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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第4部 戦いの中で 第2章 戦争が終わって

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第195話 レッスン&お泊まり

 王国歴164年12月4日 午後2時 クリッペン村 迎賓館にて――


 迎賓館ではティアナ、警備主任の二人がフラプティンナを見守っていた。


「では、早速練習しましょう……って、何でティアが?」

「当たり前でしょ。姫の安全を守らないといけないんだから!」

「レオンさまの安全を守りたいんですよね」


 フラプティンナは口に手を当ててクスクス笑う。見すかされたティアナは顔を赤らめて口を結ぶ。


「ティア、大丈夫だよ。警備主任もいるし」

「……私が居ると迷惑?」

「そんなことない! 見てて」


 レオンシュタインは即座に否定する。迷惑という言葉に特別の感情を感じてしまうレオンシュタインだった。そんなことは絶対にない。バイオリンを準備しながらフラプティンナはティアナに優しく語りかける。


「もちろん一緒に居てください。でないと私がレオンさまに必要以上に近づくかもしれませんよ」

「フラプティンナさま! からかうのはやめてください!」


 ようやく笑顔を取り戻しフラプティンナに突っ込むティアナだった。警備主任は椅子に座り、辺りを警戒するのに余念がない。バイオリンを構えたレオンシュタインは調弦した後、レッスンをスタートさせる。


「では、フラプティ……」

「ストップ!」


 レオンシュタインの前にフラプティンナがかわいい手を突き出す。


「師匠。いつまでもフラプティンナでは親しみを感じませんわ。以前のようにロスとお呼びください」

「グブズムンドルの言葉でバラという意味だったね。思い出したよ。ロス、いい呼び名だね」


 屈託無くレオンシュタインが話した瞬間、ティアナと警備主任の顔色が変わる。


「レオンシュタイン殿、さすがに気安いのではないのか?」


 警備主任の言葉をフラプティンナは目で制し、警備主任は慌てて言葉を飲み込んだ。


「レオンも立派になったものね。帝国の姫君をミドルネームで呼ぶなんて」

「そ、そんなこと、ないよ」


 棘を隠そうともしないティアナだった。フラプティンナは視線を柔らかくしてティアナの方に視線を移す。


「あら、ティアナさんもロスって呼んでくださいね」

「そんな恐れ多い」


 そう言いながらも、考え直したらしい。


「分かった。ロス」

「そうそう」


 にっこりと微笑むフラプティンナを見て、レオンシュタインは安堵の溜息を漏らす。


「じゃあ、始めよう」

「はい、師匠」


 レッスンが始まると、それまでの和やかな空気が一変した。


「ロス。左手の動きはもっと早く」

「はい!」


 フラプティンナの額に汗がにじみ始める。優しい口調のレオンシュタインだが妥協という言葉を知らないかのようなレッスンが続く。


(師匠、相変わらずですね)


 激しく音をかき鳴らしながらフラプティンナは口元を緩める。


「そこは、もっと情感を込めよう。例えば」


 そういいながら手本を弾いてみせる。その音はフラプティンナの音を遙かに凌駕し、高音が滑らかに伸びていく。


「こんな感じではどうかな?」

「私の憧れる綺麗な音です」

「大げさだね。じゃあ、やってみようか」


 レオンシュタインは決して厳しくは言わず、気付いてほしいという気持ちを込めて伝えるだけだ。それは警備主任にも伝わっていく。


(このレオンシュタインという御仁は常人ではない。相手の技量を伸ばすのに一切の妥協がない。苛立ちもせず飄々とした態度で相手に伝えている)


 フラプティンナはフラプティンナで深い感銘を受けていた。


(さすがレオンさまですわ。指摘が正確で……そして優しい)


 汗が流れるのを気にもせずレオンシュタインは練習を続けていた。フラプティンナもずっとバイオリンを奏で気がつくと1時間も休みなく練習を続けていた。


「レオン! ロス! 一度休憩したら」

「美しい音色に休むのを忘れておりました。師匠がそう言うなら、そうしますわ」


 さすがに見かねたティアナが休憩を提案しレオンシュタインもはっと気がつく。フラプティンナは肩からバイオリンを下ろすと、腕が固まっているような感じで動きがぎこちない。ぐるぐると腕を回す間も額の汗は容赦なく流れている。


「ああ、ごめんね」

「レ、レオンさま」


 レオンシュタインはフラプティンナの頬に手をやり、ハンカチで額の汗を拭き始めていた。突然のことにフラプティンナは慌てたが目を瞑ってされるがままにしていた。すぐに、警備主任が中に割って入る。


「レ、レオンシュタイン殿、こういったことは控えていただきたい」

「レオン! どさくさに紛れて姫の頬に触るなんて……。油断も隙もないわね!」


 ティアナもすぐに割り込んでくる。レオンシュタインも気がついたのか慌ててフラプティンナにハンカチを渡す。少し残念そうなフラプティンナをよそに、レオンシュタインはがっちりとティアナにガードされてしまった。


 この日は休憩を挟みながら2時間の練習となった。すでに辺りは薄暗くなっている。支度をしているフラプティンナにティアナは1つの提案をする。


「ロス、今日は私の部屋で一緒に休みましょう」

「ダメですぞ!!」


 警備主任はさすがに拒否するがフラプティンナが懸命に頼み込む。その熱意に負け、主任はヴィフトに確認に行く。


「周囲を24時間体制で警戒していれば問題ないでしょう。この村であれば、どこであっても危険は変わりませんから」

「やったあ、じゃあ、さっそくお風呂行こうよ」

「んん!?」


 さすがのヴィフトも言葉に詰まる。けれども、ティアナは大丈夫だと説明を始める。


「イルマやヤスミンが一緒だと索敵も近接戦闘も大丈夫ですよ。あと、シノも一緒に行けば参謀として安全を考えてくれそう」


 ヴィフトはイルマが一緒で参謀もいるのであれば危険はないだろうと考え直す。反対しそうだった警備主任は、イルマの名を聞いた途端に静かになる。


(あの御前試合のイルマか。一度、手合わせしたいところだ)


 善は急げとティアナはフラプティンナの手を引いて、自分が住んでいる丸太小屋にに連れて行った。護衛の兵士たちも一緒について行ったが、なるべく目立たないように服を着替えていた。

 

 フラプティンナにとって初めての体験がスタートするのだった。

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