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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第4部 戦いの中で 第2章 戦争が終わって

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第286話 窓の外のバイオリン弾き

 王国歴165年10月2日 夕刻 ユラニア城 月の王女の部屋にて――


 夕刻、ティアナは気怠げに窓の近くにたたずんでいた。レオンという名前がなぜ自分を不安にさせるのか、ずっと考えていた。どうしても思い出せず思わず唇を噛む。


(私は忘れてはいけない人を……)


 その瞬間、ふわりとカーテンが揺れ冷たい秋風が部屋に入り込む。窓が開いていたのかしらとカーテンに近づくと、窓の外に一人の大柄な男が立っていた。


「誰!?」


 窓越しにティアナが叫ぶ。するとキイと窓を開いて、その男が室内に入ってきた。


「通りすがりのバイオリン弾きです」


 通りすがりのわけはない。この部屋は地上から40mの高さにあり、どうやって窓の外にたどり着いたのか皆目見当もつかない。怯える二人を見て、一瞬悲しそうな表情になるレオンシュタインだったが、すぐに目線を棚に置かれているバイオリンに向ける。


「棚のバイオリン使っていいですか? 嘘じゃないことを証明しますよ」


 穏やかな物言いに二人は黙って頷く。棚にゆっくりと歩いていったレオンシュタインは、カチャッと音を立てて扉を開く。埃っぽい匂いを感じながら、レオンシュタインはバイオリンを取り出した。ふうっと思い切り息を吹きかけ、バイオリンから埃を吹き飛ばす。かび臭い匂いが部屋の中に広がっていった。


 すぐに調弦に取り掛かると、音がかなり狂っているのが分かる。長い間、弾かれていない証拠だ。


「ロス! 基本練習は毎日やるって約束だったよ」


 バイオリンを顎で押さえながらフラプティンナに視線を移して話しかける。


「師……師匠」


 目にスミレ色がほんのりと戻り、フラプティンナは自然に頭を下げてしまう。


「……いいよ。じゃあ、聞いてて」


 そう言うなりレオンシュタインは部屋に音を響かせ始める。いつも通りの、優しく、美しい調べだった。


「ア……アリア?」


 村の教会で子どもたちに聞かせた曲だとフラプティンナは思い出す。思い出の、そして何よりも大切な瞬間の曲。音はさらに洗練され、一音一音がくっきりと音の粒になり心の中に響いてくる。手で顔を覆ったフラプティンナは、涙とともに自分の中から大切なものをとり出そうともがいていた。


 徐々に高まる旋律がフラプティンナの記録と結びつき、キラキラとした想いが溢れてくる。思い出がフラプティンナの全身を包み込んでいた。演奏しながらティアナに目線を移すと、まだ、ぼうっとした表情のままだ。演奏しているのが誰なのか全く認識できていない。


 レオンシュタインの入ってきた窓の扉が、風でキイッキイッと音を立てる。意を決したレオンシュタインが窓の外に声をかけると、するりと音も立てずに少女が入ってくる。飛行服の隙間から褐色の肌がのぞく。部屋にいる二人に遜色のないほど美しいヤスミンだった。


 部屋の中に漂っていた香の匂いに顔をしかめたヤスミンは、部屋の隅にティアナがいることに気付く。


「ティア、何してんの? 帰るよ」


 ぼうっとしているティアナの方に歩いていき、手を伸ばしたヤスミンの後ろから、レオンシュタインが音も立てずに近づいていく。


「ごめん!!! ヤスミン!」

「えっ?」


 謝りながらレオンシュタインは、ヤスミンの胸を後ろから思い切り触ってしまう。


「マ、マスター!?」


 真っ赤になるヤスミンと真っ青になるレオンシュタインを見ていたティアナの目に強い怒りの灯がともる。つかつかとレオンシュタインに近づいたティアナは、ヤスミンを強引に引きはがすと問答無用とばかりに右ストレートを右頬に叩き込む。


「うぐ!」


 レオンシュタインは、そのまま2mほど後ろに倒れ込んでしまった。


「レオン! 何してんのよ!!」

「マ、マスター! こ、こんなところで」


 頬を両手で挟みながらヤスミンは嬉しそうな声を上げる。それを冷ややかな目で眺めながら、倒れたレオンシュタインの上でティアナは腰に手を当てたまま仁王立ちになる。


「あんたねえ。いきなりヤスミンの胸を触るなんて。相変わらずド変態ね!!」

「ド変態……ふっ」


 懐かしいフレーズが久々に聞けて、それがとても嬉しいレオンシュタインだった。倒れたままの大きな声で笑ってしまう。怒るティアナの後ろから、頬を膨らませたフラプティンナが近寄ってくる。


「レオンさま。やっぱり色魔という噂は本当だったのですね!!」


 可愛らしく怒るフラプティンナは、いつものように可憐で美しい。何のことかよく分からないヤスミンだったが、頬を染めたままレオンシュタインに手を差し伸べて身体を立たせる。さりげなくレオンシュタインの側に立ったヤスミンの横にティアナは強引に割り込んでいく。


「ちょっと! ヤスミン!! 離れなさいよ!!」


 いつもの見慣れた光景だった。レオンシュタインはまた笑いだし、フラプティンナとヤスミンもつられて笑い出していた。ティアナも、しょうがないなと溜息をつきながら、優しい目でレオンシュタインを見つめるのだった。

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