第35話 からんでくる3人に、わからせた。後悔はしてない
王国歴162年9月18日 9時頃 魔法院の受付前にて――
翌日、講義に出るために階段を下りてきたティアナは、魔法院の入口にどこかで見たような人が立っていることに気付いた。その顔は素敵な思い出に結びついていて忘れるはずもない。
「りんご売りのおばあさん!」
小走りでおばあさんの側に駆け寄っていったティアナは、まじまじと顔を見つめ、間違いではないと確信する。おばあさんも振り向きざまに、にっこりと微笑み、嬉しそうにティアナを見つめる。
「ティアナちゃん、学院に来たんだね」
そう言って近づいたおばあさんは、ティアナを優しく抱きしめる。おばあさんからは甘いりんごの香りがした。そのままの状態で、おばあさんはゆっくりと自己紹介を始めていた。
「私はマーニ。この魔法院の副院長です」
戸惑いながらもティアナは納得するものがあった。ただのりんご売りに、あの魔法は不自然過ぎたからだ。ベンチに座り、四方山話をしていると、そこにユーフォリア一行が近づいてくる。
「また、ガマ女が! あら、副院長。ご無沙汰しております」
ユーフォリアが露骨に態度を変える。彼女らは上司にはとことん弱く、卑屈な態度になるのが常だった。ユーフォリアの言葉を聞き咎めたマーニは、冷たい声でその非礼を非難する。
「ガマ? それはティアナちゃんのこと?」
非難の口調に慌てた一行は、理由をつけながら言い訳を始める。素顔を見せたくなくて仮面をつけているのは怪しいとか、様々な理由を語っていたが、ただの嫌がらせだとマーニは気付く。
「あなたたちは相変わらずね。狭い世界で狭い仲間とだけ馴れ合って」
けれども取り巻きの心には全く響いていない。逆に、どうやって副院長に取り入っただの、やることが汚いだの、ティアナに絡んできた。その様子を見ていたマーニは、ため息をつきティアナとの魔法比べを提案する。
突然の提案にユーフォリア一行はざわめくが、ユーフォリア自身は望むところと受け入れていた。
「その女には、すぐにこの魔法院から出て行ってもらいましょう。伝統ある魔法院に新参者は必要ありませんもの」
全員を中庭に誘ったマーニは魔法の基本である『球』を出すように話す。ユーフォリアの連れたちは、それぞれ大きさが10cm程度の火球を出し、得意満面になっている。
続いて、ユーフォリアが魔法を唱えると、空中に30cmくらいの水球が現れる。
「さすがユーフォリアさまです。このような魔力の持ち主は、なかなかいませんわ」
連れは口々に賞賛の声を上げるがマーニはそれを軽く聞き流し、ティアナにもやってみるように促した。
いつものように60cmの光球をティアナは空中に出現させる。
「えっ?」
明らかに自分たちを凌駕する魔力を示したのだから、ユーフォリアたちが戸惑いの表情を浮かべるのも無理はない。
「あなたたちはティアナちゃんの足下にも及ばないよ。なめた口調を改めるんだね」
3人をたしなめたマーニはティアナに向かって謝罪の言葉を口にする。
「ごめんね、ティアナちゃん」
「いえ、そんな。私、気にしてません」
とんでもないとティアナは両手を振る。
「納得できません。球の大きさだけじゃ実力はわかりませんわ」
ユーフォリアが口を挟み、3人も口々に不満を漏らし始める。どうすれば分かるのかとマーニはうんざりとした表情で尋ねると、ユーフォリアは模擬戦を提案してきた。
危険を考慮したマーニは許可できないとユーフォリアを説得しようとする。
「副院長、そのガマをかばうんですか? 本当の実力を知られるのが怖いんでしょう?」
「あんたのために許可しないんだけどねえ」
自分の実力を冷静に判断できない3人にマーニは何と言っていいか迷っていた。
「いいですよ。相手を傷つけないようにしますから」
ティアナは一歩前に出る。マーニは軽く頷くと、ティアナとユーフォリアに防御の魔法を掛けた。
「どちらかが降参を言ったら、そこで終わりにするよ」
中庭の中央で二人は互いににらみ合った。
「始め!!」
マーニの開始の言葉と同時に、水の矢を繰り出すために前に出ようとするユーフォリアだったが、足がどうしても動かない。
「何で?」
足元を見るとつま先に魔法の矢が刺さっている。戸惑い、焦っているユーフォリアの周囲を黄色の光が包んでいく。 目が眩んでいるユーフォリアは、視界を確保しようと手で光を遮断して目を開けようとする。
「雷!」
その瞬間、ユーフォリアのまわりで空気を劈く音と大きな振動が起こる。大きな光の柱が出現し、そのまわりに無数の電気スパークが走る。マーニのかけた防御魔法が、ガリガリという音を立てて崩壊していく。あまりの衝撃にユーフォリアはその場に倒れてしまった。
空気はビリビリと震え、地面の焦げた匂いが強く漂う中、ティアナはゆっくりとユーフォリアの方へ歩いていく。
ユーフォリアの近くで立ち止まると再度詠唱を始める。
空中にまた無数のスパークがきらめき、空気が乾いていくのが分かる。黒い仮面に気圧され、ユーフォリアは後ずさりをする。
何か言おうとするのだが恐怖で口が動かない。
「そこまで!」
その瞬間、ふっと空中から雷光が消えてしまう。仰向けに倒れたまま動かなくなったユーフォリアのもとへ仲間たちが駆け寄り、担いで救護室へと走り去っていった。




