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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第4部 戦いの中で 第2章 戦争が終わって

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第221話 沈黙のナレ砦

 王国歴165年2月19日 夜も更けた頃 ノイエラント レオンの小屋にて――


「レオンさま、起きていらっしゃいますか?」


 シノの遠慮がちな声でレオンシュタインは目を覚ます。傍らに眠っているティアナを起こさないように、ゆっくりとレオンシュタインは階下に降りていった。そこにはノイエラントの主要メンバーが勢揃いしていた。レネが代表してナレ砦の件を説明する。


「フォルカーから報告を受けていたナレ砦の件です。ナレ砦からやってきた兵士がティアナ殿を襲い、そのまま砦に戻っていったとの報告を受けています。フォルカーは少ない兵士では砦を解放できないと判断し、ティアナさんを無事に返すことを優先したとのことです。冷静な判断です」


 グラビッツはそれに続ける。


「あいつは冷静だったよ。警備に当たっている兵士が何人か、また、操られている兵士が何人か判断できない以上、この判断は適切だ。見張り4名に通行者の安全も依頼したとのことだ」


 ほっとした空気が流れる中、フリッツがナレ砦を魔族に占拠されている可能性もあると述べる。早急に対処しなくてはならない。シノが方針を決定する。


「イルマ中隊200名は、サムライ10名と共にすぐにナレ砦に赴いて情報収集にあたってください。フォルカーさんが買ってきた封魔香や破魔矢を持っていてくださいね」

「分かった」


 頭を下げたイルマは、すぐに近くの第2中隊兵舎に走り出す。そして、信頼する副官を一瞥する。


「コンラート! お前は破魔矢などの在庫を確認しろ!」

「了解です」


 副官のコンラートは表情を引き締めつつ、破魔矢などを積んだ馬車へと向かう。シノはそれを眺めつつ、グラビッツの方へと向き直っていた。


「グラビッツさん、第2中隊の参謀として行ってもらえませんか?」

「いいぞ」


 そう返事をすると、グラビッツはなぜか教会の方に走っていってしまった。


 レオンシュタインは人々の少し奥にいたアリカタに近づいていく。


「アリカタ殿。私どもは魔族との戦い方を知りません。砦に赴き、一緒に戦っていただけませんか?」


 右手の親指と人差し指で丸を作ったアリカタは、いくらもらえるのかと暗に尋ねてくる。


「小金貨5枚(約500万円)でいかがでしょうか?」


 間髪を入れずにレオンシュタインは頼み込む。その多さに思わず笑ってしまったアリカタだったが、すぐに右手を差し出し同意の握手をする。


(おいおい、シキシマにいた頃の2年分の給料を1日で出すとは。裕福なのか、それとも……)


 アリカタも砦に赴くこととなった。


 §


 三日後、イルマ中隊はナレ砦に接近し、斥候を出して詳細を確認する。不自然なことに多くの商隊で賑わうこの街道に人っ子一人見えないのだ。30分ほどで斥候は戻り、砦は不自然なほど静かで扉も閉められていると報告する。


 イルマ、グラビッツ、アリカタが対応策を話し合い、まずアリカタが自分が行ってくると宣言する。


「自分の言霊で様子を見る。俺が砦に登り始めたら退魔香や破魔矢の準備をして砦に来てほしい」


 そう話して懐になにやら詰め込むとスタスタと砦に近づいていった。歩いて行くアリカタを見送りながら、グラビッツは5人の部下に背負ってきたものを降ろすように命じる。3つの麻袋の中には、小さな革袋が各50個ほど入っていた。2人が背負っていた2つの麻袋には50cm程の樽が入っている。


「さあ、お前ら。革袋に聖水を詰めるんだ!! この革袋を投げつけるんだよ」


 魔族が出る前からアンドレア神父は依頼を受けて聖水を作り続けていた。依頼主は医師のロッジェリオである。科学的な見地からも、聖水はただの水より清浄であることが分かっている。聖水の満ちた50cm四方の樽が教会に3つ置かれていたのを、敬虔なグラビッツは知っていたのだ。そのうち2つをアンドレア神父からもらってきたというわけだ。


 すぐ革袋に聖水が詰められる。口は麻紐で軽く結びつけるように厳命される。


「あんまり固く結んだら、聖水が出てこないだろ。ちょうどいい塩梅で結ぶんだぞ!」


 木の箱に布を敷き、革袋を並べていくと、ちょうど150個の革袋が準備される。残った聖水は柄杓から直接かけることにした。


「弓を射るよりは、まずはこれかな。同じ味方だからな」


 そう言うとグラビッツは砦の方を見つめるのだった。


 アリカタが砦の側に立っても誰も顔を出さないし、谷は鳥のさえずりか聞こえるくらい静かである。早速ジュズを懐から取り出したアリカタは、ジャラジャラと音を立てる。ジュズを握った右手を頭の上に掲げ『喝!』と一声吼えると、その声は山々に木霊していく。 


 卵ほどの灰色の紙を砦の地面に5カ所埋め込み、左の人差し指と中指の間に10枚ほどの紙を挟んで、口の前に移す。目を瞑り集中を高めると、丹田に力を込めて思い切り声を出す。


「急急如律令呪符退呪《呪符を用いて呪いを直ちに退けよ》」


 呪符がアリカタの前で燃え、その炎は砦全体を包み込むように燃え上がる。しばらくすると砦の扉をガンガンと叩く音が聞こえ始める。砦を見上げたアリカタは、懐から鉄のカギがついた紐を取り出し、砦の上に思い切り投げつける。


 綱を引っ張り綱が落ちてこないことを確かめると、おもむろに綱をたぐり寄せるように登っていく。


(何といっても小金貨5枚だしなあ)


 驚異的な速さで綱を登り、あっという間に砦に上がってしまう。懐から綱を2本取りだし、近くの鉄の輪に結びつけながら下に放り投げる。遠くからイルマの中隊が接近いているのが確認できた。


「やるなあ。あのボインの姉ちゃん」


 ニヤニヤと笑みを浮かべながら懐から紙を取り出す。


「魔族は滅殺する」


 笑いを収め、アリカタは鋭い目つきでゆっくりと階段の方へ歩いて行った。

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