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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第4部 戦いの中で 第2章 戦争が終わって

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第262話 女衒師フォルカー

 王国歴165年8月20日 昼 ホーエンシュバンガウ城にて――


「ホーエス城を落とすぞ!!」

「おおおおお!!」


 地の底まで響くような歓声が兵士達から上がり、辺境伯ハイルヴィッヒはその様子を満足そうに眺めていた。急遽、動員された兵士3700人の士気は高い。


「では、クヌート卿。留守を頼む」


 辺境伯は馬上からそう命令すると、すぐに全軍がホーエス城に向かって歩き始めた。急ぎの進軍となったため兵士の立てる埃が空中に舞い上がる。その様子を遠くの丘から眺めている男がいた。


 フォルカーである。


 ついに出撃した辺境伯軍を見て、ほぼ全軍であることを見て取り、すぐに宿泊場所に戻る。暗くなるのを待って、全員にフードを被らせる。


「では、作戦開始ッス」


 15名の女性を連れ下町へ移動し、一番大きな娼婦館に目星をつけるとフォルカーは中に入っていった。


「責任者はいるかな」


 いつもとは違う悪者を感じさせる声のフォルカーは娼婦館の奥にずかずかと入っていく。主人が用心棒を引き連れて行く手を遮った。


「俺はフォルカー。シュトラントの女衒師だ。ゲオルフさまから依頼があり、女を手配したんだがホーエンシュバンガウ城にいるのかい?」

「いや、シュパレン城に移ったと聞いたぜ」

「マジかよ。シュトラントから来たのに。じゃあ、城で仕事はできんのか?」

「それは、俺たちの許可がねえと無理だな」


 フォルカーはあからさまにがっかりする。主人の首に腕を絡ませたフォルカーは、同時に袋を手渡す。


「何とか頼むよ。莫大な金を使ってんだ。あと、娼婦用の服と化粧品も売ってもらえねえか?」

「分かった。すぐに書類と服を用意する。化粧品はあるものを使ってくれ」


 中身を確認した主人は、その金の多さに少しばかり驚くが、すぐに頷く。そして一番前に立っていたティアナのフードをはね除けた。


「こ、こいつは凄え……。辺境伯が手配するだけあるな」

「まだ、化粧をしてないがな」


 フードを戻してフォルカーはニヤリと笑う。主人はティアナの美貌にあてられてしまったのか、1つの提案をしてくる。


「なあ、一晩、楽しませてもらえねえか? 金はいくらでも払うよ」


 しばらく考えていたフォルカーは、首を横に振った。


「いや、処女のまま連れてこいと言われたんだ。お前がゲオルフさまに取りなしてくれるんなら、遊んでもいいよ。一晩小金貨80枚(約800万円)だけどな」


 主人はすぐに首を横に振り、諦めると忌々しそうに吐き捨てる。ゲオルフに今まで嫌な目にあわされたのだろう。関わりたくないという態度が、ありありと見える。


(しかし、フォルカーといい……こいつらは行儀が良すぎる。怪しい奴らだ)


 主人の様子を注視していたフォルカーは、ぐっと唇を噛み、何かを決意したような表情になる。そこに館の手下が書類と服を持ってやってくる。フォルカーは服を顎で示す。


「お前ら、今すぐ服を着替えろ! 化粧もだ!! 今までの服も忘れずもってこいよ!」


 男に促され、全員、地下室へ移動していく。


「おい! イルマ! ちょっとこい!」


 イルマが側に寄ってくるとフォルカーは頭を掴んで地面に叩きつける。


「お前、いつも返事がねえんだよ」

「す、すみません」


 足元にしゃがみ込んだフォルカーは、イルマの髪を掴み、顔を睨み付ける。


「そんな態度だと、ここで働いてもらうぞ! ああ!?」


 二言三言つぶやくと髪ごと頭を掴み、また、怒鳴りつける。


「分かったか! さっさと行け!」


 フードを被ったイルマは、逃げるように下に走っていく。フォルカーの肩をつついた娼婦館の主人は、同類を見る目つきになっていた。 


「おいおい、容赦ねえな。あそこまでするこた、ねえだろう」

「あいつは、しつけ中なんだ。可愛げがねえからな」


(俺の気のせいか)


 先ほど抱いた疑念を主人は振り払おうとしている。引き続き主人の表情を観察していたフォルカーは、ようやく安堵の息をつく。


(イルマさん……本当にごめん)


 30分ほど雑談をしていると下から女たちが上がってきた。薄い服に身を包み、ほとんど裸同然の若い女性が次々と目の前に立つ。


「こりゃあ、上玉ばかりだな」


 娼婦には慣れている館の主人も、これだけ粒ぞろいな女たちを見たことがない。さらに、手下たちは後からきたイルマとティアナから目を離せない。特にイルマはすらりとした長い足と大きな胸と形の良い尻が異様に目立つ。大人の女性を感じさせる色香と憂いを帯びた目元、扇情的な赤い唇は、その場にいた男たち全員を虜にしてしまった。


「お、おい。あの女、凄え」

「俺の全財産を出してもいい」


 そんな男たちの前を通り過ぎ、イルマはフォルカーの横にそっと立つ。


「フォルカーさま。準備できました」


 背筋が震えるくらいの艶めかしい声で報告をし、自分を見つめる男たちに流し目をくれる。男たちは形の良い胸や美しすぎる顔から目が離せない。娼館全体がざわめいていた。


「まあ、女を売りたくなったらいつでもこいよ。いくらでも引き取ってやるよ」

「おう」


 そういうとフォルカーは全員を引き連れて、入口の階段を上がっていった。彼らが出て行った瞬間、娼館の主人は意味ありげに、手下たちに目配せをするのだった。

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