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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第4部 戦いの中で 第2章 戦争が終わって

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242/268

第242話 ワイバーン、空を翔る

 王国歴165年4月20日 午前10時 グスタフの飼育場の前にて――


「大分、高くまで舞い上がれるようですね」


 眩しそうに青空を眺めながら、グスタフとレネは紫色のワイバーンが小さくなっていく様子を見つめている。ヤスミンの乗ったヒメルは地上からは1cmの棒にしか見えない。暇があればヒメルを操る練習をしているヤスミンは、今やグスタフよりも上手なくらいだ。


 ヤスミンに一番懐くようになり、話していることがある程度理解できているようにも見える。やがてヒメルは急降下を繰り返しつつ、地上にふわりと降りてきた。


「調子は良いようだな」


 ヤスミンに話しかけたグスタフは二人でヒメルを水飲み場に連れて行く。ヒメルには『空』という意味があり、ヤスミンはその名前がとても気に入っていた。好物のりんごを背負い袋から出したヤスミンは、何個も口元に差し出した。


「ヒメル、いい飛び方だったよ」

「クルル」


 やはり言語を理解しているように思える。ヒメルの世話をヤスミンに任せたグスタフは今日予定されている最大の実験についてレオンシュタイン一行に説明を始めた。


「今日1日でヒメルがどれだけ遠くまでいけるのかを実験します。活躍の場を広げたいですから」


 ヤスミンが口紐で誘導しながらヒメルを誘導してくる。この4mほどのワイバーンには無限の可能性が秘められているとレオンシュタイン一行は確信していた。ただ、レオンシュタインだけはヤスミンへの心配が勝っていた。


「ヤスミン、大丈夫か?」


 レオンシュタインの声にヤスミンはヒメルの首を優しく触りながら、自身も大きく頷く。実験は極秘にしておきたいため、飛ぶ方向はシキシマ方面に決定する。シキシマであれば、どこでも水を飲ませたり餌をあげることができるだろう。


「じゃ、行ってくる。ヒメル、お願い」


 ヤスミンが背中の鞍に腰掛け優しく話しかけると、ワイバーンは分かったという風に大きく嘶く。翼を広げると力強く羽ばたき、あっという間に高く舞い上がり一行の視界から消え去ってしまった。グスタフはその場に残って記録を続けることにし、そのほかは仕事に戻ることになった。


 その頃、息ができないくらい顔に風が当たっていたヤスミンだった。


「寒い! 寒いよ! ヒメル!」


 それに気付いたのかヒメルはスピードを少し落とす。その機会をとらえて、ヤスミンは背負っているバックからフルフェイスのかぶり物を頭につけ、寒さはかなり減ったように感じる。下に見えていた山々が見えなくなり多くの水田が見えてきた。水田はキラキラと陽光を跳ね返し、青空と白い雲をその水面に映す。


「綺麗だねえ」


 ヒメルは下からの風を翼に受けて、高く舞い上がり、やがて高高度から滑り降りるように前に進んでいった。シキシマ風の建物が下に見え始めたことから、ヤスミンはシキシマの首都ヤマトの上空を飛んでいると推測する。ヒメルはそのまま首都を通り抜け、さらに北へ北へと進んでいく。


 出発してから2時間ほど経った頃、ヒメルが高度を下げ地面へと舞い降りる。周りには人家も無く、ただうっそうとした森が広がっていた。近くには大きな塔のある町が見える。


「おつかれさま、ヒメル」


 ヒメルの背中から降り大きく背伸びをすると、積んでいたりんごを食事として準備する。りんごの入った籠をヒメルの前に置くと、嘴でついばみ砕いて食べ始める。りんごの甘酸っぱい匂いが周辺に広がっていた。ヒメルを優しく撫でながら、ヤスミンは自分もパンとチーズの簡単な食事を取り始める。


 積んできた20kgのりんごを食べてしまったヒメルは大きくあくびをして地面に座り込み、首を折り曲げて目を瞑ってしまった。ヤスミンも小さくあくびをしながら、ヒメルの側に近寄り、身体を預けながら一緒に眠りにつくのだった。


 1時間ほど経っただろうか。


 ヤスミンが目を覚ますのと同時にヒメルも目を覚まし、大きく翼を広げる。嘴で鞍の方を差し、乗ってというふうな仕草をする。


「もう飛べそう?」


 そう言いながら鞍に乗る。

 

「じゃあ、家に戻ろうか」


 それ聞いたヒメルは、また大きく羽ばたき空へと舞い上がる。そうして、グスタフの飼育場まで楽々と戻っていったのだった。グスタフはヤスミンの話を聞き、大きな塔の近くということから、キタカミという町まで飛んだと推測する。飛行時間は合計5時間で休憩は1時間ほどだったことから、馬車で5日かかるところを、2時間ほどで飛んでいったことになる。


「いやはや。ワイバーンがこれほど早く空を飛ぶとは思いませんでしたね」


 レネが目を丸くしながら地図を眺めている。往復4時間で馬車10日分の距離を進んだことになる。緊急の通信手段として、これ以上早いものは存在しない。今回はヤスミンと20kgの荷物を積んでいたのだが、それは全く飛行の妨げにはならなかった。


「じゃあ、二人乗りなんかも試してみるか」


 翌日からも様々な実験が行われ、二人乗りも可能であること、条件が良ければさらに遠くまで飛べることが確かめられる。


「自分が予想していた以上の成果だ」


 グスタフは無理をさせないように、さらに大事に育てることを決意するのだった。

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