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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。


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第41話 ティアナとお出かけ

 王国歴162年9月20日 朝6時 リンベルク 宿屋の部屋にて――


「レオン! 今日は私とお出かけだよ!」


 朝、窓を開けると太陽の日差しがそのまま部屋の中に届き、ベッドから立ち上る塵までよく見える。


「……ティア、おはよう。……早いね」


 朝食前の朝6時である。もう少し眠っていたいレオンシュタインだったが、ティアナに無理やり起こされてしまう。昨夜の騒動でティアナを怒らせてしまったレオンシュタインは、今日一日、ティアナと過ごすことを約束させられたのだ。


「時間は有限。あっという間に過ぎ去ってしまいます。久々の休みなんですから大切にしたいんです」


 無理もない。毎日、魔法の修行とアルバイトをしているけれども、やっぱり遊びたいし、買い物もしたい。ティアナも18歳の乙女なのだ。朝食を食べながら、ティアナはイルマに念を押すことを忘れない。


「イルマ。今日は護衛はいらないから、ゆっくりしてて」

「ええ? 暇だな」

宿()()ゆっくりしてて!」


 優しく話しているけれど絶対に来るなというオーラを発しており、イルマは首をすくめて約束する。朝食もそこそこに、ティアナはレオンシュタインを引っ張りながら宿を出て行った。


「ごゆっくり~」


 窓から手を振り、笑顔で二人を送り出すイルマだった。


 早朝にもかかわらず、市場はたくさんの買い物客で賑わっていた。魚の匂いが漂う魚市場に目を奪われながら、二人は人混みを抜け市庁舎まで歩く。町の中央で一際目立つ、古く巨大な5階建ての市庁舎に到着した二人は、近くで賑わっている喫茶店を見つける。


 店の外に設置している椅子が2つ空いているのを見つけると、そこに席をとりメニューを広げる。レオンシュタインは紅茶を、ティアナは林檎ジュースを注文する。店員の後ろ姿を眺めながら、ティアナは両手の指先を絡めて言いにくそうに話を切り出す。


「ねえ、レオン。迷惑じゃなかった?」

「え、何が?」

「その……二人で出かけること」


 全くそんなことはないと否定したレオンシュタインは、なぜ? という表情でティアナを見つめる。そこに、注文していた飲み物が到着した。レオンシュタインは一口、紅茶を口に含むと、タンニンの苦さと爽やかなオレンジの香りが広がった。飲み込むと熱い塊が喉を通り、腹にずしんと落ちる。


「レオンはイルマといる方が嬉しいんじゃないかって」


 カップにほんの少し口をつけたティアナは、このジュース新鮮だねと少しだけ寂しそうな声を出す。


「そんなことないよ。ティアと一緒に出かけられて凄く嬉しい!」

「そ、そう? よかった~」


 いつもの明るい声が戻ったティアナにレオンシュタインは安心する。お菓子を注文しつつ、広場に目をやると様々な人たちが働いている様子が目に入る。レオンシュタインはティアナやイルマのように自分でお金を稼いでいないことを、負い目に感じていた。二人に働かせてばかりで、自分は毎日バイオリンの練習をしている。


 ひもだ……。


「ティア、ごめんね」

「えっ? 何が」

「お金を稼いでないこと」


 ティアナの仮面が少しだけ赤くなっているような気がする。


「レオン! 今は私たちができることをしてるだけ。いつかレオンにもその順番が回ってくるわよ。だから、気にしない」


 覚悟しときなさい、というティアナのドヤ声を聞いて、ほっとするのと同時に早く自分の順番が回ってくればいいと思うレオンシュタインだった。


「そんなことより今日は仮面を取ろうかな」

「ちょ、それは……」

「何よう! 嫌なの?」


 止める間も無くティアナは解呪の呪文を唱え、身体全体が白い光で包まれる。別に仮面のままでも気にしないレオンシュタインなのだがティアナにも言い分がある。


「レオン、最近ずっとイルマと一緒だよね。イルマは素顔のままでしょ? イルマってすっごく綺麗だから」


 少しうつむき加減になりティアナは寂しそうに話す。その寂しそうな表情が心に刺さる。


「そんな綺麗な人がずっとそばにいたら、やっぱり惹かれちゃうでしょ」


 すぐに否定するレオンシュタインだったが、ティアナはレオンシュタインの顔を見つめたまま納得しない。


「胸も大きいし」


 少し寂しそうに胸のあたりを押さえるティアナを見て、自分は本当に気の利かない男だとレオンシュタインは痛烈に反省する。ティアナのために素晴らしい1日にしなくちゃいけない。決意したレオンシュタインは、紅茶を全て飲み干してカップをテーブルにカチャンと置く。


「ティア。今日はティアが行きたいところに行くよ。リンベルクの街を楽しもう」


 嬉しそうにティアナはうなずき、レオンシュタインの横にそっと立つ。


「じゃあ、行きましょ!」


 ところが、行きたいところに行くどころではなかった。レオンシュタインが心配した通り、ティアナの容姿が男たちを引き寄せてしまった。


「フラウ、今日はどちらへお出かけですか?」

「今日は、私がリンベルクの街を案内しますよ」

「ぜひ、お名前を教えてください」


 10歩も歩かないうちにティアナは周りを囲まれ、レオンシュタインと離れそうになってしまう。このままではダメだと思ったティアナは、レオンシュタインの手を掴み、全力で走り始めた。


「レオン、丘に行くよ」


 人混みを駆け抜け、リンベルクの街を一望できるアルテンブルクの丘を目指す。看板には「丘まで800m」の表示がなされているのを横目に見ながら、二人はひたすら走っていく。レオンシュタインは息が苦しくて、何度も『歩こう』と提案したくなるのだが、ティアナの願いを叶えるためと腹をブルンブルンと揺すりながら走り続ける。


 坂道を駆け上がっていくと目の前に小さな黄色い花が群生した草原が広がっており、黄色い絨毯のように見える。丘には二人の他に誰もいなかった。到着するなりレオンシュタインは思わず、草原の上に寝転んでしまった。はあ、はあ、というレオンシュタインの荒い息が丘に響いていた。


「レオン、私、今でもこの旅が夢なのかなって思うんだよね」


 丘の上から街を眺めているティアナは独り言のように話し、少し肌寒い風が吹くのを感じたレオンシュタインは思わず首をすくめる。眼下にはリンベルクの教会の尖塔がいくつもそびえ立っていた。


「目が覚めたら、城のメイド用のベッドにいて、朝からいろいろ仕事をして、メイド長に怒られて。だから夢なら覚めないでって」


 レオンシュタインもこれまでの旅に思いを馳せ、座り直して一緒に景色を眺めていた。


 30分は過ぎただろうか。


 ティアナの顔には、いつの間にか黒い仮面がついており、その表情を伺うことはできなかった。レオンシュタインが街へ戻ることを提案すると、ティアナもそれに賛同した。二人は小石が敷き詰められた白い道を、ゆっくりと降りていった。


 市庁舎に戻る道の途中で、4歳くらいの女の子が泣いているのを二人は見つける。名前を聞いたり慰めたりしたけれども全く泣き止まない。すぐに女の子を肩車したティアナは、お母さんを探し始める。


 ティアナの仮面にぎょっとした女の子だったが、すぐに頭をしっかり掴み泣き止んでいた。


 大通りに向かって歩き30分くらい街の中を歩いたろうか。遠くから名前を呼ぶ声が聞こえ、お母さんがこちらに走ってくる。ティアナから降りた女の子は、すぐさまお母さんに抱きついていた。


「お母さん!!」

「あ、ありがとうございました」


 母親は深々と頭を下げ、抱かれた女の子はようやく笑顔になる。


「ばいばい、お姉ちゃん」


 しっかりと母親の手を握った女の子を見てティアナは心から喜んでいた。

 

「こういう誰にでも優しいティアが好きだな」


 嬉しくなったレオンシュタインはティアナを見つめながら真顔で語りかける。この男は『好き』という言葉を安直に使いすぎて、いつもティアナを困らせる。ティアナの仮面は茹でたてのトマトのようになり、手をモジモジさせている。


「じゃあ、レオン……。腕を組んで歩いてもいい?」


 そう言うと意を決したようにレオンシュタインに腕を差し出した。


「駄目に決まってるだろ。このイルマさまの前で」


 いつの間にかイルマが目の前に現れていた。


「イ、イルマ! あんたいつから?」

「ずっとだよ、ずっと。気がつかないのはあんたくらいだよ」

「何よ、それ」


 今日も長い時間はレオンシュタインと二人きりになれなかったけれど、ティアナはそれでも幸せな一日になったのでした。

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