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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第4部 戦いの中で 第2章 戦争が終わって

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第263話 襲撃

 王国歴165年8月21日 夜8時 娼婦館近くの路地裏にて――


 無言のままフォルカー一行は城を目指して歩いていく。空を見上げると半月が頼りなげに光り、明かりのない下町はその光だけが道を照らしていた。そのフォルカーたちの前に、突然、黒ずくめの男たちが現れる。


「俺、何か忘れ物をしたッスか?」


 相手が娼館の用心棒であることをフォルカーは見抜いていた。


「ああ、でかい忘れ物だ。お前にその女たちはさばけねえ。俺たちが売ってやるよ」


 キラキラと月明かりに刃が光る。30人の男たちは、ためらうことなく腰の剣を抜いていた。


「あ、あの……命は大切だと思うんで……」


 フォルカーはイルマの方に手を伸ばす。


「運がなかったッスね」

「あ? 何を言って……」


 その瞬間、イルマからショートソードを受け取ったフォルカーは、男の腹に剣を突き刺していた。


「一人でも逃がしたら、まずいッスよ!!」


 いつの間にか女全員がナイフやショートソードを握っていた。イルマはロングソードを握り、ティアナは既に魔法を詠唱している。


「殲滅ッス!!」


 みんな音も立てずに用心棒たちと切り結ぶ。戦闘訓練を受けているノイエラント側に用心棒がかなうはずもなく、一人、また一人と倒れていく。イルマは敵の退路を断ち、片っ端から相手の剣を飛ばしていた。ティアナは次々と雷の矢を詠唱し、相手の動きを止めている。そのため、5分後に動いている用心棒は一人もいなくなっていた。血の匂いが暗い通路に充満する。


「逃がした奴はいないッスかね? それだけが心配ッス」

「多分、大丈夫と思うけど」


 周囲を見回してイルマは答えるがフォルカーは考え込む。万が一に備えて、頭の中で作戦を練り直していた。その間にも、ティアナたちは死体を近くの川まで運んで、人目につかないようにしていた。


「時間との勝負になりそうッス! すぐにホーエンシュバンガウ城に行きましょう!」


 ティアナやイルマは着替えを考え、明日の早朝はどうかと提案するがフォルカーは首を振る。


「申し訳ないッスが、このまま行きます。皆さん、ごめんなさい」


 そして、イルマに向かっていきなり土下座をする。


「イルマさん、さっきは本当にごめんなさい」


 イルマは全く気にしていないと話し、


「フォルカーさんのおかげで、あいつらをだませたからね」


 と片目をつぶる。それを見て、フォルカーにようやく笑顔が戻る。戦闘での汗を流したいところだが、フォルカーは走るように命じる。


「あとは出たとこ勝負ッス」


 城は小山の上にあり、下町から15分ほど走った場所にある。いくら訓練をしているといっても、ティアナたちは疲れを隠せない。死闘のあとのマラソンは過酷だった。城門までフォルカーは走っていくと、当然、兵士に止められる。


「お前、何者だ!」

「す、すんません。こういう者です」


 先ほど買った娼館の証明書を見せる。


「ふん、娼館の者が何用だ?」

「実は、ゲオルフさまから女の手配を依頼されておりました。途中で賊に襲われ、命からがら逃げてきたんです。女どもも汗かいちゃって」


 門番が見ると、全員が息を切らしている。


「ただ、ゲオルフさまの依頼が本当か確かめようがないな。今、この城にはいらっしゃらないからな」


 フォルカーは、ティアナとイルマのかぶり物を跳ね上げる。


「この2人を仕入れるために大金を使ってるんです。何とかなりませんか?」


 門番は2人の顔を見て、しばらく放心したように見つめてしまう。イルマが挑発するようにウインクすると、門番はハッと気がついたようにフォルカーを見る。


「分かった。では、責任者を呼んでくる」


 しばらくして門番は二人の男を連れてくる。一人は警備主任、もう一人は城の留守居役のクヌート卿だった。クヌート卿は書類と、イルマ、ティアナを見て、これは本当に依頼されたかもしれないと思うが確証もない。迷っている様子を見て、フォルカーは背負い袋から小さな袋を取り出し、クヌート卿の手に握らせる。


「明日、出直しても良いのですが、私たちも稼がなければなりません。娼婦は15人いますから、多くの兵士に楽しんでもらえると思いますよ」


 後ろを見たクヌート卿は、どの娼婦も若く美しいことを見て取る。目の前の美しい2人と関係がもてるかもしれないと思うとクヌート卿の警戒心が薄れていった。


「よし、分かった。許可する」


 そう言うと、あとは警備主任に任せて自分は執務室に戻る。警備主任を言いくるめたフォルカーは、ちゃっかりと女たちの控室を確保していた。そこに全員を移動させ、フォルカーは警備主任と一緒に女の派遣計画を練る。


「留守居役様はどちらに?」

「2階の東側の執務室だ」

「私どもは場所に不案内のため、女たちが迷ってしまいますと留守居役さまに失礼となります。あなたさまについてきていただくか、簡単な地図を描いていただければ、時間通りに参上いたします。あなたさまも後者の方がよいのではありませんか?」


 確かに案内などして女との交流が後になってしまったら最悪だ。警備主任は紙を用意して簡易的な地図を書き始める。


「それで、女を一人専属で派遣すればよい方は?」

「留守居役のクヌート男爵と参謀役のギード男爵の二人は外せない。その他は兵士が50名だ」


 警備主任は地図の上に部屋を書き記し、その場所に×印をつけ名前のイニシャルを入れる。


「兵士の皆様は大部屋が3つほどあれば、そこで準備いたします」

「分かった。この1階の3部屋を使うといい」


 フォルカーは先ほど目に入っていた見張り役についても地図で場所を確認していく。


「見張り役の方々には派遣する必要はなかったでしょうか?」

「この見張り小屋がいいと思う」

「それでは、準備ができ次第、女たちを派遣します」


 フォルカーが控室に戻るとイルマたちは水を汲んで身体を拭き、英気を養っていた。みんなうら若い乙女たちなのだが、これからが本番である。短時間で打ち合わせを済ませると、各自の場所を確認する。


「成功を祈るッス」


 すぐに、女たちが城内に散っていった。


 §


 その頃、娼館の主人は襲撃が失敗したことを知らされていた。用心棒が一人だけ逃れていたのだ。その男は女の一人が落としたノイエラント製の短剣を拾ってきていた。主人は怒り心頭で、復讐を誓う。


「ノイエラントの奴らは、城で何かを企んでいるに違いない。すぐに城へ知らせるんだ」


 部下が暗い夜道を全力で走っていく。


「なめやがって! あの女たち全員を俺のものにしてやる」

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