第232話 本当にできんの?
「これでは先が思いやられるな」
ディーヴァとオイゲンは顔を見合わせてため息をつく。ただレオンシュタインとティアナはしきりに感心し、穴にペタペタとさわっていた。こんなに堅い石に軽々と穴を空けていく様子は、見ていて爽快だ。ディーヴァたちの様子を見ていたマーニは二人の心配を察し、元気付けるように言葉をつなぐ。
「ディーヴァさん、オイゲンさん。魔力はね、使えば使うほど増えていくことをお忘れ? 限界まで使えば、超回復で明日には2割増しくらい増えるのよ」
10の魔力が12になり、14、17、20と単純計算で、5日で2倍に増えることになる。今のペースで考えると1週間後には2mの穴が掘れ、2ヶ月もあれば必要な掘削が終わる計算になる。
「まあ人間だから計算通りには、いかないけど。でも、どんどん掘れるようになるのは間違いないねえ」
これからもこの掘削作業を継続しようと、オイゲンとレオンシュタインは1日の作業賃を銀貨3枚(3万円)に決める。今日であれば10分の作業で銀貨3枚と破格ではあるが、魔法を使う人に村に定着してほしいこと、後半はそれなりに複雑な作業も入ってくることから、その賃金にしたのだ。
ルカスや若者たちは、いい小遣い稼ぎになったと大喜びだ。若者たちはポーションを飲んで超回復をしようとしたけれどもマーニがそれを止める。
「魔法は自然回復が一番だよ。無理な超回復は身体を壊すもとさ」
その忠告に納得したみんなは村へ帰る馬車に乗り込むのだった。
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翌日からマーニの提案で、作業と合わせて魔力の使い方も訓練することになった。イメージすることにで岩を四角に削ることも可能だと言うのだ。若者たちはすぐにコツを掴み、レンガのような形で掘りすすめる。ルカスもすぐに……とはいかなかったが、やがて四角に掘れるようになった。
「魔法も便利なものだな」
ルカスは感心したように四角に掘られた岩壁を眺めていた。作業が進むにつれ、掘った砂利が足元に積もるようになってきた。それを運搬する人を手配するためにレネはオイゲンに相談する。すぐにオイゲンの水道チーム200名が呼ばれ、作業に当たることになった。運んだ砂利は新たな道を敷設するのに使えるため作業に無駄がない。
これまで港からノイエラントの中心部まで曲がりくねった道しかなかったけれど、オイゲンはそれを真っ直ぐな広い道にするように提案した。
「ここに港ができたら、人の往来も激しくなる。今のうちに通りやすい道をつくっておくべきだな」
レオンシュタインは快諾し、すぐに実行に移される。黒い道が少しずつ伸びていくのだった。
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ある日、作業の見学に来たレネとサラは作業の様子を見学した瞬間、レオンシュタインを近くの作業小屋に引っ張っていった。
「レオンちゃん!! あの魔法ができる人の給料は上げたほうがいいよ。銀貨10枚でも全然高くない!!」
「レオンさま、私もサラさんと同じ意見です。あの人たちは我が村には欠かせない人材になります。給料を少しずつ上げていきましょう」
レネは道路やトンネルなど様々な土木作業が楽になること、サラは鉱山開発で活躍すると断言していた。
「石を砕かなくても小さくしてくれるんだから、素晴らしい魔法だよねえ。人数が増えれば鉱山開発の作業効率がどれだけ上がるかわからないわ。凄いね」
レオンシュタインはニコニコしながら、その話を聞いている。ただ、レネは少しずつ給料を増やしていくことを提案した。いきなり1日に銀貨10枚では、1ヶ月に20日働いたとして銀貨200枚(200万円)になる。
「いきなりお金を手に入れては、お金に振り回されてしまいます。生活に害が出るかもしれません。少しずつ増やしましょう」
商会で働いていたレネは、お金の恐ろしさを十二分に知っていた。お金は嫌なことを遠ざけ、夢を叶えることもできるが、人を破滅させることもある。サラもレネの提案に賛成し、まずそのことをルカスに告げてみた。
けれどもルカスはいい顔をしなかった。
「1日に銀貨3枚(3万円)。それに対して砂利の運搬は銀貨1枚だ。3倍の賃金差はギリギリの線だと思う。サラさんの主張する1日に銀貨10枚にしたら20日で銀貨200枚(200万円)になるぞ。レネさんよりも多いじゃないか」
腕を組んだルカスはレオンシュタインやレネを真剣な表情で見つめる。
「魔力を使っても、手作業でやっても、同じ労働なら同じ賃金がいいと自分は思う。でなければ、やがて魔法を使える者への嫉妬が差別を生み、やがて排斥に繋がるような気がする。逆に魔法を使える者が増長してしまうこともある。それはノイエラントに相応しくない……と思うな」
それを是としつつレネは1つの懸念を話す。
「でも、他の領土が多くの賃金で引き抜きをしたら」
「その時はそのときだ。移動する奴は仕方がない。ただ、働くときに大事なのは何も賃金の多寡だけじゃない。働く人が大切にされて気持ちよく働けるかどうかだ。働いている人たちが人生を楽しめる環境作りにお金を使う方がいいんじゃないか?」
さすがに年長者の意見は深く、レネやサラも笑顔でその意見に同意する。レオンシュタインもルカスのような人が村にきてくれたことを改めて感謝するのだった。
§
「本当に出来たんだね……」
ティアナの感嘆も無理はない。2ヶ月の作業の結果、道幅が5m、長さが50mの船着き場がついに完成したのだ。船着き場に外洋船が横付けすれば、木の橋を掛けて多くのものを降ろすことができる。それを馬車で運べば、これまでよりも何倍もの売買が可能になる。
同時にクリッペン地区(ノイエラントの中心街)までの道路も完成したため、領主宅まで20分で移動できるようになっていた。
「あとは、横付けした時に船体が壊れないように、木のクッションを取り付けよう。繋留のための装置も作らないとな」
やるべき事は山ほどあるのだった。




