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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第4部 戦いの中で 第2章 戦争が終わって

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第277話 悲しみの城

 王国歴165年9月15日 夕方17時 ホーエンシュバンガウ城にて――


「レオンさま、王国のルドルフさまより密使が参っております。王国に大きな動きがあった模様です」


 手紙より口答の方が詳細が分かると判断したフリッツが、一人の男をレオンシュタインの前に連れてくる。グライフ公爵領の紋章をつけ、ルドルフの名が入った短剣を装備している。


「首都長官ルドルフ様からレオンシュタイン様にお伝えします。1つ目は、王国のシュトラントへの進発は10月頃。2つ目は、王国の宰相は……魔族です。そのため、ゴート族の専売である退魔香を大量に購入したい。3つ目は、ユラニア王とグブズムンドルの姫が婚約しました」


 レオンシュタインが一番驚いたのはユラニア王国宰相が魔族という情報だ。退魔香の購入については、レオンシュタインがフリッツに話しかける。


「フリッツさん。退魔香はどれくらいありますか?」

「ちょうど昨日、アリカタ殿がシキシマから運んでくれました。馬車に積めるだけ積んであります。銀の剣も20本ほど見かけましたね」


 明日、確認が済み次第、安全のためにホーエンシュバンガウ城で香を焚くことになっている。


「分かった。それが済んだらルドルフ殿の元へ50個ほど持っていってもらえないかな。ご使者殿」


 使者は恭しく頭を下げる。また1つ目の報告は、レーエンスベルク辺境伯との戦いで多くの犠牲がでているノイエラントにとって朗報である。兵士の補充と埋葬のために、少しでも遅い方がありがたかった。ただ、3つ目の報告はユラニア王が60歳前後であることから、驚きをもって受け止められる。


「いったい、どなたが婚約したのでしょうか」


 何気なく尋ねたフリッツへ使者は驚きの名前を告げていた。


「フラプティンナ姫です」


 珍しくレオンシュタインは眉をひそめて苛立ちを隠さず、ティアナとイルマは口に手を当てていた。詳しい経緯は分からないが尋常な婚約ではないことが分かる。使者を下がらせたレオンシュタインは、これからの方策について話し合うことにした。


「兵士を募集することは急務です。また、ヘレンシュタイク軍に共に行動してもらいたいと正式に依頼しましょう」


 フリッツの話を受け、主任参謀長グラビッツも私見を述べる。


「我が軍はまだノイエラントには帰れないな……。王国への侵攻はアルフレド殿だけに任せるには荷が重すぎる」


 そのためノイエラント軍をこのままホーエンシュバンガウ城に滞在させ、同時に王国方面の情報収集にあたることが提案される。全てが決定し、とりあえず明日の囚人の移送についての話になる。牢屋がここより堅固で人の出入りが少ないファルケン城に、元辺境伯ハイルヴィヒを連行することになっていた。


 その護送のためにゼビウスの第1中隊から20名、イルマの第2中隊から20名が選抜されていた。奪い返しに来ることを用心してこのような措置を講じたのだ。


「じゃあ、明日朝9時に城門外の広場に集合ッス」


 フリッツの言葉で、その日は解散となった。


 自室に戻ったレオンシュタインは部屋の中で物思いに沈む。窓を開け、外の空気を入れると夏の匂いが部屋の中に広がる。ティアナはレオンシュタインの様子を後ろから心配そうに眺めていた。フラプティンナに何があったのかを考えるだけで、レオンシュタインの気は沈んでいく。


 外の景色を眺めながらレオンシュタインは少し前のことを思い出していた。


 ――「ねえ、師匠。私は師匠にとって、いい弟子でしたか?」


 あの桟橋の上で、オーロラを眺めながらフラプティンナと話したことが、昨日のことのように思い出される。


 ――「何だか、嬉しくて。今まで、こんなに素直に私に接してくれる経験がなかったから。子供たち、

    可愛い!」


 村の子どもたちと一緒に屈託なく笑うフラプティンナの顔も浮かんでくる。


「ロス(フラプティンナの愛称)……」


 ずっと窓の外を眺めるレオンシュタインに、何と話しかけたらいいのかティアナは分からないのだった。


 §


 翌朝、ホーエンシュバンガウ城の門から獄車に入れられた囚人が1名、厳重な警戒のもと護送されていた。囚人の名はハイルヴィヒといい、元レーエンスベルク辺境伯だった男である。戦に負けてからというものハイルヴィヒは極端に口数が減っていた。


 馬に引かれた獄車は中を見られない造りになっており、ゆっくりとファルケン城へ向かって進んでいく。その周りをゼビウス隊、イルマ隊の兵士が取り囲むようにして歩いていた。その様子を城壁の上から眺めている人物がいた。全身を覆うローブを着て、フードを深く被っていることからノイエラントの味方とは思えない。その男は広場の一角を見つめていた。


「……あいつらが動いたら、わしも動くとするか」


 独り言を呟きながら不適な笑みを漏らしていた。


 獄車が広場の中央を通り過ぎるのを、レオンシュタインとティアナはノイエラントの面々と一緒に眺めていた。そこにマントを身につけた男が近づいてきて低い声を発する。


「ティアナ殿、ここにおられましたか。一緒に王国へ参りましょう」

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