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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第4部 戦いの中で 第2章 戦争が終わって

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第234話 友好国へ援助せよ

「レオンさま、グブズムンドル帝国の定期船がやってきました」


 王国歴165年4月1日 午前11時、ブローガング海岸の見張り台で声が上がる。グブズムンドル帝国から定期船がやってきたことを発見した見張り員は、すぐに村長宅へ伝令を走らせる。その連絡を受け、レオンシュタイン、レネ、フリッツは2台の馬車を準備し、すぐに新しい駐在員の出迎えに向かっていた。


 現在、建設中の港のさらに東側には砂浜が広がっており、そこにグブズムンドルのカッター船が接近してくる。浜辺で寒さに震えながら船の到着を待っていると、8人の漕ぎ手が漕ぐカッター船に4人の駐在員が座り、浜辺に近づいてきた。


 ただ、以前の漕ぎ手より力強さがないように見える。砂浜にゆっくりと乗り上げると、新しい駐在員が地面に降り立った。


「ようこそ、クリッペン村へ」

「レオンさま。直々のお出迎えに感謝いたします」


 レオンシュタインは、駐在員、漕ぎ手の全員と固く握手をして回る。漕ぎ手にはチップをはずみ、一緒にレセプションに参加するように促した。以前は遠慮していた漕ぎ手たちも村の食事が美味しいため、参加してくれるようになった。待機していた2台の馬車に全員を乗せたフリッツは、すぐ在外公館に向かって走り出す。


「長旅で疲れたようですね」


 一行は力なく頷く。ガタガタと揺れる馬車の中で、レオンシュタインは一行の顔色の悪さに驚いていた。それほど荒れた航海だったのだろうか? 村の在外公館に着いたグブズムンドルの一行は、6時間ほど休憩した後、フリッツに先導され村長宅に歩いてきた。


 レオンシュタイン、レネ、フリッツは新旧の駐在員など全員をローレの店に連れていき、歓迎レセプションの開催を宣言する。


「皆さん、冬の航海、お疲れさまでした」


 堅苦しいことは一切無く、レオンシュタインが短い歓迎の挨拶をした後、すぐに乾杯となった。乾杯が終わるやいなや、新しい駐在員たちはすぐに食事に手を伸ばす。村にいた帝国の駐在員たちは、その不作法を咎めようとするが、少し会話をすると頭を振って何も言わなくなった。

 

「みなさん、村の食事は口に合いましたか?」


 先ほどの様子を眺めていたレオンシュタインは、駐在員の横に座って航海の苦労をねぎらうことにする。新任の駐在員は、姿勢を正して受け答えをする。


「無作法をお許しください。レオンさま。ただ、私たちがこのような食事をするのは久しぶりなのです」

「久しぶり?」

「ええ。帝国では食料の値段が高騰しているのです」


 詳しく尋ねると、天候不順によるグブズムンドルの食糧不足が深刻な状況にあるというのだ。それだけではなく、なぜか王国からの食料輸入が減少しているとのことだった。新しく来た駐在員たちは口々にユラニア王国の横暴について不満を漏らしていた。


「国交の長い国へ援助を優先しているとの説明を受けました。結局、価格が3倍になり、5倍になった時点で取引を停止しました。困窮している国に、この仕打ちはひどいと思います」


 言いすぎたと思ったのか駐在員は口を噤む。うんうんと頷きながら、レオンシュタインは追加の注文をお願いするために、ローレを席に呼ぶ。

 

「グブズムンドルの食糧事情が悪いようです。消化にいいものを出してあげてください」

「村長さんの気遣い、心憎いですね。相変わらずス・テ・キ」


 耳元でそっと呟くと、ローレは艶やかに微笑む。そして、片目を瞑ったあと厨房に戻っていった。


 やがて鼻腔をくすぐる匂いが部屋中に漂い、第2弾の料理が運ばれてくる。粥や野菜のスープといった消化に優しいものが、次々にテーブルに並べられる。その気遣いが分かった新任駐在員は、みな感謝の言葉を述べながら黙々と食べ続けるのだった。


 レセプションが終わり、駐在員たちを領事館に送ると、レオンシュタインはレネ、フリッツ、ルカス、シノに連絡をし、村長宅で会議を開くことに決めた。辺りは既に真っ暗で夜の8時を過ぎていた。議題はグブズムンドルへの支援についてである。


「豊作であるユラニア王国からの支援がない今、友好国であるグブズムンドルの苦境を何とかしたいのです。何かよい方策はないものでしょうか?」


 難問であるレオンシュタインの問いかけに、4人は思わず腕を組んでしまう。まずはルカスが口を開いた。


「村の食料は、村の人口に対して9月の収穫時期までは余裕がある。ただ、グブズムンドルへ支援するほどは……ないな」


 フリッツも難しい顔を崩さない。


「可能性があるとすればシキシマです。ただ、今年は不作でしたからね」

 

 そこまでの話を聞いていたレネは、一つの疑問を呈する。


「そういえば9月の収穫が5割だったシキシマは、なぜ食料に困っていないのかな?」


 シノは形のよい顎に手を当て、口を開く。


「それは、おそらく米を籾つきのまま保管しているためです」

「籾?」


 初めて聞く言葉に、レオンシュタインは説明を求める。


「籾とは、外皮に包まれたままのお米のことです。常温でも2年~5年くらいは保存できるのです。シキシマでは余った米を3年分、保存する決まりがあります。昨年の9月は不作でしたが、4月は普通作、1年前、2年前は豊作でした。そのため、今は昨年度のあまった籾を精米して食べていると思います」


 シノは続けて、それ以外の食事についても説明を始める。


「川魚もとれますし、カボチャやキュウリは暑さに強いので、今年も普通に採れたと思いますよ」

「シノさん。シキシマでは1年に何回、お米がとれるのですか?」

「2回です」


 それを聞き、レネはレオンシュタインに進言する。


「レオンさま。グブズムンドルの外洋船の出発を2週間ほど遅らせましょう。その間にシキシマに行き、米の調達を図るのです」

「他国に譲るだけの量があればいいんだけど……」


 ただ、今の所それ以外に大量購入の道はなさそうだ。そのことについて、帝国から依頼を受けたわけではないというのに、レオンシュタインはその方策について相談するのだった。


 §


 翌朝8時、食料確保の可能性があるので2週間ほど船の出発を延期してもらいたいと、レオンシュタインはグブズムンドル帝国の領事館に連絡をする。駐在員の代表は外洋に停泊していた船に連絡し、すぐに2週間の駐留延長の許可が下りる。少しでも食糧確保ができればと、駐在員は一縷の望みを抱いていた。


 昼、2週間の延長の報を聞いたレネは、会議の席上、自分の狙いを伝達する。


「グブズムンドル帝国は、シキシマからある程度の米を確保できるはずです。グブズムンドルは食糧事情を改善し、シキシマは米をある程度高く売ることで現金を確保できます。また、グブズムンドルの人たちはゴート族への差別が弱まるのではないでしょうか」


 レネの冷静な分析が参加メンバーを唸らせる。


「かつ、食糧確保の仲介をしたレオンシュタイン殿の評価が上がり、現金の流通量が増えるシキシマからも感謝されることでしょう」


 その考えを是としつつ、フリッツは懸念材料について考えを巡らしていた。


「レネ。お前らしい、いい考えだ。だがな、シキシマ側が了解するかは分からないぞ。そもそも、備蓄しているのは不作に備えるためだろう」

「我が悪友よ、全くその通りだ。だがな、ここはうまくいく方に賭けたいんだ。失敗したとしても、外洋船が出発するのが遅れるだけで、それほど影響はない」


 それを聞き、レオンシュタインは、シキシマに交渉団を派遣することを決定したのだった。

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