第200話 ジーナ&レベッカ
王国歴164年12月12日 午後6時 クリッペン村 ローレの食堂にて――
夕方、ジーナとレベッカの壮行会とフラプティンナ、ヴィフトとのお別れ会が盛大に開催された。山と積まれた豚肉と魚、野菜がこの地の豊かさを表し、ローレの食堂は大賑わいだ。店員が笑顔で料理を運び込んでいる。自家製のビールが出回り、苦みが爽やかな地元産のビールは引っ張りだこになっていた。
参加者はみんな飲み過ぎて、次の日の出発が危ぶまれるほどだった。
ただフラプティンナは乾杯をしたあと、すぐに宿泊場所に戻っていった。さすがに今日くらいは警備主任にお酒を飲ませてあげようと自重したのだ。侍女と護衛騎士たちもパーティーに参加させようと、ティアナたちと入れ替わらせる。
広場の中央では、ジーナが飲めない分、レベッカが2倍飲んで大騒ぎしていた。造船の仲間から胴上げされて、2人とも夢に挑戦する嬉しさに溢れていた。
「親方! 川の運搬船のメンテナンスは任せてくださいよ!」
職人頭は胸を叩き2人に宣言するのを受けて、ジーナも安全第一を申し渡す。その様子を眺めていたヴィフトの隣にフリッツがビールを持って腰掛ける。
「いいものですね。夢に挑戦する若者は」
ビールをぐっとあおったヴィフトを見て、フリッツはお代わりを注文する。
「ヴィフト殿も、かなりお若いとお見受けしますが」
「いやいや、私はサポートにまわることが増えましたね」
お代わりを持ってきた店員がジョッキと、さらに野菜を煮たポトフを置いていく。
「野菜の味が強くて本当に美味しいです」
スプーンで一口味わったヴィフトは、賞賛の声を惜しまない。嬉しそうに賞賛を受けたフリッツは、すっと声を低くする。
「ヴィフト殿、実は我がノイエラントはこれから自由都市同盟に参加する予定です。その時、グブズムンドルから支援をしていただきたいと思っております」
ジャガイモをフォークで刺したヴィフトは、行儀悪くそれを囓る。
「王国の支援はよいのですか? 我が帝国からの支援を受けると王国から睨まれるのではないですか?」
「レーエンスベルク、シュトラントから攻められた状態を放置している王国には、何も期待できそうにありません。我が地を攻めさせたのはユラニア王国ではないかと私は疑っています」
話の内容が大きくなりヴィフトは思わず周囲を見回してしまう。フリッツは話しすぎたという表情で、牛肉の串焼きを注文し話題を元に戻した。
「ノイエラントはこの通り発展はしていますが、十分な大きさになっておりません。王国に認められてもおりません。それでも、いつかは相応しい都市になる予定です」
「確かに、この地の豊かさを見れば不可能ではないように思えます。そのためにも港の建設は急務だと思いますよ」
さすがにヴィフトは村の弱点を見通していた。山越えの細い道だけではノイエラントは発展しない。その弱点はジーナたちの活躍で改善していたのだけれども、大型船での交易は必須といえた。
「分かっています。戦争が終わった今、港の建設は最優先で取り組みます」
牛串が皿に入れられて運ばれてくる。そこで話を区切ると二人は香ばしく焼き上げられた牛串をゆっくりと味わった。
「それにしてもヴィフト殿は帝国の重臣。フラプティンナ姫は帝位継承権第2位の姫君。このような場所にお越しとは恐縮するばかりです」
「いえいえ、私も姫もレオンシュタイン殿のファンですからね。演奏を聴けるのであれば万里の波濤を越えてきますよ」
冗談めかして話すヴィフトだが真の狙いは別の所にあった。丁寧に口の周りの油をハンカチで拭いとりながら、さらにもう一本の牛串に手を伸ばす。
「停戦については本当に渡りに船でした。何とお礼を言ってよいか」
「いえいえ十分なお礼をいただきましたよ。それよりも、レオンシュタイン殿は一段とよい顔つきになりましたね」
ヴィフトはジョッキ越しにレオンシュタインを眺めている。フリッツには、いつもと同じように微笑みながら人の話を聞いているようにしか見えない。
「新たな女性も付き従っているようだ。しかもゴート族まで……。緑色の瞳に黒い髪が美しいですね」
「常に美しい女性が寄ってくるというのも問題なんですよ。トラブルがないのが信じられないくらいですね。いや、あるのか」
二人は顔を見合わせて大いに笑う。
パーティー会場にはそのような笑顔が至る所に溢れかえっているのだった。




