第217話 シノさんが教える魔族とは
王国歴165年2月21日 ノイエラント レオンシュタインの小屋にて――
4人を見送ったレオンシュタインはティアナの派遣をずっと後悔していた。魔族との戦い方が分からない中、魔法攻撃のできるティアナを安易に派遣して良かったのか。いつも自分の横で笑ったり、怒ったりするティアナがいないのは、どうにも物足りない。
「レオンさま、何かお悩みですか?」
朝餉をレオンシュタインの前に置きながらシノが心配そうな目を向ける。ティアナたちをシキシマに派遣してからというもの、レオンシュタインは明らかに元気がない。せっかく作ったポトフと粥が所在なさげに湯気を上げている。美味しそうなスープの匂いが漂う中、レオンシュタインはジャガイモをつついてばかりだった。
「シノさん、魔族ってどんな生きものなんですか?」
シノは手を伸ばしてレオンシュタインの鼻をそっと摘む。
「シ、シノさん?」
「レオンさま、食事の時は食事を楽しみましょう。魔族のことは、食事の後、シノが教えて差し上げます」
ようやく笑顔を見せたレオンシュタインは粥にスプーンを入れ、そのまま口に運ぶ。
「熱!」
とろりとした粥は温度が下がりきっておらず、思わずスプーンを粥に戻す。シノがそれを手に取り、そっと粥を掬うと口元に寄せ、ふうふうと息で冷まし始める。
「ちょ、シノさん!?」
「レオンさまの元気が出るようにシノが食べさせて差し上げます。はい、どうぞ」
笑顔が眩しいが、さすがにそれはどうだろうと躊躇していると、シノが悲しそうに俯いてしまう。
「レオンさまはティアナさんなら食べるんですよね。シノに食べさせてもらうのは、お嫌いなんですよ……ね?」
袂で口元から目を隠し、涙まで浮かべている。
「いやいやいや、そんなことないよ。じゃ、じゃあ、食べようかな」
その瞬間、シノは新たに粥を掬い、息を吹きかけてから自分の琥珀色の唇につける。
「もう熱くないですよ。さあ、どうぞ!」
ますますハードルを上げるシノだった。しかも目力で食べるように圧力をかけてくる。レオンシュタインは逃げ場のない状況に追い込まれていた。その瞬間、呆れたような顔で扉をノックした者がいた。
「イルマ!」
レオンシュタインが安堵の声を上げる中、無言のままつかつかとレオンの横の席に歩いてくる。そして、机の上に置いてあったスプーンを粥に突き刺して掬い、そのまま口にくわえる。
「シノ。この粥、冷ます必要あんの?」
シノは『なんで来たの?』という気持ちを目で表しながらも、作戦が失敗したことを悟っていた。
「あらあら、粥がすっかり冷めてしまったようですね。今、新しいものをお持ちします」
そういって席を外すのだった。
「主」
「そ、その、ごめんなさい」
非難の目でイルマはレオンシュタインをじっと見つめる。理由はよく分からないが、なぜか謝る羽目になってしまったレオンシュタインだった。3人でぎこちなく朝食を食べた後、シノは魔物についてのレクチャーを始める。
「シキシマでは、何年かごとに魔族が現れて被害が出るのです」
「被害って、魔族は人間を食べるのか?」
イルマの疑問に、食べるときもあるし、繁殖に使われることもあるとシノは答える。
「繁殖?」
「ええ、魔族同士では子供ができにくのです。そのため魔族と人間との間に子供をなすことが目的のことが多いですね」
「子供? 子供ができたら、それを人間が育てるのか?」
「いいえ、生まれるときに腹が裂けてしまい、母親は死んでしまうのです」
思わず自分の腹をさすったイルマは、言い伝えの魔族が実際に活動している事実に戦慄を覚える。震えているイルマの手に自分の手を重ねたレオンシュタインは、大丈夫だと力強く話しかける。
「どうやって魔族を見つけるのかな?」
レオンシュタインはそのことを是非、確かめておきたい。その疑問に、シノは魔族は人間に擬態していることがほとんどだと伝え、見破るのはとても困難だと話す。続けてシノは魔族の特徴を挙げていく。
「魔族は目に特徴があります。瞳孔が丸ではなく縦になっています。といっても、ほとんど気付きませんね。あとは聖水や魔封じの香が苦手です。呪怨師ならすぐに見破ることができます」
「呪怨師?」
呪怨師とは魔族や鬼を払い、それを封じ込めることを生業にしている者だとシノは2人に教えてくれた。これまでの話からレオンシュタインは魔族対策が急務だと決意していた。
「ノイエラントでも出ないとは限らない。まずは呪怨師に会う必要があるね」
そう話していた矢先に、シキシマに派遣していたメンバーと呪禁師アリカタが村に到着し、レオンの小屋にやってきた。
しかし、そのメンバーの中にティアナがいないのだった。




