第230話 定例会議(4月)
王国歴165年4月上旬 朝の9時 レオンシュタインの丸太小屋1階にて――
「4月の定例会議を開きます」
3ヶ月に1回の会議は寒さが和らぐ中、行われた。窓の外には枯れた茶色の中に新緑の緑が地面に広がっていた。ユラニア大陸の南方であるノイエラントは、春の訪れが早いのだ。
会議には領主レオンシュタイン、宰相レネ、宰相補佐フォルカー、外交・会計フリッツ、主任参謀長シノ、次席参謀長グラビッツ、特別参加として建設部門のディーヴァ、水道部門のオイゲンの計8人が参加した。
まず、オイゲンがテーブルの中央に1枚の地図を広げる。みんな、その1枚の紙の周りに集まり、その中央の書き込みを興味深く見つめる。それには港建設の場所とその規模が詳細に記されていた。オイゲンは村の中心から5kmほど離れたブローガング海岸を示しながら説明を開始する。
「ブローガング海岸は浅瀬であり黒いゴツゴツとした岩場が多く、船が接岸するのに適していない。だが海岸の西側は高さ120mほどの切り立った山が岬の先まで続いていて、浅瀬から20mも沖に行くと、水深30mと急に深くなり外洋船の停泊が可能だ」
オイゲンの言葉に力がこもる。
「村の発展のために港の整備が急務だ。ジーナとレベッカが帰ってくる前に目処を付けておきたい」
誰にも異論はなく港の候補地は決まったのだが、作業のやり方が思いつかないとオイゲンが問題点を話し始めた。
「何回か調査に行ったんだよ。でもな、つるはしの刃が入らないんじゃあ、お手上げなんだ」
黒い玄武岩で覆われた崖は予想以上に硬く、そのため昔から開発が進んでこなかったのだ。ディーヴァもそれに続ける。
「確かに外洋船が入港できるくらいの水深はあるし、西風を山が防いでくれる。でも、山裾を崩して岸壁をつくらないと港はつくれねえ」
ディーヴァも悔しそうな表情のままだ。他のメンバーにも硬い玄武岩を何とかする名案が浮かんでこない。
「機械に詳しいハラルドさんに、いい案がないか聞いてみるよ」
レオンシュタインの言葉で工事の件は次の会議までの継続事案となった。
次に、ディーヴァが大学の完成の目処について報告する。村の外れに60mほどの煉瓦造りの建物が姿を現し、村人たちの興味をかき立てていた。2階建てで上から見ると直方体が2つつながってL字型となっている。
L字型がつながった部分に半円状の講堂が設けられている。庭が広く取られており、木々が美しく配置されていた。落成は5月1日になるとのことだった。
「でも、こんな小さな領土に大学かあ。考えてみれば凄えな!」
オイゲンとディーヴァは大学を卒業していない。そのため、建築について学べるものなら学んでみたいと考えていた。知識の塔が完成することは何とも誇らしいことだった。
次にフリッツが先月までの人口等を伝達する。
「村の人口は62,851人です。そのうち、18歳以上が43,995人、それ以下が18,856人となってます。人頭税収入は1ヶ月銀0.5枚に減税しておりますので、銀貨21,997枚(約2億円)となっています。大金貨20枚です」
「人口が急激に増えましたね」
嬉しそうなレオンシュタインの声に、みんなも同意の声を上げる。
「また、土地所有に関する税金は、1ヘクタール(100m×100m)につき1ヶ月銀0.5枚ですので、およそ30,796ヘクタールの畑があることから、銀貨15,398枚(大金貨15枚)枚となりました。」
人口は増えたが、人頭税などの税収は微増だ。
「その他の事業収益は、大金貨で表しますと鉱山が56枚、石材7枚、木材8枚、川の運搬18枚となり、合計89枚です。1ヶ月の収益合計は大金貨約137枚(約13億7千万)です」
「支出に関しては、水道等のメンテナンスで大金貨15枚(約1億5000万円)、村の職員への給料が1ヶ月小金貨1枚(100万円)で大金貨3枚(約3億円)、村の事業関連(大学等の建設)で大金貨10枚で、支出の合計は大金貨28枚となります」
「よって、村の1ヶ月の収益は大金貨109枚の黒字となりました。3ヶ月では大金貨327枚(32億7000万円)です」
フリッツはさらに続ける。
「村の金庫には、現在大金貨1261枚(約126億円)が残っております。グブズムンドルへの借金残高は大金貨1700枚(約170億円)です」
「凄いッスね。このままだと、あっという間に借金がなくなりますね」
呆れたような声でフォルカーは感嘆の声を上げる。
「領主さまがあんまり金をつかわねえから、俺らも質素な生活になっちまったな」
逆の意味でディーヴァはレオンシュタインの行為を褒め称えていた。
「お金を使って人々の生活を潤すのも必要ですよ。レオンさま」
経済の観点からレネはレオンシュタインに話すのだが、このままでいいともレネは考えが揺れ動く。金を使わずにバイオリンを弾くことを楽しんでいるレオンシュタインにとって、これが自然なのだ。
それにしても水晶のおかげで大きく借金が減ったのは喜ばしいことだった。黒字幅も拡大し、前途は明るいけれど魔族や再侵攻など懸念事項は多い。
「ノイエラントの安心のために、みなさん、よろしくお願いします」
「はっ!」
そこでシノが遠慮がちに手を挙げる。
「レオンさま。実は主任参謀長をグラビッツさんにお譲りしたいと思っているのですが」
「シノさん。どうして?」
「シノはレオンさまのお世話に専念したい……」
「シノさん!!」
相変わらずの物言いに、レオンシュタインは赤くなりながら否定する。
「……と、言いたいのは山々ですが別の理由がございます。グラビッツさんの方が私よりも戦略的な考え方が優れているように思うのです」
「戦略的?」
「はい、シノの力は戦術的な場面では発揮できると自負していますが……」
やや憂いを帯びた瞳になるシノをレオンシュタインはじっと見つめていた。
「ユラニア大陸全土を主戦場として考える場合は、グラビッツさんが適任です」
「ま、それもいいが、シノさんには次席参謀としてボードに加わってもらいてえな。このタイミングで代わりたいというのは、ユラニア王国が気になるからだろ?」
「はい」
次の瞬間、グラビッツは容易ならざることを口にする。
「ユラニア王国が再侵攻してくる……とシノさんは考えている。俺も同意見だ」




