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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第4部 戦いの中で 第2章 戦争が終わって

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第194話 村に姫がやってきた

 王国歴164年12月3日 昼12時 シュトラント城 大広間にて――


 一方、ヴィフトはフリッツの隣に飲み物をもったまま移動していた。シャンパングラスをフリッツに渡し、雑談を始める。


「そうそう? お金は役に立っていますか」

「おかげで素晴らしい領地ができつつあります。停戦の斡旋もありがとうございました」

「いえいえ、当然のことですよ」


 飲み物を受け取ったフリッツは軽く頭を下げる。互いに持っていたグラスを胸の高さまで上げると、カチンとぶつけて乾杯となった。今回の停戦斡旋も純粋な好意ではないけれど、それでもありがたいことには違いない。


「村もようやく落ち着いてきました。ヴィフト卿には是非村を訪れてほしいものです。勿論、手土産も用意してあります」

「ほう。それは楽しみです。実は姫さまも訪問したいと申しておりましたので、訪問させていただきましょう」


 その一言で巨大帝国グブズムンドルの姫君が、新興の小さな領土を訪問することが決まったのだった。



 §



「本当にここに住んでいるんですね?」


 びっくりしたようにフラプティンナ姫は周囲を見渡してしまう。レオンシュタインの丸太小屋は古びており、とても領主の住まいとは思えない。

 

「フラプティンナさま、申し訳ありません」


 詫びるレオンシュタインを尻目にフラプティンナはとても楽しそうだ。


「いいえ。私、いつもお城の中や大きな都市ばかりを見てきました。見たことがないものを見るのは、とても興味深いです。謝るのはやめてください」


 笑顔でレオンシュタインを見つめる。その懐の深さは皇帝譲りだった。


「それに私のレッスンは忘れていませんよね?」

「あ、はい。普段はここで練習し、最終日に一緒に教会で演奏する予定です」


 少し目をキッとさせてレオンシュタインに尋ねる。姫の中では、それが何よりも大切な訪問目的だったのだ。ニコニコしながら答えるレオンシュタインだったが、グブズムンドル帝国の警備主任が割り込んできた。


「待ってください。そんな警備の整わない場所に姫をお連れすることはできません。そもそも訪問の目的は、バイオリンの師レオンシュタイン殿との個人レッスンです。どこかへ出かけて演奏するなど、もってのほかです」


 そこで話を区切ると、警備主任は大きく息を吸って胸を張る。しごく真っ当な意見にフリッツたちは二の句が継げない。フラプティンナも警備主任の言葉に黙らざるを得ない。けれどもレオンシュタインは懸命に食い下がる。


「この村で一番音が響くのは、その教会なんです。姫が来ることは告げていませんし、来るとしても村の人たちだけです。それでもダメですか」

「ダメです」


 取り付く島がなかった。沈黙がその場を覆った時、バルバトラスが口を開いた。


「そういった考えが帝王と市井の人を離してしまうことに気がつかんのか?」


 警備主任はバルバトラスに目を向ける。


「あのなあ、皇帝陛下は見聞を広げるためにフラプティンナ姫を派遣したんじゃないか? 見聞とは何かね。安全なガラス箱に入った風景かね? それとも同じような人々との蒸留された会話かね?」


 バルバトラスは意外に辛辣だった。


「人々がどんな暮らしをしているのか、どんな考えを持っているのかを知ることは姫さまには有益だろう。それは完璧な警備の元で知る世界とは違ったものになるだろうな」


 ヴィフトは全くその通りだという意見を持っていたけれど、警備主任の手前おおっぴらにバルバトラスを肯定するわけにもいかない。曖昧にうなずいていた。


「世界は美しく残酷だ。けれど、それを知る人こそ上に立つのに相応しい。それができる機会は今ではないかね? この地は世界のどこもよりも安全だ」


 バルバトラスの意見を反芻していた警備主任だが1分ほどの沈黙の後、ヴィフトに目をやる。ヴィフトはしっかりと頷き、どうぞという手つきになる。


「……分かりました。ただ、私は姫の隣で警戒しますぞ」

「それはもちろん」


 自分が警備を万全にしようと思ったのだろう。バルバトラスも笑顔で頷く。ようやく話がまとまりレオンシュタインはほっとした表情になる。


「では早速練習に入りましょう。フラプティンナさまはこちらへ」


 バイオリンを手にした二人は隣の迎賓館へ歩き出し、そのあとを警備主任がついていく。残されたバルバトラスとヴィフトは期せずにしてため息をついた。


「ヴィフト殿もご苦労なことですな」

「いえいえ。警備主任の無礼をお許しください。あの御仁は悪い人物ではないのです」

「それは、よく分かります」


 二人で顔を見合わせ、軽く笑い合う。


「ではヴィフト殿、一緒にお茶でも飲みませんか?」

「それは嬉しい。ご馳走になりますよ」


 そう言うと、二人はフリッツの待つ奥の応接間へ移っていった。

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