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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第4部 戦いの中で 第2章 戦争が終わって

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第229話 アイシャの喫茶店

 王国歴165年3月中旬 朝 新しい喫茶店の前にて――


 喪男パーティが終わってからすこしたって、アイシャの喫茶店『ミルク娘』が完成した。平屋建ての縦4m、横6mの喫茶室+厨房、低いバーカウンターがあり、アイシャが車椅子で移動しながらコーヒーを提供できる。


 厨房もアイシャが車椅子で作業できるよう低く設計されており、洗い物ですら車椅子で出来るこのキッチンは、やがて注文が殺到することになる。


 この建物で特筆すべきはアイシャが一人で用を足せるトイレだった。トイレを一人で済ませられない辛さをディーヴァは痛いほど知っており、目が見えなかった頃の自分を思い出し、試行錯誤を繰り返して完成させたのだ。


 使い方を説明されたとき、アイシャは感激のあまりディーヴァを思わず抱きしめていた。


「嬢ちゃん、いいってことよ」


 照れながらディーヴァはアイシャの頭をポンポンと叩く。また、ディーヴァは不測の事態が起こったときのために、紐を引くと大きな鐘が鳴る仕組みを取り付けていた。紐が台所とトイレにぶら下げられており、それを引っ張ると鐘がなるようになっている。その鐘の音は1kmは優に響き渡るようになっていた。


 今日は落成記念として、午後の2時に棟梁ディーヴァ、宰相レネ、領主レオンシュタイン、食堂店主ローレ、水道屋オイゲン、ティアナが招待されていた。もちろん、夫のレネは店内で手伝う気満々である。


「ようこそ『ミルク娘』へ」


 可愛らしい笑顔でアイシャは招待客を店内に招き入れる。中に入ると暖炉に薪がたくさん燃えており、とても暖かい。全員をカウンターの椅子に座らせ、一般のトイレの場所を説明する。車椅子を自由自在に操り、案内が終わるとすぐに厨房で準備に取りかかった。


「じゃあ、早速、コーヒーを入れますね」


 カウンター席は6人が座れるため、すでに満席である。その席でみんなはアイシャの手際を優しく見つめるのだった。


 コーヒーの入れ方は、1週間ほどローレから手ほどきを受けている。カウンターに置いてある小さな石臼でゆっくりとコーヒー豆をすり潰し、挽いた粉を水と一緒に小さな3つの鍋に入れる。アイシャは器用に車椅子を操り、鍋を薪コンロの上に乗せ、スプーンでゆっくりとかき混ぜ続ける。


「このコンロもディーヴァさんに作ってもらったの」


 笑顔のまま煮出した鍋の中身と砂糖をカップに入れ、まず、ローレ、レオンシュタイン、レネに提供した。3人は、そっとコーヒーカップを持ち一口すする。


「お、美味しい!」

「わあ、良かった」


 両手を合わせ可愛らしくアイシャは喜ぶ。師匠であるローレからも美味しいよと笑顔でお墨付きが得られて、ご満悦だ。すぐに次の準備に取りかかり、ティアナ、オイゲン、ディーヴァにも提供する。


「これ、ローレさんの店と同じくらい美味しいね」

「嬢ちゃん、たいしたもんだよ」


 アイシャの手際の良さにティアナは感心しきりだ。あっという間に飲んでしまったディーヴァは、お代わりを注文する。店内にコーヒーの香りが広がり、ほっこりとした空間が出来上がっていた。

 

「明日のオープンが楽しみだね」


 感想を述べたレオンシュタインに続いて他のメンバーたちも口々に楽しみだと話す。飲み終わるとレネを残して、みんなは仕事に戻っていった。厨房に入ったレネはアイシャの横に立ち、肩に手を置く。


「アイシャ、疲れてないか?」

「大丈夫、大丈夫! 上手くいって良かったあ」


 ほっとした笑顔を見てレネも笑顔になる。レネの方に顔を向けたアイシャは、嬉しくて堪らないといった声で話しかける。


「ねえ、レネ。この領地は本当に夢を叶えてくれるところだねえ。私、毎日、夢じゃないかって、ほっぺをつねってるの。つねってみる?」

「いや、いいよ。でも、俺も嬉しい。アイシャは今までも生き生きしてたけど、もっともっと笑顔になってるからな」

「惚れ直した?」

「いつでも好きだよ」


 顔を見つめ合って、小さく微笑み会う。今まで二人だけで話すことが多かったアイシャの交流が、大きく広がることにレネは一抹の不安を感じていた。けれどもアイシャ自身は、それが自分の人生をさらに素晴らしいものにすると確信していた。二人で後片付けを済ませ、明日の準備をするると、レネはアイシャの車椅子を押しながら自分たちの家に帰っていくのだった。


 翌日、オープンの日、一番最初に花をもってやってきたのはティアナだった。花束ではなく、植木鉢に植えられた黄色いキバナセツブンソウの花だった。


「アイシャさん、これ、お店に飾って」

「わあ、ティアナちゃん。ありがとう。綺麗!」


 アイシャはすぐにカウンターの目立つところに黄色い花をことんと置く。カウンターの一番奥に座ったティアナは、早速、コーヒーを注文する。


「アイシャさ~ん。今日も朝からレオンがさ。シノと仲良くするんだよ! 思わず電撃を出しちゃった」

「あらあら。ティアナちゃん可哀想。詳しく話して」

「それがさあ」


 とにかくアイシャは人の話をよく聞いた。今まで、たくさんの人と話す機会がなかったアイシャは、誰かと話をすることが嬉しくてたまらない。初日10人くらいだった客は、1週間もすると100人くらいに拡大した。お店はいつも大繁盛し、入りきれない客まで出る始末だった。


「ごめんなさい。今、席が埋まってるの」


 悲しそうなアイシャの顔を見ると客は慌ててしまう。


「いいよ、いいよ、アイシャさん。俺、後から来るから、そんな謝らないで」


 アイシャがにっこりと微笑むのを確認してから、客は去って行く。客は少し時間がたってから、再びやってくるのだ。


「アイシャさ~ん、聞いてよ~」

「はいはい。何があったの?」


 今日もアイシャの喫茶店『ミルク娘』は大繁盛のようです。

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