第233話 船に力を入れようよ
物語は少し時間を戻して、
王国歴165年2月上旬 レオンシュタインの丸太小屋にて――
「レオンさま。うちの村でも高速船をつくりましょう」
グライフ領から帰ってきたフリッツは、村長室に入るやいなや、昼食を食べているレオンシュタインとレネにその重要性を力説する。
「フリッツさん、まずは席に着いてください」
席をすすめたシノが、すぐにフリッツのパンとポトフを運んでくる。目の前に置かれたスープにスプーンを入れたフリッツは、まず一口だけ口の中に入れる。煮込まれたベーコンとジャガイモの匂いが口の中に広がる。外気温が零度以下になっている中、湯気の立つポトフは何より嬉しい。
ノイエラントに帰ってきたという実感がわく。
一緒に昼食を食べながら先ほどの話を続けていく。細長い船に帆をつけて何人かで漕げば、4日ほどでグライフ領の首都バウツェンに着けるとフリッツは力説する。
「情報は早いほうが価値があります。ルドルフ卿と密接に連絡を取る上でも必要だと思います」
ユラニア王国の首都長官であるルドルフ卿の了解を取り付けたのであれば、その方向で推進していく必要がある。また、バウツェンの近くに船着き場をつくることは、王国の了解を得ていると報告される。
「フリッツさん、ルドルフ卿とかなり親交を深めたみたいですね」
レオンシュタインが他国との親交を深めたフリッツの労をねぎらうと、レネもさすが我が悪友だと、ニヤリと笑う。
「船着き場をつくるのですから物資を輸送する船も必要です。馬車も大事ですが、船も大事だと思います。半分は川の力を使うところが魅力です。輸送費用が大幅に減り、利益率が上がります」
しゃべりながらポトフを平らげたフリッツとレネは、シノにお代わりをする。笑顔のシノは、はいはいと台所に戻っていく。フリッツの要望とは別にレネは別の要望を述べる。
「ノイエラントでも海で漁をしませんか?」
農作物がとれなくても魚をとることで飢饉の被害を減らすことができる。魚に関連する働き場も増えるに違いない。
「実は港の建設予定地のブローガング海岸から東に3kmほど行くと砂浜が広がっています。今まで、その場所は放置しておりましたが、今こそ小さな船が活動できるよう港湾整備をいたしましょう」
そのため昼食後に船の工房を尋ねることに決まる。レオンシュタイン、フリッツ、レネが船の工房を訪ねると、ジーナたちの弟子が今日も忙しく働いていた。
「あっ、レオンさん。今日は何か?」
リーダーの男が代表して話しかけてくる。中には建造中の川船が一つ横たわっている。川船の需要が落ち着き、今はメンテナンスが仕事のメインとなっていた。
「実はさ、仕事の依頼に来たんだ」
その言葉にリーダーを始め、従業員は色めき立つ。すぐにレオンシュタインが高速船の製作を依頼する。
「とりあえず四艘。定期的にユラニア王国のルドルフ卿と連絡を取りたいんだ」
「おお、高速船ですか。で、そこまで何日で着ければいいんですか?」
レオンシュタインから4日と告げられると、リーダーの男は腕を組みながら考え込むけれど、不可能ではない。今までより早く安全に着くのであれば、船屋として挑戦しがいがある。
「分かりました。すぐに設計にかかります」
同時にレネから2つの依頼が告げられる。
「1つ目は運搬用の船を3艘、発注したい。グライフ領と貿易を増やすことになった。船があればノイエラントがもっと豊かになる。2つ目は海で漁ができる船がほしいんだ。こちらも、とりあえずは3艘でお願いしたい」
景気のいい話で従業員から歓声が上がり、ようやく船を造れる喜びに工房は沸き立っていた。従業員たちは、すぐに設計や必要なものの準備に取り掛かるのだった。
「レオンさま。川や海での運搬は官営ではなく民間の会社に移していくのもいいですね」
工房の様子を見ていたレネは、そう提案するのだった。




