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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。


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第40話 電光石火

 王国歴162年9月19日 19時頃 リンベルク歓楽街 西地区にて――


「今日は現れないかな」


 デニス隊長の言葉にイルマはそれがいいと本音をもらす。


「現れない方がいいよ。誰でも面倒ごとは嫌だからね」


 その時、前から歩いてきた一団が突然抜剣した。黒い服装で身を包み、どう見ても一般人には見えない。


「へえ、この町の盗賊はやる気満々だね」

「あっちも報奨金が出るんだと。抜剣!」


 すぐに剣を抜いた4人の刀身は、月明かりにギラリと光る。剣を抜いたイルマは、久々の実戦に皮膚がチリチリする。


 向かってくる盗賊の一人が味方に大声で奮闘を促した。


「おめえら、一人倒せば銀貨3枚だぞ。抜かるなよ」


 デニスの口元に苦い笑いが浮かぶ。


「報奨金もあっちが上か」


 敵は6人でこちらよりも多い。人数を確認するとイルマはすぐに敵の前に立ちはだかった。


「んじゃ、お先に」


 その中の一人に距離を詰めたイルマは、相手の手から剣を落としブレードの広い部分で頬を殴りつける。正に電光石火の早業だ。


「ほい、一人」


 そう言いながら、さらに向かってくる賊に紫電一閃、剣撃をくらわす。くるくると賊のショートソードが空に舞い上がり、時折月光に反射してキラキラと光る。立ち尽くした賊の鳩尾みぞおちを蹴り、意識を失わせる。


「ほい、2人っと」


 味方の状況を確認すると、それぞれが賊と斬り結んでいる。隊長、副隊長は優勢で、隊員は防戦一方のため、イルマはその隊員の所に向かう。


「加勢する」

「あ、ありがたい」


 イルマの豪剣がうなると相手の賊は後ろに跳びのいた。


「ほう、手応えがありそうな……女か?」

「男にゃ見えないね、多分」


 軽口を叩くイルマに男は下卑た口調になる。


「こりゃあラッキーだ。銀貨の他に女まで手に入るとは」

「そう? 手に入る?」

「入るさ」


 そう言うと賊は猛烈に切り込んでくる。先ほどの二人とは比べ物にならない細かい突きを繰り出し、剣で防ぐたびに鈍い音とともに火花が散る。イルマは防戦一方だ。


「ほらほら、どうした。もしかして俺の剣に惚れたのか? 降参するなら優しくしてやるぞ」


 卑しい笑いを顔に浮かべながら話す。その瞬間、ゴウッという音が唸り、男の手元にイルマの剣が激しくぶつかる。


「残念」


 男の剣が鍔元つばもとから折れ、イルマは男の首に剣を当てていた。


「降参しなよ。命までは取らないから」


 けれども賊は舐めるなと言いながら腰のダガーを抜き、さらに切りかかってきた。


「お前にこの剣筋が読み切れるか!」


 イルマが一振りする間に、賊は3回以上切り込んでくる。


「俺のダガーは30人の血を吸ってるぞ」


 得意げに話す賊の右手がダガーを握ったまま空中に跳ね跳んでいた。賊は苦痛に顔を歪め、切られた右手の手首を押さえてうなっていた。


「今度は真っ当に生きるんだね」


 賊の止血をしながらイルマは諭すように話す。賊はぐったりとしていたが命に別状はなさそうだ。周囲を見渡すと、隊長たちも賊を蹴散らしていた。


「イルマさん、大丈夫か?」

「大丈夫に決まってるさ。誰も怪我はない?」


 隊員が右腕を傷つけられていたため、隊長は応急措置をしてから賊の討伐を役所に訴えた。10分もしないうちに、衛兵がダルそうにやってきて、これまたダルそうに事情聴取を行う。


「ご苦労さん、これ報奨金」


 銀貨6枚をデニス隊長に渡して賊を引っ立てると衛兵たちは立ち去っていった。


「あいつらは賊一人につき銀貨5枚もらえるらしいですよ。ぼろ儲けだよな」


 副隊長は憤慨するが、隊長のデニスは不況のリンベルクでもらえるだけましだと優しくなだめていた。そうして、その場で みんなにお金を配分する。隊長は銀貨2枚、副隊長は1枚、イルマは3枚となった。これでレオンを助けられるとスカーフの奥でイルマは微笑む。


 その後、2時間ほど警邏を続けたが、賊はついに現れなかった。


「よし、じゃあ、今日はここまで」


 酒場に戻ってきたデニスは隊の解散を宣言し、一人一人に1日の報酬である銀貨1枚を手渡した。イルマに渡すとき隊長から要望が伝えられる。


「イルマさん、いつでも参加してください」


 イルマも軽くうなずき、みんなに挨拶をしてから宿に戻っていった。でも命のやり取りは疲れる。軽くため息をつきながら宿に戻る。


 ふと見上げると宿泊している部屋に明かりがついていることに気付く。急いで階段を上り、ドアを開ける。


「おかえり」


 目をこすりながら、レオンシュタインがねぎらいの言葉をかけてきた。その様子を見て、イルマはぐっと胸が詰まる。


 ――『私の願いなんてちっぽけなことなんだよね。

    家に帰ってきた人にお帰りなさいを言ったり、とか。

    灯りをつけて誰かを待っていたり、とか』


(主、出会った時に話した私の夢、覚えててくれたんだ……)


 それが何よりも嬉しくて、胸に温かいものが広がるのを感じる。


「主、只今、戻りました。銀貨4枚を稼いできましたよ。褒めてもらっていいですか」

「イルマさんが無事で良かったです」


 レオンシュタインのほっとしたような声を聞き、イルマは胸に愛おしさが溢れてしまう。そっと前に進んだイルマは、レオンシュタインの胸に抱きついていた。


「主、頭をなでてもらっていいですか?」


 レオンシュタインの胸にずっと頭をつけている。レオンシュタインは、とっさのことに混乱し、思考停止に陥いる。


「久々に命のやり取りをしました」


 それを聞いた瞬間、レオンシュタインは照れながらも優しく、そしてぎこちなく赤い髪をなで始めた。自分が予想以上に喜んでいることにイルマは戸惑いを隠せない。


(私、本当に主が好きなんだな)


 そう考え、顔を上げると、目の前にレオンシュタインの顔があった。


「お疲れさまでした、イルマさん」


 にっこりと笑うレオンシュタインにイルマは少しずつ顔を近づけていく。


「えっ?」


 二人の顔が触れそうになるまで近づいた瞬間、衝立の向こうから声が響く。


「ねえ、このイチャイチャ劇、いつまで続くのかしら?」


 衝立の向こうからティアナが登場した。


「イルマ! 私がいないと随分大胆なことをするのね」


 イルマはイルマで邪魔が入ったことに苛立ちを隠せない。


「ティアナが寝ててくれれば全てが丸く収まったのに……。 ねえ、主?」

「え? いや」


 ティアナの怒りは、なぜかイルマからレオンシュタインに向けられる。


「ねえ、レオン。女の子の髪をなでながら抱き合うって、あなたも随分、女遊びが上手くなったわね」

「いやいや。違うよ」

「違うっていうなら、私にも同じことをしてみなさい!」

「ええっ?」


 さあと言いながら両手を前に出し、レオンシュタインのそばに行って、イルマとの間に強引に身体をねじ込んだ。


「ちょ、ちょっと。ティアナ!」

「さあ、私にも!」


 いつもの3人のドタバタ劇が、深夜のリンベルクで繰り広げられたのだった。

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