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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第4部 戦いの中で 第2章 戦争が終わって

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第237話 父の思い、姉の思い

 シノの差し出す水を飲み、さらに何回か胃の中のものを吐き出すと、レオンシュタインの目にようやく光が戻り始める。自分のキモノが汚れるのも厭わず、シノは必死にレオンシュタインの看護に当たっていた。


「レオンさま、気分はいかがですか?」

「少しよくなってきた。シノさん、ありがとう」


 頭を振りながら、ようやくシノに笑顔を見せる。レオンシュタインに抱きついたシノは、ほっとして思わず涙をこぼしていた。レオンシュタインの体調が気になったのか、マサムネもそっと部屋に入ってきた。


 シノとサツキが対峙する中でレオンシュタインが横たわっていることに気付いたマサムネだったが、特に何も言わず、何かを考えている風だった。襦袢のままのサツキは冷えた目で二人の様子を眺めている。シノを優しく離したレオンシュタインは、身体を起こして再度、サツキに同じ事を語り始める。

 

「サツキさん。シノさんは本当に素晴らしい女性です。(心の声→黒い部分もあるけど……。)ずっと側にいてほしいんです」

「うん。それは?」


 マサムネは思わず身を乗り出す。


「領土が落ち着いたら、シノさんとの結婚……」

「おお! 結婚するということですか!! これは僥倖!!」

「レオンさま。シノは、シノは、嬉しゅうございます」


 再度レオンシュタインに抱きついたシノは思わず泣き出してしまう。


「え? あの話を最後まで……」 


 横にいたサツキは苦り切った顔つきになる。


「こんな冴えない女がいいなんて、貴方も物好きね」


 ゆっくりとサツキの方に向き直ったレオンシュタインは、言い聞かせるように語り始めた。


「シノさんは少なくとも誰かを『冴えない』なんて言わないですよ。それに、容姿を誇ったこともなければ比べることもありません。いつも私の側にいて、笑ってくれる素晴らしい女性なんです」


 荒々しく立ったサツキは襖を開けると部屋から出て行ってしまった。マサムネは姿勢を正し、丁寧にお辞儀をする。


「レオン殿、そこまでシノのことを思ってくださるとは親として心から嬉しく思います。シノ。お前はよい伴侶に恵まれたな」

「は、はい。父上」

「3年後までには、やや子の顔を見せてくれ」

「父上!」


 顔を赤くして叩く真似をするシノに笑いかけながら、マサムネも部屋を出て行ってしまった。


 その奥の書院ではサツキが正座をしながらマサムネを待っていた。マサムネは顔つきを改める。


「サツキ。お前には辛い役目をさせたな」

「いいえ、父上。可愛い妹のためですもの」


 ゆっくりとサツキは頭を下げる。


「あの子はあんなに美しくて優しいのに手を出さないなんて。レオンさまは本当にシノのことを大切に思っているようですね。そして、シノも」


 含み笑いをするサツキは意地悪さのかけらもない美しい容貌となっていた。シキシマで一番の美女というのも、十分に頷けた。マサムネはサツキの肩に手をやり、ふっと自嘲気味に笑う。


「余計なことをしたかな」

「いいえ、レオンさまは奥手な方とお見受けしました。父上が押したからこそ、結婚の2文字が出たのではありませんか?」


 そう言うと二人とも穏やかに笑い合う。


「シノには幸せになってもらいたい。シキシマにいた頃は辛いことが多かったからのう」


 サツキは何も言わず、ただ、父マサムネの後ろ姿を見送るのだった。


 その頃、先ほどの部屋ではレオンシュタインとシノの間に一悶着が起こっていた。


「レオンさま、シノは嬉しゅうございます。シノのことを、そんなに思ってくださったなんて」


 艶やかに微笑むシノは、いつも以上に美しいけれども、レオンシュタインは先ほどの言葉を言い直そうとしていた。シノさんとの結婚を()()()()()()()()()()()、だったのに、いつの間にか結婚する流れになっている。


 考え込んでいるレオンシュタインの傍らで、シノがいきなりキモノを脱ぎ始め、下に着けている襦袢だけになる。慌ててレオンシュタインは目をそらす。


「シノさん。いきなり何を?」

「レオンさま。もう邪魔者はおりませんわ」


 シノは悪戯な目をしながら、サツキと同じような笑顔になる。肩から襦袢を脱ぎ、白い肌と形のよい胸を露わにする。レオンシュタインの方へにじり寄りながら、全ての着衣を脱ぎ捨てようとしていた。


「今こそシノの全てをレオンさまに捧げます」

「シノさん!」


 そう言うとレオンシュタインは脱兎のごとく控え室から飛び出していた。


「レオンさまあ!」


 手を挙げて、甘えた声でレオンシュタインが逃げることを引き留めようとする。その声を遠くに聞きながらレオンシュタインは全力でその部屋から走り去る。その間中、彼は1つのことを確信していた。


 シノも間違いなくマサムネやサツキと同じ血が流れている……と。マサムネの一族は、基本的に全員同じ性格だと確信したレオンシュタインだった。


「レオンさまあ……」

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