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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第4部 戦いの中で 第2章 戦争が終わって

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第193話 ヤスミンVSフラプティンナ

 王国歴164年12月3日 午前11時 シュトラント城 謁見の間にて――


「レオンシュタイン様、こちらが(皇帝陛下からの)贈り物でございます」


 (皇帝陛下)の部分は周りに聞こえないようにヴィフトは小声で話す。


「驚かれても大きな声を出さないでくださると幸いです」


 耳打ちしたヴィフトは、あとは素知らぬ顔を決め込んでいる。二人の兄はレオンシュタインが小さな贈り物だけしかもらっていないことに暗い愉快を感じていた。


(おいおい、レオンシュタインはあんなものしかもらえないのか?)

(そんなものだよ。伯爵家の三男なんて)


 こそこそと会話をしながらニヤニヤとその様子を眺めていた。箱の中身を見たレオンシュタインは、あまりにも意外な贈り物に驚愕する。そこには世界に10台しかないアイネスファルトのバイオリンが入っていたのだ。市場価格は大金貨30枚(約3億円)を越えるだろう。


「ご使者殿……」

「レオンシュタイン殿、何も言わずにどうぞお収めください」


 感謝を述べたいレオンシュタインの様子を見て笑みを浮かべたヴィフトは、やんわりとそれを遮っていた。


「ありがとうございます。レオンシュタインが心から喜んでいたと皇帝陛下にお伝えください」


 レオンシュタインは優雅に返答を返し、ヴィフトは優しい眼差しになる。


 贈り物の額はレオンシュタインのバイオリンが一番価値が高く、兄二人を合わせても、レオンシュタインの贈り物の価格には届いていなかった。


「あ、兄上。このいただいたバイオリンで感謝の曲を弾きたいのですが」


 突然の申し出に驚いた2人の兄だったが、余興としてはそれもありだろうと鷹揚に許可する。逆にグブズムンドル側の人々には喜びの表情が広がっていく。ヴィフトは思わず右手を握りしめていたし、フラプティンナは輝かんばかりの笑顔になった。


「あ、ロス(フラプティンナの愛称)。バイオリン、持ってきてる?」

「勿論ですわ、師匠。師匠と練習しようと一番に準備したんです」


 お付きのメイドが慌ててバイオリンケースを姫に運んでくる。その間にもレオンシュタインは調弦を済ませて、弾く曲を考えていた。


「ロス。リヒテンタールの『アヴェマリア』は弾ける? ピアノパートだけど」

「ええ、前に何度も練習しました。師匠とアヴェマリアが弾けるなんて……」


 しんと静まりかえる大広間に、レオンシュタインとフラプティンナの合図の声が響く。始めはフラプティンナのピアノのパートが響き渡る。明らかに上達が感じられる演奏に、レオンシュタインは驚きつつも喜びの表情になる。


 レオンシュタインのバイオリンが響き渡った瞬間、大広間は興奮と感動に包まれる。


(師匠、さすがです。最初の一音が美しく響くわ)


 ビブラートの伸びが自分とは違うと思いつつ、フラプティンナは必死に弦をならす。ヴィフトは感動しつつも、なぜか抑え気味の演奏が気になった。いつもの心を揺さぶる感動がない。


(レオンシュタイン殿、久々に聞いた音も素晴らしいが……)


 首をひねった瞬間、2番が始まった。


(こ、高音?)


 1オクターブ上の音が会場一杯に響いていた。難しい高音だというのに、音がかすれず一音一音がしっかりと鳴っている。そのために、音の美しさが先ほどとは比べものにならない。ヴィフトは目を瞑り、全神経を耳に集中させる。


(ああ、やはりレオンシュタイン殿のバイオリンは……。万里の波濤など気にならない喜びに包まれる)

(師匠、また私に教えてくださいませ。この素晴らしい音色を……)


 わずか4分の演奏が終わり、レオンシュタインとフラプティンナが頭を下げると、人々ははっと我に返り、大きな拍手を送っていた。二人の兄も苦々しく思いつつ、軽く手を叩いている。その拍手がようやく鳴り終わる頃、マヌエルは会の終了を宣言する。

 

「いい余興だった。このあと使者および姫の歓迎のために晩餐会を開催する」


 晩餐会の開催を宣言したマヌエルの言葉をもって、使節団との謁見は終了となった。余興という言葉にフラプティンナは可愛い眉をひそめたが、すぐに元の笑顔に戻す。


(師匠の音で幸せだというのに、雑音に耳を傾けてはいけないわ)

 

 その内心を知らず、


「フラプティンナさま、お疲れでしょう。姫には特別のゲストルームを用意いたしました」


 マインラートが先に立って先導する。フラプティンナ姫は優雅にその後を歩むのだが、途中でレオンシュタインに向かって手を振る。また後で、ということらしい。レオンシュタインたちも控室に案内され、フリッツ、ケスナー、ヤスミンは正装への着替えに取り掛かる。


 レネは服装の準備も抜かりがなく、全員の分を用意していた。シャルロッティの制作した衣装は華やかで、特にヤスミンのドレスは銀色の髪と褐色の肌がより引き立つような薄い白のドレスだった。裾には2つのフリルがついており、胸元がさりげなく強調されるワンピースがヤスミンの魅力を引き立てている。


「ヤスミンはん、これでマスターもイチコロやな!」


 シャルロッティのお墨付きのドレスだった。フリッツやケスナーも、いつもの偵察に出かけるヤスミンとイメージが違いすぎて、あっけにとられていた。ケスナーがようやく、


「馬子にも衣装だな」


 と、軽口を叩く。ヤスミンも鏡を見て、まんざらでもないらしい。


「マスター。どうかな?」


 その艶やかな姿を見たレオンシュタインは口を開けたまま、しばらく見つめたままだった。初めて会った頃とは違いすぎていた。路地裏で生き抜いていたヤスミンとは、別人かと思うくらいの優しい表情になり、美しさにも磨きがかかっている。船の中で悲しんでいたヤスミンは、もういないのだ。


「レオンちゃん、何か言ってやれよ!」


 ヤスミンを見てぼうっとしているレオンシュタインをケスナーがどやしつける。その瞬間、レオンシュタインは現実に引き戻される。


「ヤスミン、本当に綺麗になったね。ドレス、凄く似合ってるよ」


 ヤスミンは輝くような笑顔になりながらも護衛としての役目を思い出したのか、いきなりドレスをめくる。


「マスター。ここにナイフを4本隠してるから安心」


 白い下着が丸見えになりフリッツとケスナーは慌てて後ろを向いてしまう。太ももの黒いベルトに2本ずつナイフが下げられている。それを見たレオンシュタインも真っ赤になってしまう。レオンシュタインの様子を見ていたヤスミンはニヤリと悪戯そうな表情になる。


「もっと見る?」


 さらに捲り上げそうになるヤスミンの手をレオンシュタインは慌てて掴んでいた。ヤスミンはすぐにドレスを元に戻し、

 

「もっと見たかったら、後で」


 小さな声でささやくとレオンシュタインから離れてすまし顔になる。


「そろそろ時間ですよ」


 フリッツの言葉で全員が会場に急いでいた。


 晩餐会は本格的なものではなく、立式の簡易なものとなった。グブズムンドル側でそれを求めたようで見栄っ張りのマヌエルは少し残念そうな表情だ。


「それでは、兄弟の仲直りとフラプティンナ姫の美しさに」

「乾杯!」


 乾杯が終わるや否や、フラプティンナはレオンシュタインのところへ駆け寄っていった。


「レオンさま、師匠……」


 そう言いながら、あっという間にレオンシュタインの胸の中へ飛び込もうとした。その瞬間、前に立ちふさがった者が現れた。


 ヤスミンだ。


 この二人は会場でも一際オーラを放っていた。エキゾチックな魅力全開のヤスミンに、北国の白い肌がひときわ美しい帝国の白薔薇フラプティンナは、対照的な美を提供していた。

 

「ヤスミンさん。私が近づいても危険はないでしょう?」


 笑顔で話すが、それを無視するかのようにヤスミンはレオンシュタインの腕をとる。


「マスターとの久しぶりのデート。邪魔しないで」

「デ、デート?」


 フラプティンナの顔が曇る。


(そういえば、イルマさんがレオンさまのことを色魔と……)


 目の前にいる女性は褐色の肌に銀色の髪がよく似合う帝国でもあまりみないほど美しい女性だ。モヤモヤとした気持ちを抱きながら、フラプティンナは詰問口調になってしまう。


「レオンさま、本当に色魔なのですか?」


 突然の質問にレオンシュタインは訳が分からず狼狽する。色魔? フラプティンナは今にも泣きそうな表情だ。

 

「ち、違いますよ! そんなこと」


 その瞬間、ヤスミンはニヤリと笑う。


「さっき、無理矢理私のスカートをめくって喜んでた。興味津々だった」


 そう話すと、ぽうっと顔を赤らめるヤスミンだった。


「な! そんなことしてな……」


 慌てて否定するレオンシュタインだったが、全部を聞かないうちにフラプティンナは、きっと睨み付ける。


「レオンさまの馬鹿!! 変態!!」


 そう言うとフラプティンナは会場から走り去っていた。すかさずヴィフトが笑顔でフォローに回る。


「姫さまは長旅の疲れが出たようです。今日は休ませてください」


 全く何でもないかのような物言いは、さすがヴィフトだった。ただ、主賓がいきなりいなくなったマヌエルは呆然とその様子を眺めるだけだった。


 レオンシュタインも呆然とフラプティンナが走っていった方を見つめていた。


 すると、


「マスター。邪魔者はいなくなった。一緒にお菓子食べよ!」


 悪女のような笑みを浮かべてレオンシュタインを引きずっていくヤスミンだった。

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