第243話 マーニの魔法院
「自分の魔力適性を知りたいんです!」
そんな人たちが引きも切らない、マーニの魔法院は朝から忙しい。魔法兵団に入りたい、仕事で使いたい、趣味、など多岐に渡っているが、やはりお金を稼ぎたいこと、何となく格好良く見えることが理由とのことが多い。
マーニが院長に就任してから、適性を持った人は10人に1人くらいだった。現在、魔法学院に入学しているのは18名である。マーニ、ティアナ、イルマ、ヤスミンは別として、土魔法の5名、火魔法の3名、水魔法の4名、空魔法の3名、聖魔法3名、闇魔法0名である。
ちなみにマーニ、ティアナは空魔法、イルマは水魔法、ヤスミンは珍しい闇魔法の使い手である。 2つ属性を持っている人もいるが基本的に属性は1つである。解呪や探知などの魔法は、基本魔法としてどの属性でも理解することができる。
ただし、使いこなせるようになるかは、やってみないとわからないらしい。無属性とはいっても、やはり適性がある。教会の司祭とシスターは全て聖属性もちであり、回復や解毒を施すことができる。
魔法学院の講師はマーニしかおらず、院長兼講師と二足のわらじをはいているのだった。
「今日も基本練習からいきますよ」
全員、学院の裏庭で円になり、真ん中を向きながら手を前に差し出している。それぞれが基本練習に取り組むのだ。
「じゃあ、属性の基本をゆっくりと詠唱します」
マーニの合図でそれぞれがブツブツと唱えると、それぞれの目の前に10cmほどの火や水の塊が現れる。ちなみにティアナの前には80cmほどの光球が現れる。火属性は火球、水属性は水球、土属性は土球、空属性は光球、聖属性は聖光球、闇属性は闇球が基本である。ちなみに闇球は、その向こうが見えなくなる煙幕のような玉である。
「じゃあ、ゆっくりと大きくしてください」
みんな10cmほどの球を操っている時に、ティアナは100cmを超える球を目の前に作り出していた。
(やはりこの子は規格外すぎるねえ)
思わずため息を漏らしながら指導を継続する。
「そのまま、10分間継続~」
すぐに終わってしまう学院生もいるけれども、みんなの顔はいつも明るい。この学院の生徒はみな平民の出身のため、貴族でなくても魔法を操れることが嬉しいのだ。
「マーニ先生、今日は少し大きくできました」
毎日、上達していくのが分かる女子の学院生は、楽しくてたまらないといった表情を見せる。また、土魔法の子たちも穴を掘ったり固めたりするのは、それだけで楽しいらしく顔を輝かせている。水属性の子たちは太陽の光に透かして綺麗な球の鑑賞会をしているし、火属性の子たちは薪に火をつけている。聖属性の子は擦り傷を作った子の手当てをして喜んでいる。シスターになれる素質はあるが本人は別のものになりたいらしい。
基本が終わると、それぞれ訓練したい魔法の練習に取り掛かる。無属性魔法は何ができるのかやってみないと分からないため、クジを引くような感じで、みんな楽しみながら練習をする。
「ダメかあ」
失敗することが多い中、ごく稀に、やったあという喜びの声が響く。その度に、みんなで一緒に喜びあう。
この日は、ティアナにとって大きな出来事が起こっていた。基本練習を繰り返して、光球を大きくしたり小さくしたりしている途中、突然、ティアナの黒いマスクが弾け飛び、もう二度とマスクが作成されなくなったのだ。びっくりしているティアナにマーニは笑顔になって優しく肩を叩く。
「きっと魔力が大きくなったんだねえ。おめでとう……と言っていいよね」
ようやく事態が飲み込めたティアナはマーニに抱きつくと、前と同じように暖かで微かにりんごの匂いがした。それを周りで見ていた学院生たちに驚きの輪が広がっていく。黒い仮面を薄気味悪く思っていた学院生は多かったのだ。
潤いを帯びた空色の瞳と長い睫毛、整った高い鼻筋と薄桃色の唇が美しく配置された顔から目が離せない。20歳を過ぎたティアナは少女特有の硬い感じが取れ、ふっくらとした女性らしさを感じるようになっていた。それが、さらに美しさと妖艶さが混じり合わせたような雰囲気を感じさせるのだった。
周りにいる学院生が固まっているのを見てマーニはティアナから離れ、目を覚ませとばかりに手を叩く。その瞬間、学院生はハッとしたように我に返る。
「今日からティアナちゃんは仮面を外すことになるから、みんなよろしくね。じゃあ練習再開!」
練習を再開するのだけれどもティアナが気になって仕方がない。結局、練習に身が入らないまま、その日は終了するのだった。
§
「レオン! ついに仮面が取れたよう」
丸太小屋に入るなり、ティアナはレオンシュタインに思い切り抱きつく。レオンシュタインが抱きつかれたまま訳を尋ねると、魔力が増えたから自然に消えたとマーニから教えてもらったことを繰り返す。
「そっか、それは嬉しいね」
そう言いながらティアナを離そうとすると、ティアナは逆にギュッと抱きついた手に力を込める。
「何か感想はないの? ついに仮面が取れたんだよ。一言くらい……」
「まさに、《《厚かましい》》の一言ですわ」
後ろからシノが冷たい目で二人を眺め、ピシリと言い放つ。手にはレオンシュタインの好きなコーヒーと、自分が飲むグリーンティーが湯気を立てていた。コトリ、コトリとテーブルにカップを置く
「レオンさまに無理やり『可愛い』と話すよう誘導するなんて、とても淑女の振る舞いとは思えませんわ」
そう話すとシノは二人を強引に引き剥がし、レオンシュタインの服を整えるようにパンパンと叩く。
「とんだ災難でしたね。レオンさま」
「はあ? 私の何が災難よ!」
そういうとレオンシュタインにコーヒーを勧めながら、その後ろに立つとゆっくりと肩を揉み始める。その瞬間、ティアナの目がつり上がる。
「ちょ! レオン! あんたシノに、こんなことさせてんの?」
「いや、時々シノさんが強引に……」
両手を腰に当て怒り心頭といったティアナだった。美しい横顔だけに余計に凄みを感じさせる。レオンの肩を力強く掴んだシノは、話をみなまで言わせなかった。
「レオンさまは私のマッサージを喜んでおられます。私以外の女性に触られるのは嫌に違いありませんわ」
「そんなことないわよ! レオン! 何か……いやらしい!!」
「そ、そんな……」
レオンシュタインに顔を近づけたシノは艶やかに微笑んだ。
「いかがですか?」
その瞬間、シノはその場を跳びのき、結局椅子に座っていたレオンシュタインだけが感電することになった。
「レオンのばかあ!」
そう叫ぶと、全力でアイシャの店に走り去っていくティアナだった。




