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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第4部 戦いの中で 第2章 戦争が終わって

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第249話 海

 王国歴165年7月2日 午後2時 クリッペン地区の船着き場にて――


 ヘルムを取ると、黒と茶色が混ざった髪に、太い眉毛、頬骨が横に広がり、丸い鼻と厚い唇が特徴的な女性だった。身長はレオンシュタインとほぼ変わらず、甲冑から覗く筋肉は、日常的に鍛錬していることが分かる。美人とは言えないけれども、愛嬌があり、声がとても美しい。口を大きく開けて笑う癖には確かに見覚えがあった。


「もしかして、アルタンツェ?」


 レオンシュタインは首をかしげつつ、女性はアルタンツェで間違いないだろうと判断する。その昔、アルタンツェ、レオンシュタインの2人はシュトラント伯爵家でも浮いた存在だった。アルタンツェは人質のようなもの、レオンシュタインは食べるだけの役立たずという属性が人を遠ざけていた。


 ただ、8歳から2年間、一緒に遊んだことはレオンシュタインの胸の中に暖かい思い出として残っているのだった。


「アルタンツェ殿、ようこそノイエラントへ。歓迎します」


 まずは、当主として対応する。片足を斜め後ろの内側に引いたアルタンツェは、もう片方の足の膝を軽く曲げ、背筋は伸ばしたまま挨拶をする。カーテシーの作法を完璧にマスターしていることから、高貴な育ちがよく分かる。


「レオンシュタイン殿。我が国への親書、ありがとうございます。我が国はノイエラントとの交流を深めること願っております」


 願ってもない話で、宰相レネや主任参謀のグラビッツは嬉しさを隠しきれない。話はここまでにして、まずは使者に休息してもらうことにする。新築した迎賓館にアルタンツェを案内し、ノイエラントの重臣たちはレオンシュタインの丸太小屋にて今後の方策について話し合うことになった。


「レオンさま、これはまさに僥倖。まさか公国が友好的とは思いませんでした」


 レネの声にグラビッツも続ける。


「公国に我が軍を駐屯させることができれば、レーエンスベルク辺境伯の動きを牽制けんせいすることができます」


 みんなが喜ぶ中、レオンシュタインだけは浮かない顔をしている。その表情を見たシノがレオンシュタインの肩に手を掛ける。


「レオンさま。何か気になることでも?」

「いえ、使者が知り合いだったことに驚いているだけですよ」


 その後、とにかく友好を促進するために交流を進める方針が決まる。まずは明日の晩餐会を成功させようと、張り切って準備に取りかかるレネたちだった。


 どうしても気になることがあるレオンシュタインは、アルタンツェの休んでいる部屋へと歩いて行く。部屋の前に着くと、ノックをする前にアルタンツェがドアを豪快に開ける。


「レオ! 私、海が見たいな。案内してよ!」

「アル姉、相変わらずだね」

「何よ、大人ぶって。らしくないよ!」


 そう言うとレオンシュタインを引っ張るように、海を目指して走っていく。


「あはは。あんた、相変わらず足、遅いねえ」

「アル姉が速すぎるんだよ」


 跳ぶように走っていくアルタンツェを、レオンシュタインは息を切らしながら追いかけていった。そういえば昔、同じような出来事があったとレオンシュタインは思い出していた。やがて、やや道が登りになり、海を一望できる広場に到着する。午後5時を過ぎ、太陽が海に沈もうとしていた。


「ひゃあ~。やっぱ、海は広いねえ。しかも、太陽が海に沈むところが見られてラッキー!」


 アルタンツェは満面の笑みで海を眺め、興奮している。レオンシュタインは昔を思い出し、思わず含み笑いをする。


「ん? それ、何の笑い?」

「いや、明るいアル姉は健在だなって」


 アルタンツェはレオンシュタインのおでこを人差し指でつつく。


「言うようになったねえ。でも……」


 その後の言葉を濁して、また海を眺める。アルタンツェの横顔をじっと見ながら、レオンシュタインは気になっていたことにズバリと切り込む。


「アル姉。何で素顔を隠してるの?」


 驚いたような表情になったアルタンツェは、レオンシュタインを見てニヤリと笑う。


「さすがレオ。気付いてたか」


 そのまま海を見つめたアルタンツェはしばらく黙ったままだった。レオンシュタインは何も言わずにその横に座り、ただ一緒に海を眺めていた。


「公国は海がないからね。いくら見てても飽きないな」


 太陽の半分が海の中に入り、海上に長い光の道を作っている。海面がキラキラと輝き、光も波に揺れているようだ。二人は太陽が完全に沈む瞬間まで、その光景を眺めていた。


「アル姉。どうしてノイエラントにやってきたの?」


 アルタンツェは暗くなっていく海から目を逸らさないままだった。


「ノイエラントっていうか、お前に会いに来たんだよ。どう、嬉しい?」

「久々に会えて嬉しいけど、それだけじゃないよね」


 沈んだ太陽の周りに広がる残照を背にうけたアルタンツェは、レオンシュタインに打ち明ける。


「レオ……助けてくれよ」 

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