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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第4部 戦いの中で 第2章 戦争が終わって

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205/259

第205話 調査団派遣

 王国歴164年12月16日 午前9時 ノイエラント 村長室前にて――


 翌朝、サラ、ヤスミン、ティアナ、フリッツ、グスタフの5名の調査団は東側の山に向けて早々に出発していった。


「気をつけて!」


 自分も行きたいレオンシュタインは後ろ姿を恨めしそうに見守っていた。見送った後、レオンシュタインは村長室に入り、レネ、シノと共に西側地域の調査団の人選に入る。


「ヨシアスさまがよいのではありませんか? 帰ってこなくても大丈夫ですし」


 冷たい笑顔でシノの毒舌が冴え渡る。いやいやとレオンシュタインは否定しそうになるが、土の調査に慣れているヨシアスならば湖水の発見も容易だろうと考え直す。川が流れておらず、水路も建設していない西側地区は飢饉対策のための湖を探すことが急務だ。硬質磁器の材料探しで行き詰まっているヨシアスには、いい気分転換となるだろう。


「私もヨシアス殿がよいと思います」


 レネも控えめに賛成したことから西側の調査団をヨシアスに依頼することにする。北西側のシキシマ領はシキシマ国のマサムネ殿に早馬で連絡を出すことに決まる。早馬の準備をしている中、ヨシアスがいそいそと村長室にやってきた。


「シノさん、今日も黒髪が美しいですね。シノさんからの呼び出しと聞いて、このヨシアス、すぐに参上しました」


 優雅に挨拶するヨシアスを見るシノは、笑顔だが目が全く笑っていない。その雰囲気に全く気がつかないヨシアスは相変わらずである。次々とシノのことを褒めまくるが、シノは馬耳東風のままレオンシュタインのコーヒーを持ってくると言い残し、奥に引っ込んでしまった。


 ため息をつきながらレネが西側地区の調査についてヨシアスに依頼する。


「分かった。依頼を受けよう。シノさんかイルマさんが一緒に行ってくれるといいのだが」

「無理です」


 レオンシュタインのコーヒーを持ってきたシノが間髪を入れずに答え、イルマも任務で難しいとレネが断りを入れる。残念そうな顔のまま、ヨシアスはレネの方へと顔を向ける。

 

「で、何を見つければいいのか?」

「飢饉対策の沼か湖の発見です。ある程度の大きさが必要です」


 それこそが飢饉を救う道だと言い含められヨシアスは出発を決意する。ただ、最後まで女性随行員について主張を続けるヨシアスだった。


 翌朝、小屋の前で男性だけの調査員に囲まれたヨシアスが、悲しそうな目でレオンシュタインを見つめていた。何も言うことができなかったレオンシュタインは、引きつった笑顔でただ無事を祈りますとしか言えなかった。馬上で魂が抜けたようなヨシアスは、ゆっくりと西に向かって出発していく。


 また、シキシマ国への使者も同時に北西に向かって出発する。


 どの調査団も1ヶ月以上は戻ってこないだろう。その間にやるべき事が山ほどあるレオンシュタインだった。その中の一つが軍幹部候補の募集・育成である。幹部候補として副長に相応しい人材を募集したけれども、今のところ誰も呼びかけに応じていなかった。


 そのため中隊に所属している人材の育成を計画していたところ一人の男が村長室を訪れたのだった。


「あの~。この村では兵士や参謀なんかを募集してるって聞いたんだけど」


 ボロボロのマントを身につけ、破れが目立つ袋を背負った髭もじゃの男が現れた。身長は175cm、髪の色はくすんだ金髪で目は美しいブルーの持ち主だった。


「俺、戦史研究家なんだけど働くとこあるかな?」


 珍しそうに村長の館をジロジロ見ていた男はレオンシュタインの横にいたシノに目を奪われる。ゴート族には拒絶感がないことが分かり、レオンシュタインはニコリと微笑む。


「こんなに美しい人が参謀とは恐れ入ったなあ。ノイエラントだっけ? 素敵だね」


 ひたすら感心する男にシノは何も答えず、代わりにレネが名前を尋ねる。


「あ、俺、グラビッツっていうんだけど有名?」


 誰も知らなかった。レネとシノは早速人となりを確かめようとする。

 

「今までの仕事は何ですか?」

「川の渡し守さ。忙しくないから、その合間に自分の趣味に没頭してたんだけど。ここ、給料がいいって聞いたんで働いてみようかと思って」


 頭をかきながらグラビッツは大きなあくびをする。どうやら、ここまでずっと歩いてきたらしい。


「戦史研究家ってどんなことをなさるんですか?」


 シノの質問に答えるようにグラビッツは袋から1つの巻紙を取り出す。それをテーブルに広げると、詳細な地形図が現れた。いろんな図形や感想がかき込まれている。


「これは8年前のイエーナの戦いを調べたものだけど」


 さらに地図の裏側にも勝因や作戦に関する考察がびっしりと書いてあった。


「イエーナの戦いでは、レーエンスベルク辺境伯軍3000対ヘレンシュタイク軍3000の歩兵の戦いだった。装備も大きく違ってないし、違っていたのは作戦だな」

「作戦?」


 レーエンスベルク辺境伯軍の参謀はイグナーツで、ヘレンシュタイク軍の参謀はアロンソという人物だと紹介し、その作戦も詳細に説明する。


「ヘレンシュタイク軍が部隊を2つに分けて挟撃しようとした時、レーエンスベルク辺境伯軍は全軍で1つの部隊を攻撃し、これを壊滅。もう片方のヘレンシュタイク軍はそのまま撤退ってわけだ。オーソドックスな各個撃破だが特筆すべきは参謀イグナーツの情報収集能力だ。それが勝因だ」


 先般の戦でイグナーツの有能さを嫌というほど理解したシノだった。頷いたシノを見て、レネは男に合格を告げる。


「へえ。これだけで合格とは仕事が早いね」


 レネと握手を交わし、とりあえず幹部候補生として学ぶことが決まる。だが実践経験が0の上に実力も定かではない。ただの戦史マニアかもしれない。まず各部隊の副長と模擬演習をすれば実力が分かる。宿舎がすぐに割り当てられて、お金も支払われることを聞きグラビッツはますます驚きを隠せない。


 案内役の兵卒の後を猫背でついていったこの男は、幹部候補の会合で大きな騒動を引き起こすのであった。

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