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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第1部 旅での出会い 第2章 謎のお婆さんと女の傭兵

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第24話 何よりもうれしいプレゼント

 王国歴162年9月10日 12時頃 孤児院の控室にて――


「レオン、お疲れ様。とってもいい演奏だったよ」

「主、こんなに感動したのは初めてだ。ありがとう」


 汗だくのレオンシュタインに2人は惜しみない賛辞を送る。レオンシュタインは長椅子の上に横になっていたが笑顔でそれに答えていた。シスターも疲労困憊の様子で椅子にぐったりと腰掛けている。


 力を振り絞って、ゆっくりと立ち上がったレオンシュタインは、シスターに近づいて膝をつく。


「シスター。本当にありがとうございました。素晴らしい演奏でした」


 お礼を述べたレオンシュタインの言葉にシスターは満面の笑みになる。


 控室になっている講堂横の小部屋は、素晴らしい演奏の余波が充満しており、みんなの顔が輝いていた。


 小部屋のドアがノックされ、「どうぞ」と話すのと同時に子どもたちがなだれ込んできてレオンシュタインたちに抱きついた。


「お兄ちゃん、ありがとう。とっても、綺麗な曲だった」

「気持ちよかった」


 笑顔で抱きついてくる子どもたちの頭をなでながら、レオンシュタインは嬉しくてたまらないという表情になる。


 イルマにも同じくらいの子どもたちがくっついていた。ただ一人、部屋の隅にいた小さな男の子が遠慮しながらイルマの側に寄っていく。


「あ、あの」


 おずおずと話しかけるのを見て、イルマはしゃがんで男の子と同じ目線になる。


「なあに?」


 優しく尋ねたその瞬間、男の子はイルマに抱きつき「ママ」と小さな声を出す。そっとその男の子の頭をなでたイルマは「はい」と優しく答える。さらにぎゅっとイルマに抱きついた男の子が胸に頭を埋めると、イルマの目に穏やかな色が宿り、ずっと頭をなで続けるのだった。


 やがて男の子はすうすうと穏やかな寝息を立てながら、イルマの胸の中で眠ってしまった。


「あらあら」


 微笑んだイルマは男の子を抱き抱えたまま、すっと立ち上がりレオンシュタインの側に寄っていく。レオンシュタインは優しい眼差しで男の子とイルマを交互に眺めている。


あるじ、子どもって可愛いね」


 イルマはとても愛おしそうに寝顔を眺めながら、レオンシュタインに話す。今まで子どもと接する経験がイルマにはあまりなかったし、口の怪我をしてからは意識的に避けている時もあった。


「レオン。この子、眠っちゃった」


 さりげなくウインクしながら、さらにレオンシュタインに近づいていく。


(イルマさんって、子どもが好きなんだなあ)


 そう思いながら何だか夫婦のようなやりとりにレオンシュタインは動揺する。


「あ、あの」

「静かに。この子が起きちゃうよ」


 イルマはレオンシュタインの肩に自分の頭をそっと寄せる。


「子どもは二人がいいかな?」


 思い切り笑顔になりながらイルマは甘えた声を出す。


「おい、イルマ!?」


 遠慮して部屋の隅にいたティアナは素早くイルマの前に移動し、がっきと頭を掴む。


「子どもを使って変なことしないでくれる?」

「ティアナ、静かにして。この子、起きちゃうよ」

「あっ」


 慌てて手を離すティアナを横目で眺めながら、イルマの暴走は続く。


「じゃあ、レオン。この子を寝かせに行きましょう」

「調子に乗るな!」

 

 まわりが笑顔で包まれる中、レオンシュタインの初めてのミニコンサートが終了したのだった。 



 §



 翌朝、宿を出発しようと外に出た3人は、宿の外でシスターが立っているのを見つける。


「3人を見送ろうと思って」


 そう言いながら手に持っていた1つの袋を差し出す。レオンシュタインが袋を開けて見ると、たくさんのクッキーが入っていた。


「シスター。これは?」

「実は、昨日の演奏会を聞いていた篤志家が私たちの孤児院に多額の寄付をしてくれたんです。それに小麦もたくさん」


 ニコニコしながらシスターは話し続ける。


「その方、レオンシュタインさんのバイオリンを聞いて何かしなくちゃって思ったらしいんです」


 レオンシュタインは照れて頭をかく。


「あんな素晴らしいバイオリンを、無料で聞かせる人がいるんだなって言ってました。それに、農家の方からは小麦や野菜をたくさんいただいたんです。孤児院が苦しいのは分かってたのに俺たち見ないふりをしてたなって」


 シスターの顔が一層輝き、声も高くなる。


「すごいですよ。レオンシュタインさん」


 レオンシュタインは顔を赤らめていた。


「いや自分はたいしたことないですよ。でも、子どもたちのためになったなら最高です」


 照れながらも満面の笑みで答える。


「このクッキーは、いただいた小麦で作ったんです。そんなに甘さはないけど、みんなで一生懸命作ったんです」

「本当に嬉しいです。みんなにお礼と……それに、また演奏に行くからって伝えてください」

「分かりました」


 大きく手を振りながらレオンシュタインたちは出発する。その姿が見えなくなるまでシスターは見送るのだった。


「こんなにうれしいプレゼントは生まれて初めてだ」

「良かったね。レオン」


 みんな笑顔でキースバッハの門をくぐっていく。次の目的地ミルブッフの町まで、およそ25kmの道のりで9時間かかる。


「このクッキーがあれば疲れないよ」


 クッキーを手に持ちながらレオンシュタインが珍しく浮かれている。子どもたちのプレゼントと演奏会が成功したことが本当に嬉しいのだろう。今まで誰からも認められなかったレオンシュタインのバイオリンが、ついに日の目を見た瞬間だった。


 それはこれからどんどん大きくなり大輪の花を咲かせるだろうと、ティアナは確信に近い思いを抱いていた。


(レオンのバイオリンは、聞く人を幸せにする)


 クッキーのおかげだろう。3人は急ぎ足で前へ前へと進んでいく。通りすがりの人たちにも笑顔で挨拶するほどレオンシュタインのテンションは上がっていた。


「なあ、ティアナ。浮かれすぎじゃないか?」


 レオンシュタインの様子を見て心配したイルマが、ティアナに耳打ちする。


 ティアナは大きく頭を振った。


「ううん。レオンはね、今まで誰からも認められなかったの。でも、昨日の演奏を聞いたでしょう? 素晴らしい才能の持ち主で、すごい演奏家なの!」


 自分のことのように誇らしい。


「私は、浮かれていいと思う。というより、もっと自信をもって欲しい。彼のバイオリンが世界に響き渡るまで」

「世界ときたか……。じゃあ、自分らが支えないとな」

「ええ」


 休憩をとりつつ歩き、あっという間にミルブッフの町並みが見えてくるのだった。

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