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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第4部 戦いの中で 第2章 戦争が終わって

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第198話 懐かしい演奏

 王国歴164年12月12日 午前7時 クリッペン村 ティアナの家にて――


 帰国前日の朝7時、フラプティンナは誰よりも早くベッドから飛び下りる。


 今日は、村の教会でレオンシュタインと共演することが決まっている。披露する曲は、賛美歌2曲と二台のバイオリンのための協奏曲で信じられないくらい練習した。この1週間、レオンシュタインに音に圧倒されっぱなしだったが、今日こそは自分の音を響かせようと密かに決意していたフラプティンナなのだった。


(師匠、今日こそ肩を並べますよ)


 寝間着のままケースからバイオリンを出し調弦を始める。すぐに3人の乙女がベッドの上に起き上がる。


「ロス~。気合い入ってるな」


 あくびをしながらイルマが感心したように笑いかける。ヤスミン、ティアナは寝ぼけ眼のままだ。シノのベッドは既に空で朝食の準備にかかっているらしい。

 

「ごめんなさい。でも、ここでしか練習できないから」


 朝からヴォルグ作曲『二台のバイオリンのための協奏曲』が部屋の中に響く。発表まであと2時間となり、少しでも練習しておきたいフラプティンナだった。本番近くまで練習を続けた彼女は、シノが準備した朝食もそこそこに着替えを始める。


 フラプティンナの身元がはっきりしないように、4人はシャルロッティの店から似合いそうな服を見繕ってきていた。

 

「わあ、可愛い服ですね」


 用意された薄緑色のワンピースに袖を通すが、どう見ても服が負けている。高貴さを隠しきれていないし違和感もある。けれどもフラプティンナは全く気にせず、これで演奏すると宣言して階下に降りていった。警備主任は登場した姫の姿を見てあっけにとられている。


「姫様にこのような服を……」

「とっても着やすいのよ。姫って気付かれないんじゃない?」


 弾むような声でフラプティンナが答えるため、それ以上の苦言は差し控える警備主任だった。


 外は初夏の日差しが眩しく、所々で白い雲が盛り上がっている。それを眺めながらフラプティンナは演奏の注意点を何度も思い出していた。歩いて10分の教会までの足取りは軽く、すぐに入口に立っていたレオンシュタインを見つける。


「レオンさま、今日はよろしくお願いします」


 レオンシュタインはフラプティンナの私服が新鮮で、その可憐な姿に見とれてしまう。その様子を後ろについてきた4人が氷点下以下の目で見つめていた。


「レオンさま、シノは久しぶりにキモノではなく、姫と同じワンピースを着ているのに、それを見てはくださらないのですか」


 悲しそうな()()をしたシノが非難の声を上げるのを見て、レオンシュタインはぎこちなくシノの服装を褒め始める。


「ほ、本能だね。シノさんはキモノだけじゃなくて、帝国風の服もすごく似合ってるよ。髪型も違ってて別人みたいだね」

「レオンさま。嬉しうございます」


 シノはグブズムンドル風の薄いブルーのワンピースを着ており、いつもの落ち着いた様子ではなく、生き生きとした美少女っぷりが際立っていた。髪の毛もポニーテールにしており、いつもとは違う魅力をアピールしていたのだ。


(シノの奴、いつの間に? 相変わらず腹黒い)


 ティアナ、ヤスミン、イルマの3人は自分の服がいつもとあまり変わり映えしないのを気にするのだった。

 

 教会内に入ると、そこには招待された孤児院の子どもたち8人とシスター、それにいつも教会に来ている大人たち10名が座って待っていた。また、グブズムンドルのヴィフト卿、警備主任も席の前に陣取り領地の重鎮たちも顔を揃えていた。


 ここを襲撃されたら大変なことになるとレネは密かにゼビウスに警備を依頼していた。


「俺も演奏を聴きたいんだ。副長に任せてもいいか?」


 珍しくゼビウスが主張するのに軽い驚きを覚えつつ、レネはそれを許可し、第1中隊の副長ハルトマンに私服で警戒することを命じていた。彼の部下10名も私服のままで警戒に当たる。教会の中では、ティアナ、イルマ、ヤスミン、シノが警戒に当たっている。


 その万全の警戒の中、演奏会がスタートした。


「みなさん、こんにちは。私はグブズムンドル帝国からきたロスって言います」


 普通の服を着ていても、その輝く美しさは隠しようがなかった。生まれもった気品に圧倒され、観客は思わず後ろに仰け反るような感じになる。さすがにフラプティンナは困惑し、レオンシュタインの方を振り返る。


 まず、レオンシュタインは子どもたちに話しかけることにした。


「すごくきれいなお姉さんだね。後で、いろいろお話してみるといいよ。何でも気軽に答えてくれるって」


 それを聞いた警備主任の眉毛は逆立ち、子供たち(そして、男の観客)の目尻は逆に下がってしまった。


「じゃあ、早速、演奏しますね」


 バイオリンを構えた二人は賛美歌27番を弾き始めた。音が響いた瞬間、それまでざわざわしていた会場がしんと静まりかえる。


「さあ、では歌いましょう」


 シスターの呼びかけに、みんなはっとして我に返る。たどたどしいけれど、きれいな賛美歌が教会に響き渡る。演奏者二人の掛け合いも見事で、素晴らしいハーモニーを奏でている。あっという間に2曲の演奏は終わり、教会の中も暖かい雰囲気に包まれていた。


「では、最後に『2台のバイオリンのための協奏曲』を演奏します」


 子どもたちがぎこちなく拍手をするのを見て、レオンシュタインの顔が緩むのと同時に目に真剣さが宿る。2人の掛け合いが始まると、ティアナやイルマはレオンシュタインが本気で弾いていることに気付いていた。この曲は荘厳な曲想をもつけれど、華やかと言うよりは悲しさを乗り越えるという意味合いが強い。


(レオン……レクイエムのつもりで……)


 ティアナはその意図を見抜いていた。悲しみを前面に押し出した演奏のレオンシュタインに驚いたフラプティンナだったが、その音色の美しさに心を奪われていた。

 

(さすが師匠。素晴らしい音は相変わらずですね)


 ともすれば圧倒的な技量に押されそうになるフラプティンナだが、懸命に音を奏でて第1楽章が終了した。第2楽章は悲しみを少しずつ和らげ、思い出を表現するかのような音が響いていた。華やかさと懐かしさが入り交じった音が教会の人々を支配する。その懐かしい演奏を聞きフラプティンナの胸に隠していた想いが溢れてくる。


(会えなくなってから、ずっと、ずっと、この日を夢見ていました)


 レオンシュタインを見ながら自分の思いを伝えようとする。その視線と演奏の変化にレオンシュタインはすぐに気付いた。


(さすがロスは素晴らしい技量だ。演奏が格段に上達している)


 気持ちは微妙にすれ違う。


 最後の音を弾ききると、教会内に感動の静寂が訪れ、次の瞬間、割れんばかりの拍手が響き渡った。多くの人がその場から立ち上がり、二人を大きな拍手で包み込んでいく。フラプティンナとレオンシュタインは笑顔で礼をし、満足げに見つめ合った。


「レオンシュタインさま、素晴らしい演奏でしたわ」

「ロスも、ますます腕前を上げたね」


 その二人の様子を見ながら多くの観客が近づいてきて警護関係者は一様に緊張する。


「ロスさん、握手してください」

「次の公演には絶対に行きます」


 子供たちではなく、大人たちがフラプティンナの周りを囲んでいるのだった。

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