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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第4部 戦いの中で 第2章 戦争が終わって

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第215話 魔族との戦い

 王国歴165年2月8日の朝、アリカタがヤクモにつくと、宿屋は奇妙な静けさに包まれていた。


 警戒しながら宿に入ると宿は通常通り営業していた。アリカタたちが警戒しながら中に入っていくと、調査団のメンバーは食堂にいて朝食後のコーヒーを楽しんでいた。


「確かアリカタ殿でしたか? お疲れさまです」


 笑顔で話しかけてくるリーダーはアリカタに椅子をすすめてくる。


「申し訳ない。どうやら私の早とちりだったようです。宿の主人にも悪いことをしてしまいました」


 椅子に座ろうともせず、アリカタは食堂の入口で立ち止まったまま周囲を警戒する。


「宿の主人はどうした?」

「先ほど、買い物に出かけましたよ」


 懐からジュズを取り出したアリカタの目に、一瞬だけ悲しい影がよぎる。次の瞬間、ジュズを頭の上に掲げ『喝!』と大音声を発する。胸から卵ほどの紙を一枚だけ掴み、左の人差し指と中指の間に挟んで、口の前に移しった。紙の灰色が光って見える。


呪禁師じゅごんし、なめんなよ! 急急如律令呪符退呪(呪符を用いて呪いを直ちに退けよ)」


 呪符がアリカタの前で燃えると炎が一瞬で部屋中に広がり、すぐ消える。食堂にいた調査団の4名と宿の奥さんは、頭をがくんと前に倒すと体中の力が抜けたように、その場所で動かなくなってしまった。


 けれども、すぐに奥さんが大きなお腹を抱えたまま椅子から立ち上がった。


「アリカタさん……でしたっけ? みんなに何をしたんです?」


 その奥さんの左手に指輪がつけられているのを見て、アリカタは語気を荒げる。


「奥さん。その指輪は旦那さんからもらったのか?」

「ええ、彼が結婚の約束をしてくれたときに、もらったんです」


 うれしそうに眺める奥さんをアリカタは絶望の目で眺める。


「でも、まだ結婚式はしていない。……ちがうか?」

「ええ、子どもが生まれたときにしようって」


 行儀悪くテーブルの上に上がったアリカタは、どすんと音を立てて胡座あぐらをかく。


「せめて、安らかに。ओं अ मोघ वैरोचन महामुद्रा मणि पद्म ज्वाल प्रवर्त्तय हूं(不空なる御方よ、大日如来よ 宝珠よ蓮華よ 偉大なる印を有する御方よ 光明を放ち給え)」


 アリカタは光明真言こうみょうしんごんを力の限り唱え始める。 


 光明真言は、過去の一切の罪障ざいしょう除滅じょめつする呪文でアリカタの力を飛躍的に高めるが、反面、生気が使われてしまう。


 呪文が響くと、奥さんのお腹が動き始め、声を上げて苦しみ始める。ひたすら真言を唱え1時間が経過したとき、ようやく奥さんの顔に安らぎが訪れる。その瞬間、大きな破壊音を立てて窓ガラスを突き破り、宿の主人が食堂に入ってくる。背中から黒い翼が生えていて、どう見ても人間には見えない。


 奥さんに近づき、外に運ぼうとしていた。


「急急如律令呪符禁動! (呪符を用いて動きを直ちに禁止せよ)」


 呪符が燃え、宿の主人の動きが止まる。 


「今だ! お前ら、香をたけ!」


 アリカタの声で隠れていたサムライ2人が、部屋の4隅に香を置いて火をつける。宿の主人は、口を押さえて苦しみ始めた。


「もう人間のフリをする必要はないぞ! 急急如律令呪符禁擬(呪符を用いて擬態を直ちに禁止せよ)」


 その瞬間、主人の顔から皮がするすると剥がれていき、真っ赤な目をしたトカゲのような顔が現れた。目をよく見ると、魔族の象徴でもある瞳孔が縦に割れている。皮膚は紫の鱗で覆われ、口からは舌がちろちろと動いているのが見える。


「お前ら、これから毎日、封魔香を切らさずに焚くんだ。それと、俺の近くに水と食べ物を用意してくれ!」

「分かりました」


 そう言うと再び光明真言を唱え、急急如律令を発し続ける。


「俺はお前には負けない! 負けるわけにはいかない!!」


 ジュズを鳴らし、さらに大音声をあげるアリカタだった。

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