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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第4部 戦いの中で 第2章 戦争が終わって

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第222話 悪霊退散!

 王国歴165年2月24日 夜 ノイエラント境界 ナレ砦にて――


 灰色の石の階段をアリカタはゆっくりと下っていく。足にタビを履いているためか、ほとんど音はしない。ただ、足袋ごしにも石畳の冷たさが伝わってくる。薄暗い廊下には壁に掛けられた蝋燭の炎が揺れて、独特の獣臭さが漂っている。


 アリカタの金色の目が燃えるように光っている。砦に50人のサムライが詰めているというイルマからの情報は、任務の達成が困難であることを物語っている。人の気配は感じないがただ、何かが蠢いているのだけは分かる。


 紙の式神を息で吹きとばし、下の詰め所の辺りにひらひらと落とした瞬間、


「急急如律令呪符退呪《呪符を用いて呪いを直ちに退けよ》」

 

 と、大音声で叫ぶ。石の階段が薄赤い炎で包まれ、奥の方でドサドサと何かが倒れる音がする。


「シキシマ1の呪禁師、ミナモト朝臣あそんイズミ大膳アリカタとは俺のことだ。調伏されたい奴、かかってこい!」


 詰め所の柱の陰にいた5人のサムライが、刀を抜いてアリカタに向かってくる。ただ、動きはぎこちなく木のマリオネットのようだ。


「おいおい、シキシマのサムライが情けねえ! 俺が鍛え直してやる!」


 そう言うと、ジュズを握りしめ「とう!」と、5人に向けて言霊を放つ。「灯」は闇の中に浮き沈みする全ての生きものを救う光という意味があり、サムライたちはその場に崩れ落ちる。アリカタが詰め所のドアを開けると、奥の方に3名のサムライが倒れている。


「8人……」


 独り言のように呟くと、ギイイという大きな音と共にノイエラント側の入口の扉が開く。砦を守るサムライたちが40名ほど砦の外へと走り出ていた。


 その瞬間、アリカタは赤い一つ目が部屋の隅から自分を見つめていることに気付く。


 真っ赤な1つ目の中に縦の瞳孔が光り、蛇のような頭と耳まで裂けた口が不気味さを高めている。紫の鱗が全身を覆っており、口からは赤い舌がちろちろと覗いている。その横にぐったりとした成人前の女性が椅子に座っていた。左手の薬指には、()()()()が光っている。


「ついに魔族の登場か」


 アリカタの目が金色が怒りのために赤黒い光に変わっていた。


 一方、中隊は弓矢の射程範囲外で待機していたが、アリカタが砦の中に入っていったのを見て前進を命じる。


「矢の攻撃に備えつつ砦に接近せよ。アリカタ殿の動きに連動する」


 イルマの命で中隊全員が砦まで100mほどに接近する。イルマはアリカタの援軍として付いてきたサムライ10名を別働隊として砦に走らせる。サムライが砦に走っていったのと同時に、グラビッツがイルマに進言し、革袋の準備に取りかかる。


「中隊長。敵は間違いなく、こちら側に攻めてくる。まずは聖水をかけることを第一目標にし、その後、無力化だな」


 一人一人に革袋を配布する。


「犠牲が少なければいいんだけどねえ」


 自分の中隊を見ながら、イルマはどちらにも犠牲が出ないようにしようと腕を組んでいた。


「中隊長! 敵に動きあり。扉が開きそうです!」


 副官コンラートの声にはっと我に返ったイルマはナレ砦の扉が開き、サムライが抜刀しながらこちらに向かってくるのを確認した。


「グラビッツ殿、作戦指揮をお願いします」


 グラビッツは頷くと、敵を引きつけるように厳命する。


「いいか。聖水をかけることで味方に戻すことができるんだ。本気で当てろ! そして、失敗したときは遠慮せず切りつけろ!」


 革袋を持った兵士たちは力強く握りしめる。失敗すれば、仲間を切らねばならない。


「距離50m!」


 斥候が距離を測って報告する。兵士達は冷静に投げつける瞬間を見計らっている。


「距離25m!!」

「まだ、まだ」

「グラビッツ殿、そろそろ危険です!」


 それでもグラビッツは命令を出さない。


「距離10m!」


 そこで、ようやくグラビッツが命令を下した。


「放て!!」


 革袋が次々とサムライに向かっていき、当たった瞬間、中から水が出てサムライたちの頭を濡らす。その瞬間、白い煙が上がり、サムライが折り重なって倒れていく。


「季節外れの雪合戦のようだ」

 

 また、時折、当たらずに向かってくるサムライもいたが、足元の聖水に足を取られて、動きが遅くなってしまう。そこを近接戦闘が得意な兵士たちが柄杓で聖水をかけていく。


「今だ! 全員、縛りあげろ!」


 グラビッツの命で40名のサムライが後ろ手に縛り上げられる。

 

「よし! あとは砦の接収だ」


 イルマ中隊は、監視役を20名ほど残して砦にゆっくりと近づいていった。


 §


 アリカタは対峙している蛇頭の魔族に向かって、素早く袖にしまっていた式神を放つ。放たれた5つの式神は魔族の周りを飛び回り、見えない糸で縛り付けていた。


「無理ダAAAAAhhhhhh」


 すぐに縛を放つとアリカタに素早く近づき、毒の牙で噛みつこうとする。アリカタはすぐに飛び退くと、火縄で4つの退魔香に火を付け部屋の四方に投げつける。魔族は大きな口を開けて、頭を振り続ける。


「嫌そうだな」


 あざ笑うアリカタを魔族は1つ目で憎々しげに見つめる。アリカタは全く容赦しなかった。

 

「ノウマクサンマンダ……」


 不動明王の真言を大音声に唱え始める。石壁に響いて真言の言葉の力が高まっていくことを感じる。


「悪霊退散!!」


 ジャラッとジュズが空中で鳴らされると魔族が膝を地面に着く。同時に砦の上から侵入し、階段を下りてきた味方の別働隊が破魔矢を放つ。ドツンドツンという音をたてながら、矢は魔族の身体に突き刺さっていく。


 さらに砦の入口から登ってきたイルマ隊の兵士が、動きの止まっている魔族の頭に聖水をザブリとかける。すぐにシュウシュウと肉や鱗が溶ける嫌な匂いが、詰め所に広がっていく。苦しそうに口を開けた魔族の口の中に、アリカタは退魔香を投げ入れる。吐き出そうとした魔族の頭を剛力で抱えながら、さらに締め付ける。


「遠慮すんなよ!」


 呪符を取り出し大音声で唱える。


「急急如律令呪符在禁《呪符を用いて直ちに在るを禁ずる》」


 言い終わると同時に退魔香を拳で喉の奥へ叩き込む。素早く魔族から離れるとサムライから破魔矢が斉射され、ハリネズミのようになった魔族はその場に倒れ込んでしまった。残っている聖水をさらに頭からかけ、魔族はようやく動かなくなり身体が崩れていくのだった。

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