第261話 ファルケン城の攻防
王国歴165年8月20日 午後1時 ファルケン城 謁見の間にて――
豪華な謁見の間はヨシアスが訪れた時よりも、さらに華やかに飾られていた。パーティーの準備も進められ、謁見の間に置かれたテーブルには野菜や肉が次々と準備されている。入口では、アルフレド、マルティン卿、ヨシアス卿、そして、なぜかヤスミンの姿が見える。
互いの当主とその側近だけで友好を深め合うことに決定したのだ。
(我が事なれり!)
歪んだ笑みを浮かべたネローリアンは柱の後ろに控えている。顔を整えると、にこやかに4人を迎え入れた。
「アルフレドさま、ようこそいらっしゃいました。さあ、それではこちらへどうぞ。私どもは剣を帯びてはおりません。皆さまもこちらへ置いてください」
アルフレドを始め、ヨシアス卿やマルティン卿も腰の剣を預けていく。もともと何も持っていないヤスミンは、そのまま前に進む。
「では我が主を呼んで参ります。しばらく、ここでお待ちください」
ネローリアンがアレクシスを呼びにいくと、城内は緊張したような雰囲気に包まれていった。それでも、アルフレドとマルティン卿は笑顔で談笑し、ヨシアスはメイドのチェックに余念がない。ヤスミンはパーティー用のケーキに目を奪われていた。
そこへ中央の階段からアレクシスがゆっくりと下りてくる。腰には剣を帯びず普段着のままでアルフレドの方へと歩いてきた。左右にはネローリアンと屈強な兵士が丸腰のまま付き従っている。
「兄上、ようこそいらっしゃいました。このアレクシス、歓喜に耐えません」
「アレクシス。久しぶりだな。我が独立軍に参加するというのは本当か?」
右手を握りしめたアルフレドが、その意思を確認する。それを聞いたアレクシスは笑顔になり、左手を大きく横に伸ばし、優雅にボウ・アンド・スクレープ(優雅な礼)を行う。
「兄上に手をお貸ししたいと思います。申し開きは、父上の前でしてください」
そのまま手を挙げると、隠れていた弓兵たちがずらりと現れる。ざっと20名くらいかとヨシアスは見当をつける。
「無謀な企てに誰が加わるものか! 手を貸すのは、あなた方の死出の旅です。全員、棺に入れてホーエンシュバンガウ城へ届けて差し上げます」
ネローリアンの甲高い声が謁見の間に響き渡る。マルティン卿、ヨシアス卿、ヤスミンの3人がアルフレドを取り囲み、盾となる。
「美しいお嬢さん。貴方を傷つけるのは私の本意とするところではありません。こちらに来れば命を助けますよ」
いやらしい目つきをしたネローリアンがヤスミンに投降を呼びかける。ヨシアスを振り返ったヤスミンは駆け足でネローリアンの近くへ寄っていく。ネローリアンの隣にいた兵士が剣を抜いて、アルフレドに近づいていくとヨシアスがヤスミンに合図を出す。
「ヤスミンちゃん!」
「何で『ちゃん』づけ……」
そう言いながら太ももに隠していたナイフを取り出し、その柄でネローリアンの頭を思い切り叩く。声もなくネローリアンはその場に崩れ落ちてしまった。
「こいつ嫌い!」
周囲が呆然としている隙にヤスミンは魔法の影足をつかい、アレクシスの背後に回り込む。首筋にナイフを当て、そのまま黙る。その瞬間、ヨシアスは周囲を威圧するように大きな声を張り上げた。
「武器を捨てろ! さもないとアレクシスの命はないぞ!!」
周囲に動揺が広がり、少し離れた場所で控えていた参謀エバーハルトは、すぐに命令を叫ぶ。
「弓隊! 今すぐ弓を捨てるんだ!!」
弓隊はすぐに弓を放り投げ、無機質なカツン、カツンという音が城内に響き渡っていく。ヤスミンにナイフの刃を当てられていたアレクシスは余裕の表情だった。
「美しいお嬢さん、貴方に私は殺せない。さあ、いますぐナイフを下ろしてください」
ヤスミンは分からないという風にヨシアスと視線を交わすと、ナイフの刃に力を込め首筋にめり込ませていく。
「こいつ、殺していいのか?」
「ちょ、ちょ、ちょ! 待って待って待って!!!」
今まで自分にこのような無礼な真似をしたものはおらず、あからさまに動揺する。しかも、首から血が流れ落ちている現実が判断を狂わせる。
「今すぐ武装を解除しろ!! 降伏だ!!! 早く!! 俺の命がなくなってもいいのか!!」
その場にいる兵士たちは全て武装解除し、おとなしくその場に膝をつく。マルティンは弓兵を含む、全ての兵士を城外に出すようエバーハルトに指示を出した。
「攻めようなどと思わぬ事だ。おとなしく待っていればアレクシス殿は解放する。このネローリアンとか言う奴も、とっとと連れていってくれ」
エバーハルトは城内全てに命令を出し、全員を城外に避難させる。ネローリアンは担架で外に運ばれていく。それに紛れて、ヨシアスは入口に待機している兵たちに命令を出した。
「本隊をすぐに城に移動させる。連絡、よろしくね」
30分もかからないうちに、城内は独立軍の兵士で溢れかえっていた。アレクシスを牢屋に入れると、ヤスミンはすぐにノイエラント本隊に戻ろうとするが外は既に暗い。そのためヒメルを城内に移動させ、翌21日に帰ることにした。兵士たちに食べ物と飲み物をたっぷりと与え、アルフレドたちは祝杯をあげる。
ホーエス城に続き、ファルケンベルク城まで無血で手に入れたヨシアスをマルティンは驚嘆の目で見つめていた。
「いやあ、これでしばらく、のんびりできるな。あ、メイドさんたちに戻ってくるように声かけてくれた?」
ヨシアスは、もう働かないぞと態度で表している。アルフレドも肩をすくめるほどの運の良さが続くのだった。




