第264話 絶体絶命
王国歴165年8月21日 夜9時 ホーエンシュバンガウ城の門にて――
「誰か! 誰かいないか? 大変だぞ!!」
城門にてガラの良くない男が、どなり声で叫んでいる。門番はあくびをしながら、その対応に当たる。
「うるさいぞ! どうした?」
「娼婦たちが城に入ってこなかったか?」
「それがどうした?」
「奴らはうちの用心棒30人をあっという間に倒してる。ノイエラントの兵士じゃねえかって、うちの主人は疑ってるぞ!!」
「何!?」
さらに大声を張り上げる男を眺めながら、門番はすぐに城外の詰め所に連絡し30名の兵士を集める。門番はその兵士を引き連れて、先陣を切って城内になだれ込んでいった。
「娼婦たちを一人残らず捕まえろ!」
その頃、ノイエラント側は城のほとんどを制圧しつつあった。2階の執務室ではイルマがクヌート男爵を拘束し、参謀役のギード男爵はティアナが気絶させて後ろ手に縛っていた。50名の兵士は1階の3部屋に集められ、フォルガーが用意した眠り香で眠らされていた。
クヌート男爵とギード男爵も拘束されたまま1階の部屋に入れられ、すぐに眠りについてしまう。
「エロい夢、見てるといいッス」
女性陣から冷たい視線を浴びせられながらフォルカーは一息つく。
「さあ、あとは仲間に知らせることと、城門の閉鎖ッス! 何と言っても俺たちは15人……」
「いたぞ! あそこだ!!」
その瞬間、剣を抜いた兵士たちがなだれ込んでくる。剣を持っているのはイルマとフォルカーだけで、あとは丸腰だ。嫌な予感がフォルカーの胸をよぎる。
「イルマさん、まずは相手から武器をもらうッスよ!」
「おけ!」
幸い、部屋の前の通路は幅が3mしかない。
「ティアナさんは屋上から連絡を!」
すぐにフォルカーは兵士と切り結び始める。高い金属音が響く中、ティアナは魔法で支援しようとするが危なくて詠唱できない。門番が魔法無効のペンダントをぶら下げているのも気になる。ティアナはすぐに兵士たちとは反対側の階段に向かって走っていった。
ガランガンと音をたてイルマが2人の剣を石畳に落とす。けれども、落とした剣はすぐに敵が回収してしまう。
「敵は剣を持ってないぞ! 誰か武器庫から槍を持ってこい!」
フォルカーも1人の兵士に手傷を負わせたが、すぐに新手がやってくる。ノイエラントの兵士たちは少しずつ押し込まれていった。
「部屋に味方がいるはずだ! 確かめろ!」
ついに1つの部屋が開放され、中から13名の兵士が飛びだしてきた。
「よくも騙したな!」
「騙される方が悪いッス」
軽口を叩きながらもフォルカーは作戦に暗雲がかかりつつあることを認めざるを得なかった。
(用心棒の誰かに逃げられたッスね)
イルマもさらに3人に傷を負わせたけれど、新手が次々と向かってくる。3つの部屋から兵士が一人、また一人と解放され、ついに留守居役のクヌート男爵と参謀役のギード男爵までもがゆっくりと這い出してくる。
「お前らは失敗した! 降伏しろ! 命まではとらない!」
苦虫を噛みつぶしたような表情でクヌート男爵が叫ぶ。城を奪われていたら自分の命はなかったろう。すぐにギード男爵に命令を出す。
「予備役に連絡を!」
「は、すぐに行きます!」
ギード男爵はすぐに城門目がけて走っていく。その間にも戦闘は続いていた。イルマの奮闘のおかげで被害は少なかったものの、剣を持たない女たちにとって体術だけでは敵兵士を退けることは不可能だった。やがて少しずつ被害が出始める。
鎧など着ている者はなく、みんな娼婦の格好しかしていない。このままでは全員がやられてしまう。
(一人でも多く逃がすためには血路を切り開くしかないッス。俺が責任をとるしかないッス)
イルマを近くに呼び、中央突破をすることを打ち明ける。
「だね。相手の隙を見つけたら全力で!」
後ろで恐怖をかみ殺している14人にも伝えられる。辺境伯の兵士たちは次第に後ろの方で戦闘を眺めるようになっていた。
「おい、あの赤毛の女は俺がもらう」
「あんなに強い女を屈服させるのか! 興奮するぜ!」
男たちのニヤニヤが止まらなかった。その一瞬の隙をイルマは見逃さなかった。
「フォルカー!」
「よっしゃあ!」
阿修羅のように突進した二人の後ろに、女たちが付き従う。不意を突かれた兵士たちは、左右に分かれてその突撃をかわす。生き延びるためのわずかな道が目の前に広がっていた。そのまま全力で門に向かって走る。
「走れ!!」
「逃がすな! 全員捕まえろ!!」
クヌート男爵が指差し、大声で怒鳴る。全員が門から出ようとすると目の前に500人ほどの兵士が現れ、その先頭には先ほど出て行ったギード男爵が立っていた。
「そこまでだ!」
それを見たイルマとフォルカー以外は地面に座り込んでしまう。ギード男爵は手を振り下ろし、後ろに控えていた弓隊に攻撃を命じる。
「攻撃せよ!!」
次々と矢が放たれていった。




