第220話 ティアナの帰還
王国歴165年2月19日 襲撃のあった日の夕方 ノイエラント 小屋の前の広場にて――
「レオンさま、無事にティアナさんを連れて参りました」
レオンシュタインやレネなど、村に残っているメンバーは総出でフォルカーを出迎える。しかし馬車にも馬上にもティアナの姿はない。
「フォルカーさん、ティアはどこに?」
レオンシュタインがそう尋ねた瞬間、荷車に掛けていた布を払いティアナが立ち上がる。
「ここですよ~」
腰に手を当て不敵な笑みを浮かべながら、出迎えの人たちを見下ろしていた。思ったよりも元気そうでレオンシュタインはほっとし近寄っていく。荷車から飛び下りて地面に立ったティアナは、よろけてレオンシュタインに寄りかかってしまう。
レオンシュタインは、そっと抱きしめて、
「おかえり、ティア」
と、いつもより優しく語りかけていた。
「え? レオン? な、何だか、恥ずかしいかも」
いつも自分から抱きつくことの多いティアナは逆の立場になり顔を赤らめる。しかもシキシマにいたときの気持ちも思い出してしまい、ますます動揺するティアナだった。周囲で見ている出迎えメンバーたちは、微笑ましくその様子を眺めつつ、ほっとした様子を見せる。
それを嬉しそうに見ていたフォルカーは急に目の前が暗くなる。
「フォルカー!」
近くにいたグラビッツが駆け寄り、肩を貸す。
「し、師匠……」
一緒に村に来たサムライの一人が手を貸しつつ、昨日までの奮闘を話す。
「フォルカーさまは、ここに着くまで、ほとんど寝てないんです。それに魔族との戦いも勝利に導いて……。凄い人です」
グラビッツはサムライに手伝ってもらいながらフォルカーを背負うことにする。
「フォルカー。よくやった」
「師匠、実はナレ砦周辺で警備兵に襲われました。砦が占領されている可能性もあるッス。見張りを4名残しています。すぐに兵の派遣を……」
「分かった。もう休め!」
「師匠に……褒めら……初め……」
グラビッツの背中でガクリと首を倒すと、そのまま眠ってしまった。
「フォルカーさん」
ティアナも心配のあまり寄ってくる。10名のサムライを指揮し、たった一人で魔族を倒すという知謀や剣の技量は並大抵ではない。グラビッツに背負われながら、フォルカーは近くの宿屋まで運ばれていった。レネはフォルカーの話を聞き、すぐに方針を話し合うべく村長室に急いでいた。
他のサムライたちも宿に案内され、村長小屋の前はレオンシュタインとティアナだけになる。
「さ、ティアも部屋で休まないと」
ティアナを促したレオンシュタインは、ティアナの家まで送ろうとするが、ティアナはスタスタとレオンの小屋に向かって歩き始めた。
「ティア!」
ティアナを追いかけて小屋に入るとティアナは村長室の二階へ上っていき、階段の隙間からレオンシュタインを手招きする。レオンシュタインが階段を上り、西二階の寝室に入ると、ティアナはレオンシュタインが眠っているベッドに腰掛け、魔法で仮面を取り除く。
そうして自分が座っている場所の横をぽんぽんと叩き、ここに座れと無言の圧力を加えてくる。よく見るとティアナは少し痩せているのが分かったが、それがまた美しさを増しているような感じを受けるレオンシュタインだった。
レオンシュタインが座ると、横からティアナが腰の部分に突撃してくる。
「レオン……。怖かった、怖かったよう」
堰を切ったようにティアナは大きな声で泣き始める。魔族の目に見つめられ、とても気持ち悪かったこと、熱が出て具合が悪いとき近くにレオンシュタインがいなかった寂しさを泣きじゃくりながら告げる。うんうんと話を聞きながらレオンシュタインは昔のことを思い出していた。
熱が出て具合が悪いときのティアナは、勝手にレオンシュタインのベッドに潜り、休みながら泣いていたことを。物心がついた頃には両親と死別し、顔も絵だけでしか知らなかいティアナだった。誰かにすがりたくても、すがりつくものがないのだ。
「ティア。何か食べる?」
金髪を優しく撫でながら、昔は笑顔をもたらすことができたやり方を試してみる。
「うん、りんご……」
それを聞き、下にあるりんごを取りに行こうとベッドから立つと、ティアナが猛抗議をしてくる。
「レオンがいなくなるの? だったらいらない!」
また、ぎゅうっと腹の辺りを押さえつける。本当に久しぶりに我が儘が炸裂する。いつもは自分より他人を優先するティアナなのだが、今日だけは無理のようだった。レオンシュタインは微笑むと、またティアナの髪をなで始める。
「分かった。ずっといる。約束」
「絶対だよ。レオン。約束だからね」
そう言うと、ようやくほっとしたのか、ベッドの中に身体を横たえる。その瞬間、すぐに可愛らしい寝息を立てて眠りにつくティアナだった。レオンシュタインはベッドに腰を下ろしたまま、ティアナの寝顔を見つめていた。
「本当に……よかった」
その後もティアナの顔をちらちらと眺めながら、一晩中、側にいたレオンシュタインだった。




