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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。


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第33話 素晴らしい才能

 王国歴162年9月14日 19時頃 アドラー亭にて――


 すぐに近くに座っていた赤毛の男が話し始める。


「レオンさん、ようこそ。私はハラルドっていいます。30歳です。自分は背が小さくて赤毛なんで、ずっとからかわれてます。でも気にしてないです。ぼくには、これがあるから!」


 そう言って横に置いてあった30cm四方の木箱を机にゴトンと置く。


「時計です」


 こんなに小さなものが? とレオンシュタインは目を見張る。そっとハラルドが蓋を開けると、灰色の紙に二重に包まれた握り拳くらいの大きさの時計が現れた。銀色で丸い枠の中に青い針が2つ、薄いベージュ色の陶板の上に光っていた。目を近づけると針が動いており、耳を近づけるとチチチチとかわいい音がする。


「自分はこの音が好きなんですよ」


 ニコニコしながら、ハラルドは手のひらに時計をそっと載せる。その素晴らしい技術にレオンシュタインは感極まってしまう。


「凄いです! ハラルドさんは時計作りの天才なんですか?」


 このような精密な機械を作れる人をレオンシュタインは見たことがなかった。大きな時計が主流のこの世界において、あまりにも異色な技術だった。ハラルドはそんな大げさなと手を振りながら、右手の中の時計について詳しく説明を始める。


「そんなに言われると逆に恥ずかしいです。でも、分かってもらえてうれしいです。分かりますか? この機械の美しさが」

「はい!!」


 うっとりと横から時計を眺めるハラルドを見ながら、レオンシュタインもその造形の素晴らしさに目を奪われる。時計の中に、小さな宇宙が広がっているようだ。


「ハラルドは町の誇りだ。女の奴ら、見る目が無いぜ」

「そうだそうだ。いつかは大金持ち、間違いナシだ!」

「いや、金目当ての女なんかダメだ。ハラルドさんには、そっと支えてくれるエーデルワイスみたいな女の子がお似合いだ」


 みんなハラルドの技術力を尊敬しているし、この時計フリークの男が大好きなのだ。王侯貴族に召し抱えられるかもしれませんねとレオンシュタインが話すと、ハラルドはふっと鼻で笑ってしまう。


「あ~。俺、そんなものに興味ないです。この時計がみんなの懐にあったら嬉しいってだけですよ。自分の大切な仲間の役に立てれば、これほど嬉しいことはありません。いろいろ使えると思うんです」


 その瞬間、手の上の時計からガラスが落ち中からバネが飛び出す。


「……ま、まあ、今は試行錯誤の最中です」


 拍手をもらったハラルドの次は、がっしりした体格と頬にあばたが目立つ、30歳くらいの銀髪の男が話し始める。


「私はアルベルトです。33歳です。私はこのあばたのおかげで、女の人がみんな逃げ回ってしまいます。そんな、私の特技は」


 目の前に手をかざし何も無いことをアピールする。


「これです」


 いきなり手に銅貨が現れ、レオンシュタインは目を擦る。その次の瞬間、銅貨が銀貨に変わる。


「すごい!」


 周りにいる男たちは『どうよ』と言わんばかりの顔だ。ケスナーは嬉しそうにビールをあおる。レオンシュタインは、その素晴らしい技に感嘆するばかりだった。


「じゃあ、これを君の手の甲に乗せて」


 レオンシュタインの左手の甲に銀貨を乗せて、アルベルトが右手で隠す。そして右手で軽く叩くと、チャリンと音がした。


「えっ? 通り抜けた?」


 下に現れたのは大銅貨だった。


「素晴らしいです! アルベルトさん! これは魔法ですか?」


 その瞬間、アルベルトの顔が険しくなる。


「これは魔法でも奇跡でもありません。人間が考え出した芸術とでも言っておきましょうか。人間の技なんですよ」


 素直に頷いたレオンシュタインは、その素晴らしさをもう一度褒め称える。恐縮しながらアルベルトは自分の思いを話す。


「興奮してすみません。ただ、私と同じようなことをして人を騙している人もいるものですから、つい……」


 全く気にしていないとレオンシュタインは伝え、アルベルトも笑顔でそれに応じた。


 絵描きのクンツ、ジャガイモを育てているルカス、木彫りの人形づくりのオリバー、弓の名人ケスナーなど、みんな一癖も二癖もありそうな人物ばかりが集結していた。


 みんな素晴らしい才能の持ち主だった。しかも、全員、女の人に対して何かしらの「こじらせ」をもっているのが分かる。


「こんなに素晴らしい人たちを、わかってな~い! この町の女は」


 ケスナーが酔っ払いながら嘆く。その気持ちはレオンシュタインには痛いほどよく分かる。けれどもメンバーはそれ以上は不満を言わず、自分のやっていることを皆に一生懸命説明するのだった。


 レオンシュタインはそんな男たちの顔をずっと見ていると、好きなことを話すときに彼らの目がキラキラと輝いていた。本当に好きなものに熱中する男たちの目だった。


 一番年上のルカスはもう40歳を過ぎているのに、どう見ても20台にしか見えなかった。


「いやあ、今日は楽しかった。うん、楽しかった!」


 アドラー亭を出てすぐに、ケスナーはレオンシュタインの肩を掴む。レオンシュタインは、こんなたくさんの男たちと飲む経験は初めてだった。その周りには嬉しそうな顔が揃い、幸せな空間がそこには確かに存在していた。


「こちらこそ、本当に素晴らしい人たちと知り合いになれました。みなさん、本当にありがとうございます」


 すると、時計職人のハラルドが笑顔でレオンシュタインのほっぺたを突っつく。


「固い、固いよ、レオンちゃん。俺たち、友だちだろ! 友だちって言ってくれよ」


 レオンシュタインはますます嬉しくなる。


「そうだよ。レオン! 今度はお前のバイオリン、聞かせてくれ」


 お酒が弱い奇術師アルベルトも真っ赤な顔でお願いしてくる。絶対に聴かせることを約束し、次の会合の日程を確認する。


「うちらの会合は、だいたいこのアドラー亭で、火曜日・金曜日の夜にやってる。じゃあ、また次の火曜日に!」


 みんなと握手をしたレオンシュタインは、初めての男友だちが嬉しくて、見えなくなるまで手を振るのだった。

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