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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第1部 旅での出会い 第3章 リンベルクの街

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第36話 何を言い出すの? この人は……

 王国歴162年9月18日 15時頃 魔法院の中庭にて――


 苦笑いをしながらマーニはティアナをねぎらった。ティアナはけろっとした表情で笑顔になる。ティアナをベンチにいざなったマーニは、魔法院の組織が旧態依然であるために改革が進まず、様々な問題が出てきているのだと話す。


「一番の問題はお金のぼったくり。解呪にかかるお金が銀貨20枚(約20万円)。解呪した術者には大銅貨1枚(約1000円)。結局、魔術院に銀貨19枚と大銅貨9枚が残るのさ」


 うすうす気がついていたティアナだったが、あまりの強欲ぶりに溜息をつく。苦り切った顔で肩をすくめたマーニは、改革を訴えても何も変わらなかったことも教えてくれた。


「ユーフォリアがティアナちゃんの受け入れを拒んだのも、ぼったくりがばれると思ったんだろうねえ」


 裏側が分かると何とも言えない気分になる。美しい大都市リンベルクも様々な矛盾を抱えており、その一つがこの魔法院だった。魔法を利用した巨大な利権システムは、何世代にもわたって続いてきたのだろう。


「お金がかかることは別にいいんだよ。それで多くの人たちが救われるならね。でも、実際は貧しい者にはお金が回らずに一部の人に集まっちゃうんだよねえ」


 そんな組織に嫌気がさして魔術院から足が遠のき、りんご売りをしていたらしい。


 立ち上がったマーニは、思い切り背伸びをして西洋サンザシの木を見上げる。赤い小さな実が鈴なりになっていて、熟した実が地面に落ちて赤い模様を作っていた。


「どうやら潮時だね……。魔法院をやめる踏ん切りがついたよ」


 何も言えず、ティアナはただ黙ってマーニの言うことを聞いていた。マーニは晴れ晴れとした顔になる。


「辞めることを決めたらすっきりしたねえ。最後にティアナちゃんに1つ魔法を教えておこうかね」


 ティアナの目の前にマーニは指を一本立てる。


「魔法?」

「うん。だって、解呪を教えるとか言われて銀貨25枚(約25万円)もふんだくられたんだろう。サービスもしなくちゃ」


 にやりと笑ったマーニは呪文を唱えると、中庭に雷雲が出現して何本もの雷柱が出現する。白銀の稲妻が眩しく雷鳴で耳が痛いくらいだ。


「雷の嵐!」


 先ほどティアナが唱えた雷と比べると、より広範囲に雷を落とす魔法で、その威力は計り知れない。中庭の石畳の上にズシンドシンと雷が落ち、地面の振動が恐ろしいくらいだ。落雷の音が収まり、ようやく青空が中庭の上に広がった。


 その術式についてマーニはティアナに詳しく説明し、ティアナも早速練習をしてみた。


 けれども中庭は平和なままで雷は一本も落ちなかった。マーニは気長に練習することを進める。


「1週間もあればできるようになるよ。気楽に、気楽に」


 そう言うとマーニは手を振って建物の中に入っていった。そのあと何度か呪文を唱えてみたティアナだったが、やはり雷は1つも出現しなかった。


(ま、いいか。のんびりで)


 背伸びをしたティアナはゆっくりと治療の部屋に戻り、午後の仕事である解呪の仕事に勤しんだ。


 その日の業務が終了し、受付に仕事の代金を貰いに立ち寄る。


「はい、今日は8人ですね。銀貨4枚になります」


 聞き間違い? もう一度聞くと、同じ金額を笑顔で伝えてくれる。いつもなら大銅貨8枚のところが5倍の支払いになっている。


 理由を尋ねてみるとマーニが院長が掛け合ってくれたとのことだった。


(おばあさん、ありがとう)


 感謝を伝えようと副院長室のドアをノックしたが、マーニは出張中とのことで部屋はひっそりとしていた。お礼はまた会ったときに伝えようと、扉を開けてティアナは魔法院を出る。


 帰りに市場の売り物を冷やかしながら歩いていると、牛の焼き肉の匂いにひかれてしまう。


 今日はおばあさんのおかげで臨時収入もできたし、と露天商から焼き肉を6本購入して笑顔で宿に帰っていった。


「ただいま」


 部屋に入るとイルマが少し困ったような顔でレオンシュタインと話をしている。


「おかえり、ティア」


 レオンシュタインがいつもの笑顔でほっとしたが、イルマは『ティアナ、何とかしてくれよ』と言わんばかりの顔で助けを求めている。


 するとレオンシュタインがティアナに尋ねてくる。


「ティア、ぼくたちの全財産はどれくらいかな?」

「えっ? 全財産? 何で?」


 嫌な予感がする。


 焼き肉を机の上に置くと、自分たちにお金がいくらあるのか確かめることになった。テーブルの上にザラザラ、ジャラジャラと銀貨と銅貨がそこに広がって鈍い光を放つ。手分けをして数えると全部で銀貨120枚、大銅貨15枚を数えることができた。


 一人で何かを考え込んでいたレオンシュタインが、ぽつりと呟きを漏らす。


「ギリギリか……」

「あんた、まさか……」

「うん、銀貨100枚(約100万円)を寄付しようと思う」

「ちょっと待って! レオン、冷静になって」


 びっくりしたティアナは必死にレオンシュタインの説得を試みる。


「あのね、私たちだってお金がたくさんあるってわけじゃないよ。最初にあった銀貨は半分以下に減ってるし」

「うん」

「旅に出てから2週間しか立ってないし。いったい、何にお金を使うっていうの?」


 するとレオンは、さっきアドラー亭であったことを話し始めた。

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