第256話 連携
ヨシアスがホーエス城に出向いている頃、12日間の進軍でノイエラント軍はヴァルデック城に到着する。王国歴165年8月9日のことである。ヴァルデック城だけでは足りず、その中庭や広場にも宿泊場所が設けられる。
城には病人、高齢兵士、女性兵士が優先して入れられ、高級将校である第1中隊長ゼビウスや第2中隊長イルマですら、兵士と同じ場所で寝食を共にすることになった。レオンシュタインも広場で寝ることを主張したのだが、主任参謀長グラビッツが首を縦に振らない。
「大将にもしもの事があれば我が軍は崩壊します。レオンさま、どうか自重してください」
そのため、イルマ、ヤスミン、ティアナ、シノと共に兵士たちの慰問として歩き回っていた。ただ、レオンシュタインよりも同行の4人が目立ちすぎた。
「イルマ隊長、どこまでもついていきます!」
「ティアナさまのために、この身を捧げる覚悟です!!」
慰問にはなったがレオンシュタインはひっそりと陰に隠れるかのような扱いだった。それでも気にせず慰問を続けるレオンシュタインを見て、心ある兵士たちは心からの忠誠を誓うのだった。
その夜、ヴァルデック城の大広間で今後の動きについての話し合いがもたれた。冒頭、グラビッツから外交方針が述べられる。
「フリッツ殿をシュトラント伯爵、エッシェベルク子爵のもとへ派遣し、中立の依頼をします」
大きく頷いたフリッツが任せろとばかりに腕を叩く。高速艇4号が境界の町モーリッツに待機しているため、シュトラント領の首都まで往復2日で行くことができる。馬車を利用する場合は、近くのエッシェベルク領の首都ですら往復に2日もかかる。
「それが成功したら、軍は辺境伯領近くの町バンデルビットまで進発です」
それを聞いていたレオンシュタインは1つの懸念を示す。
「川がある公国とは連絡が取りやすいですが、北部のアルフレド独立軍とは難しいのではないですか? 砦はともかく、ホーエス城の付近には川がないですよ?」
「明日の朝、その懸念を解消したいと思います」
グラビッツはニコリと微笑み、そこで作戦会議は終了となった。
§
翌朝、中庭に大きな動物が舞い降りる。
「ヒメル!」
ヤスミンが近づくと、顔を近づけてクルル、クルルと甘えるように鳴いてくる。ヒメルを指差したグラビッツはレオンシュタインに説明を始める。
「これが答えです、レオンさま。ヒメルを連絡で使うのです。境界の町バンデルビットから公国のナウウェン砦までヒメルなら片道2時間です。アルフレド独立軍が攻撃するであろうホーエス城まで片道4時間ですね」
傍らでヒメルの面倒をみていたグスタフは留意点を述べる。
「1日8時間くらいは飛ぶことが可能です。ただ、それはヤスミンさんが乗る時であって、それよりも重い人は4~6時間くらいになります」
これで早急な連絡がとれるとレオンシュタインは安心する。ノイエラントの重臣たちは改めてヒメルの重要性に気付く。
「ヒメルもノイエラントの一員ですからね。戦争を早く終わらせるために働いてもらいますよ」
グスタフも協力も必要なために、そのまま従軍することになった。
その日、アルフレド独立軍と連絡を取るべくウェイク砦へヒメルが飛ぶことになった。地図で場所を確認し、とにかく川沿いにあるから見つかるだろうとヤスミンはすぐに飛び立っていった。
「相変わらず速いねえ、ヒメル!」
風に吹かれながらヤスミンは大声で話しかけ、1時間ほど飛ぶと下に城が見えてくる。
「これがシュパレン城?」
城をあっという間に飛び越していくため確認する間もない。2時間ほど飛んでリベ川のほとりに着地すると、ヤスミンはヒメルに水を飲ませて積んできた干し草と林檎を食べさせる。その後、さらに2時間ほど川沿いに飛ぶと小さな砦が見えてきた。
砦の近くにゆっくりと降りると、兵士たちが武装をしながら近づいてきた。
「攻撃しないで! ヨシアスはいない?」
ヤスミンは慌てて叫ぶと、その中の一人が攻撃を止めるように指示を出す。その人はヤスミンに近づくと、
「ヨシアス卿は城に出かけてるよ。もしかしてノイエラントの人?」
と確認してくる。
「うん、私はノイエラントのヤスミン。あなたはアルフレド?」
「ええ。レーエンスベルク伯爵家長男アルフレドです」
互いに驚いたように相手の顔を見つめる。
「驚きました。ノイエラントではワイバーンに乗るんですね」
アルフレドはヒメルの顔を見上げる。4mを超えるヒメルは、おとなしくヤスミンの側で林檎をついばんでいた。アルフレドに手紙を渡したヤスミンは、ヒメルに水を飲ませることにする。
「ノイエラント側の作戦は理解しました。その通りに動きます」
「おけ」
滞在は30分に過ぎなかったが両者共に益があった。特にアルフレド独立軍はノイエラントと迅速に連絡をとれることが大きな安心に繋がった。戦っているのは自分たちだけではないのだ。
「これで、ヨシアスが吉報をもたらしてくれれば」
祈るような気持ちでヨシアスの吉報を待っていたのだが、ヨシアスは全く別のものをもたらすのだった。




