第213話 ティアナの秘密
王国歴165年2月3日 午後2時 ノイエラント レオンの丸太小屋にて――
「断……絶?」
ティアナは思わずレオンシュタインに寄りかかる。無理もない。今まで身寄りがいなかったティアナは、自分のルーツが分かった瞬間また独りぼっちになってしまった。レオンシュタインがティアナの肩を強く抱き寄せる。レネがコーヒーのお代わりをお願いし、マーニのカップにコーヒーが注がれる。
「アルプレヒト公爵領は今のヴェルレ公爵領とほとんど同じ場所にあるよ。それが、あまり知られていない理由だねえ」
マーニは暗い表情になる。どうしてもティアナには辛い話になるからだ。
「今から20年前の春だったねえ。王国に魔族が攻めてきたんだよ」
繁殖時に魔力の高い女性をさらおうとする魔族はアルプレヒト公爵領に目をつけていたらしい。
「迎撃のためにアルプレヒト公や長男クリストハルト、次男アーベルが出陣し、見事魔族を撃退したんだ。私も参加したんだけど、そりゃあ、ものすごい攻撃魔法だったよ」
遠い目をしながらマーニは言葉を続ける。
「でもねえ。その出征中にヴェルレ公爵がアルプレヒト公爵が魔族に通じていると王に訴えたんだ。魔族からアルプレヒト公爵の妻に当てた手紙が見つかった、と。そのためアルプレヒト公爵の妻や長男クリストハルトの妻が拷問にかけられたのさ」
「ヴェルレ公爵は次男アーベルの妻マグダレーナにご執心でね。ずっと言い寄っていたんだけど、マグダレーナはアーベルと結婚してしまったんだ。それでも諦められなかったんだろう。あの美貌だからね」
マーニがコーヒーを口に入れると思わずゴクリと音を立ててしまう。緊張を隠せないのだ。
「噂ではマグダレーナはヴェルレ公爵からアーベルと別れて自分と結婚すれば、アルプレヒト公爵を助ける口添えをすると言ったらしいんだけど、本当の所は分からないねえ。結局、拷問の末、手紙が本物だと二人の妻が話したからね」
「王は激怒し、アルプレヒト公爵の一族を皆殺しにするよう命令が下されたんだ。抵抗すれば妻を殺すと言われたアルプレヒト公爵、長男、次男は、おとなしく帰国し、みんな公開処刑になったんだよ。魔族の謀略を未然に防いだヴェルレ公爵はアルプレヒト公爵領を拝領したんだ。魔族に与したアルプレヒト公爵のことは歴史書の中から消されることになったのさ」
入れてもらったコーヒーがすっかり冷えてしまったけれども、喉が渇いたマーニは全てを飲み干してしまった。周りは静まりかえったままだ。
「亡くなったはずの次男アーベルと妻のマグダレーナがどうしてシュトラント伯爵領にいたのかは分からないね。そもそもアーベル殿が死んだところを見たからねえ」
燃え盛る木々の上で磔刑にされていた光景を思い出す。
「アーベル殿の子どもがティアナちゃんだとはねえ。世の中は広いようで狭いんだね」
そこまで話を聞きレオンシュタインは5月の侵攻はそれが原因ではないか、と周囲に目をやる。
「確証はありませんが、そう考えれば方が辻褄が合います。私たちはシュトラント伯爵がティアナ殿に執着しているとばかり考えていましたが、もう一度考え直さなければいけないですね」
フリッツの考えにレネも賛同する。
「仮面のおかげでティアナ殿の安全は守られていたというわけですね。でも、これでレーエンスベルク領が攻めてきた理由が何となく見えてきました。シュトラント伯爵には辺境伯を動かすほどの地位やお金はありません。辺境伯を動かせる人物は、王か公爵くらいです」
全て憶測になってしまうため回答は出せないものの、これからの方針は決められそうだ。
「まず、王国へ情報収集の人材を派遣すべきです。ウルリッヒ卿を頼りましょう。次に軍備を整えましょう。2回目の侵攻がないとも限りません」
レネが方針を立てる中、バルバトラスが口を挟む。
「しかしマグダレーナ姫にご執心のヴェルレ公爵が、今度はその子どものティアナにご執心とは。業が深いですな」
それを聞きフォルカーが疑問を出す。
「でも不思議ッスね。黒幕がヴェルレ公爵だとすれば、なぜアルプレヒトという名前を出したんスかね?」
確かに不思議と言えば不思議だ。ティアナに執心だとしても、アルプレヒトの名前を使うこともない。
回答はでなかったものの、フォルカーは何かが引っかかっていた。
(結構、裏がありそうッス)
とりあえず散会しようとレネが終了を宣言したとき、一人の伝令兵が急いで小屋の中に入ってくる。
「報告。シキシマ国のカゲツナ殿より早馬が参りました。北西方向の山へ向かわせた調査団が魔族と遭遇したとのこと。詳細は不明です」




