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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第4部 戦いの中で 第2章 戦争が終わって

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285/301

第285話 星降る夜

 王国歴165年10月2日 午後8時 ウルリッヒの農園にて――


 暗い星空の下、柵の前に佇みながらレオンシュタインは軽く頭を振る。


「私は一人で散歩もできないんですね」


 なんと答えたら良いのかわからないまま、シノはレオンシュタインの近くで立ち止まってしまった。独り言のようにレオンシュタインは話を続ける。


「シュトラント城を追放同然に出てからというもの、私は自由になりました。でも、領土が拡大するにつれ何をするにも不自由です。お嫁さんも一行に現れないし」


 ゆっくりと柵の側を移動し、小高い丘の上に立つ。


「私の領地にすむ人たちは、攻める連合軍と血みどろになって砦で戦い、さらにレーエンスベルク辺境伯領を解放すると称して戦を繰り返しています。幸せのためと言いながら、人々を冥府へ送っている自分は果たして正しいんでしょうか?」


 真上にある一等星を眺めながら、レオンシュタインは声を振り絞る。


「私の進む道は人々を幸せにしているんでしょうか……。私は……誰かがそばにいてくれるだけで良かったんです。巨大な領地なんて別にほしくなかった……」


 まるで闇の中から響くような気がするほどレオンシュタインの声は暗い。それを振り払うようにシノは静かに語り始めた。


「レオンさま。シノは少なくともレオンさまに出会ってから、ずっと幸せな毎日を過ごしています。それは間違いありません」


 レオンシュタインの傍に立つシノも夜空の星を見上げていた。静かに、本当に微かな声でシノはレオンシュタインに提案する。


「レオンさま……。シノと一緒に王城からもノイエラントからも離れたところで暮らしませんか。シノが養って差し上げます」

「……それはダメだ」

「どうして?」

「今まで私を信じてついてきた人の手を離すのは嫌なんだ。みんなかけがえのない大切な人だから」


 シノはレオンシュタインの背中に寄り添う。


「大切な仲間と幸せな国をつくると約束したんだ。それだけは裏切れない」


 しばらく丘の上で二人はたたずんでいた。空の星は今にも降りそうなくらい瞬いている。


「シノはずっと、お側におります。弱音を吐いてください。悲しみも苦しみも全てシノが受け止めて差し上げます。レオンさまが信じる道を真っ直ぐにお進みください」


 二人はしばらくそのまま黙って丘の上に立ち続けていた。星が動き、一等星が西に沈む頃、シノが小さくクシャミをする。レオンシュタインは、ようやく地上に目を移し、シノに優しく上着をかける。


「シノさん、ありがとう」


 そう言うと、そっとシノを抱きしめる。突然の抱擁に動揺を隠せないシノだったが、黙ってされるがままになっていた。


「明日、王城に突入します」

「ご武運を」


 農園の上には銀河が広がり、無数の小さな星々が今日はいつもよりも輝くような気がするのだった。


 §


 次の朝、レオンシュタインは王城に突入する計画をウルリッヒに話していた。


「式まで、あと1週間。今日、二人に会いに行ってきます」


 誰も止められなかった。ウルリッヒですら、黙って頭を振るだけだった。


「ヒメルは万全です。しばらく飛んでないから飛びたくてうずうずしてますよ」


 グスタフも太鼓判を押す。同行するヤスミンは身軽なままで乗るために、ナイフを2本だけ持っていくことにする。


「主。今日、仕事が休みで良かった」


 微笑みながらレオンシュタインを見つめる。自分の大切な人の命がかかる潜入に同行できることが誇らしい。


「突入するのは午後3時頃がいいだろう。シェスタ《昼休み》が始まって1時間くらいだと警備も弱まっていると思う」


 ウルリッヒのアドバイスを受けて、その時間まで念入りに準備をする。ナガモチの中から退魔香を取り出したシノは、レオンシュタインにそっと手渡した。


「少なくとも魔族を退けられれば二人と話す時間は増えます。退魔香をすぐに焚いてください、レオンさま」

「ヤスミンさん。あなたにこのナイフを贈りましょう」


 ウルリッヒが手渡したのは銀のナイフだった。黙って受け取ったヤスミンは、ウルリッヒ卿に近づき抱きついていた。


「ヤスミンさんが好きなチーズケーキをたくさん用意しておく」


 ウルリッヒは抱き抱えられたままヤスミンの頭を優しくなでていた。以前からヤスミンのことを孫のようにかわいがっているウルリッヒは心配でたまらない。やがて、そっとウルリッヒから離れたヤスミンは、太ももに隠していたナイフをもらった銀のナイフに取り替える。


 ついに出発の時刻がやってきた。


「じゃあ、行きます」


 きっぱりと出立を告げたレオンシュタインは、ヤスミンを伴って農場奥に歩いて行く。ちょうどヒメルが干し草を食べており、太陽の匂いがするような気がするレオンシュタインだった。


「ヒメル、行くよ!」


 ヒメルは甘えたようにヤスミンに嘴を寄せる。


「ヒメル、よろしくな」


 レオンシュタインの問いかけに頭を下げるヒメルを見て、言葉が理解できているような気がする。二人はヒメルに乗り組み、落ちないように身体を固定した。もう逃げることはできない。


「ゴー!」


 ヤスミンの合図でヒメルは大きく空に舞い上がっていった。

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