種の才能だろう。


 ジャガイモが蒸しあがり、レオンシュタインが手のひらに1つ置く。


「あ、あちちち!」


 と、左右の手に交互に放っていく。皮が薄くて破れているところから新鮮な黄金色がのぞいている。イルマがジャガイモを半分に割ると中から熱い湯気が吹き出して、美味しそうなことこの上ない。


 イルマは無言でそれを口に入れる。熱いけれど、ほくほくでしっとりとした舌触りだ。


「え? めちゃくちゃ美味しいんだけど!」


 嬉しそうに頷いたルカスは塩やバターを使うように促す。もっと美味しくなるというのだ。


 早速試してみたイルマは「今までに食べたことがないくらい美味しい」「ジャガイモを見直した」と興奮気味にルカスに話す。何よりの言葉だと、ルカスはとても喜んでいた。


 3人の前の皿から、あっという間にジャガイモがなくなってしまった。お腹が一杯になってしまった3人はしばらく椅子で休んだ後、片付けに入る。


 皿を洗うためにイルマは裏の井戸に走っていった。


「綺麗な人だね。イルマさんは」


 走っていくイルマを見ながらルカスが話す。


「そうですね。もの凄い美人さんです」


 手を休めることなくテーブルを片付けるレオンシュタインに向かって、そういう意味じゃないとルカスは頭を振った。


「イルマさんは心が綺麗な気がするなあ。出合った時からずっと笑顔なんだ。自分は年上なのにオドオドしていたけど、全然気にしないで、ずっと普通に接してくれてたな」


 レオンシュタインは、その気持ちがよく分かる。誰に対しても同じ態度というのは意外に難しいし、まして初対面なのだ。


「だから、今日、ずっと気楽だった。女の人の前でこんなに普通に振る舞えたのって久しぶりだよ。自分は作物と向き合うことが多いから、本当に嬉しかった」


 そこにイルマが割り込んで来る。


「いや、自分も嬉しかったね。だってさ、あんなに美味しいもの食べたの、初めてかもしんないからね。それくらいのジャガイモだったよ! ありかとう、ルカスさん」


 イルマが屈託のない笑顔のまま手を差し伸べると、ルカスは手ぬぐいで拭いた手でしっかりと握り返した。


「へへっ。働き者の手っていいね」


 イルマの笑顔にルカスは顔を赤らめる。


「じゃあ、帰ろうか。主」


 ルカスからジャガイモをたくさんもらい、宿までの道を一緒に歩く。ルカスはイルマに作物のことを一生懸命説明し、イルマはそれを飽きもせずにふんふんと聞いている。実際、ルカスの話は面白く農業への愛を感じさせる。


 ついにアドラー亭の前に着き、お開きとなった。ルカスはレオンシュタインにお礼を言わずにはいられなかった。


「今日はありがとうな、レオン。レオンが来てくれて嬉しかった。それに、イルマさんが来てくれて同じくらい嬉しかった」


 二人でがっしりと握手をし最後の挨拶をする。


「喪!」

「喪!」


 いつもよりもビシッと親指を立てられた気がする。


「じゃあ、またなレオン。イルマさん、ありがとう」


 そういうとルカスは去って行った。


「素敵な人ですね」


 レオンシュタインの横のイルマが笑顔で話す。


「イルマさんも、あんな優しい人が伴侶はんりょだと幸せだよ」


 何気なく話した一言に、イルマはレオンシュタインの腕をつねっていた。


「痛!」

「主、今の言葉はひどい。私を嫌いになった?」


 イルマの悲しそうな表情にレオンシュタインは慌てて否定する。


「私は傷つきました」


 どうしようとレオンシュタインはオロオロしたままだ。


「主、ぎゅっとしてくれないと私の悲しみは消えそうにない」


 無理難題を押し付けてきたけれど、イルマを悲しませてしまったことはきちんとあやまりたい。


 イルマにそっと近づく。


「ごめん。イルマのことは嫌いじゃないよ」

「じゃあ、好きなんですね」


 ん? なんでこんな話になったのか。


(められた!)


 レオンシュタインの顔は青ざめたが、もうイルマとの距離はほとんどない。


「さあ」


 イルマがハグを催促した瞬間、氷点下の冷えた声が響き渡ってきた。


「こんな往来で何をしていらっしゃるのかしら」

「ティア!」


 助かったと思ったレオンシュタインだが、ティアナはいつもの仁王立ちでこちらを睨んでいた。


「主、仲直りのハグがまだですよ」


 その瞬間、イルマはレオンシュタインを思い切り抱きしめていた。


「やっぱり二人で行かせたのが間違いでした」


 ふうとため息をつくと、ニコリと口元に笑みを浮かべる。


 「助かった」とレオンシュタインが思った瞬間、お約束の雷が二人に落ちてくるのだった。

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