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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第1部 旅での出会い 第3章 リンベルクの街

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第38話 主の夢を助けたい

 王国歴162年9月18日 20時頃 レオンシュタインたちの部屋にて――


 酒場での出来事を聞いたティアナは、レオンシュタインらしいとは思ったが、すぐに賛成できる話でもない。テーブルを囲んで椅子に座った3人は、顔をつきあわせて互いの主張を聞くことにする。ティアナは買ってきたりんごジュースをピッチャーに入れ、みんなのコップに注ぎこむ。ピッチャーを机の脇に置き、ティアナは音もなく椅子に腰掛けた。


 再度、ティアナは自分たちの旅の費用を確保しておきたいとレオンシュタインに話す。でも、レオンシュタインは首を縦に振らない。


「ティアの言いたいことは分かる。でも、今、ディーヴァさんに希望をもたせないと、彼はお酒に潰されてしまう。銀貨100枚(約100万円)があれば希望が見えてくる。喪男同盟のみんなも寄付を増やしてくれるかもしれないしさ」

「100枚って。レオン……」


 それは、自分たちの蓄えがほとんど0になるということだ。これから旅を続けていけるのかティアナは深刻な表情になる。


「確かに大変かもしれない。でも、一人の天才を救うためにお金を寄付することは、多くの人に幸福をもたらすと思う。それができるのは今のところ僕たちだけだ」

「じゃあ、私たちは?」


 そう言うとレオンシュタインはニコニコしながら、きっと神様が助けてくださるからと楽観的に話す。その楽観にティアナは呆れる思いがしたがレオンシュタインらしいとも思う。最後の砦とばかりにイルマに話を振ると、意外な答えが返ってきた。


「私はいいと思う。見ず知らずの私に、主は銀貨200枚を使ってくれた。そのおかげで私はこんなに幸せになれた。だから私は反対しない。お金がないなら私が働く。ディーヴァさんにも幸せになってもらいたい」


 イルマの答えにティアナも頷かざるを得ない。二人を見てレオンシュタインは宣言する。


「銀貨100枚を喪男同盟に寄付します」


 レオンシュタインには別の思惑もあった。


(「()()()()()()()()が素敵な出会いにつながる」って、あのシスターは話していた。きっと、これが運命の出会いにつながるかも!) 


 その瞬間、レオンシュタインのお腹がぐうと音を立てる。ティアナはさっき買ってきた焼き肉の包みを机に出すと、美味しそうな匂いはするけれど肉はすっかり冷めていた。


「下で暖めてくるよ」


 イルマが包みを持って下の食堂に急ぐ。バタンとドアが閉まると、ティアナはレオンシュタインが座っている椅子の後ろにまわり、レオンシュタインの髪を優しく撫で始めた。


「相変わらず、困っている人を放っておけないんですね。この人は」


 いたずらっぽい口調でティアナはレオンシュタインを揶揄する。とても優しい時間が流れる。しかも、レオンシュタインの()()()()()()()は全く気付かれず、何だかいい話だな的な雰囲気が広がっていた。


「ティア。ごめんね」

「いいんです。私だって嬉しいんです」


 本当にこの人はしょうがないなと思いつつ、その優しさは呆れるを通り越して、感動すら覚えるほどだった。嗚呼、勘違い……。


 頭をそっと抱き抱えようとした瞬間、


「少し目を離したら……。何をしてんだよ!」


 ドアを乱暴に開けてイルマが部屋に入ってくる。ティアナは思わずレオンシュタインから、ぱっと手を離す。


「別に、レオンシュタインを褒めてただけだから」

「口で褒めろよ! 全く、油断も隙もない」


 ぶつぶつ言いながらイルマが焼き肉を差し出すと、部屋全体に牛の脂の匂いが充満する。湯気が立ち、肉からはジジッと肉が焦げる音がする。すぐさま3人は串を手に取り、思い切りかぶりつく。


「美味しい!」


 しばらく焼き肉を堪能しながら、ティアナは今日魔法院であったことを話す。


「今日の稼ぎは、何と銀貨4枚ですよ」


 レオンシュタインとイルマは、その額の大きさに驚きながらも一緒に喜んでいた。この分だと旅のお金が増えそうだ。すると、かじりかけた焼き肉をテーブルの上に置き、イルマが姿勢を正した。


 盗賊退治をしたいと言うのだ。


 仲間に危険が及ぶことが嫌なレオンシュタインは、許可できないと即答する。自分の身を案じてくれる気持ちを嬉しく思いながらも、イルマはその目に決意の色を浮かべていた。


「主。今のままだと剣の腕が鈍ってしまう」


 でもイルマが盗賊に捕まったらどうなるのかを考えるだけでもレオンシュタインは怖い。


「寄付はやめよう。イルマ、戦わなくていい」

あるじ、それはダメだ。私は主の夢を助けたい。主が夢を、そして人を助けるのを諦めたら、私は何のために側にいるのかわからない。主には自分の思う道を歩んでほしい。それが私にとっての幸せ。そして、多分、ティアナも」


 イルマの気持ちがその場を支配する。レオンシュタインはその優しさが本当に嬉しかった。


「……分かった。でも、絶対に気をつけて」


 笑顔で頷いたイルマは、あっという間にいつもの調子に戻っていた。


「私、何だか不安になってきました。主、今日、一緒に寝てくれますか?」

「調子に乗るな!」


 いつも通りの3人に戻るのだった。

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