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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第4部 戦いの中で 第2章 戦争が終わって

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第190話 侵攻軍の反省会

 王国歴164年11月22日 午前10時 ホーエンシュバンガウ城 謁見の間にて――


「今回の侵攻結果について説明します」


 レーエンスベルク辺境伯の前で参謀のイグナーツは説明を始める。辺境伯の次男ゲオルグは悪びれることもなく辺境伯の横の椅子に座っていた。辺境伯領で一番の堅城は内装も華やかで、豪奢な飾りのある謁見の間にはライオンなどの剥製や有名画家の絵も複数見られる。


 その広い謁見の間は辺境伯の顔同様、重苦しい雰囲気に包まれていた。

 

「優勢に砦攻めを進めましたが、あと一歩のところで火牛の計を仕掛けられ兵士の士気を上げることができず撤退しました」


 膝をつき謝罪するイグナーツを冷たい目で見つめながら辺境伯は犠牲者の数を尋ねる。


「生存者は1242名ですので、558名が死亡もしくは行方不明です」


 その答えに辺境伯は色をなして声を上げる。


「イグナーツよ、約3割の被害を出した責任は重大である。追って沙汰するまで自室にて謹慎せよ」

「はっ」


 頭を下げたままイグナーツは退出していった。


「父上。イグナーツをどうするおつもりですか?」


 イグナーツがいなければ軍の士気が下がること知っているゲオルグは、さすがに心配になる。その様子を優しく見つめながら、辺境伯は傍らに置かれたレモン水に手を伸ばす。あのような辺境地を落とせなかったとなれば我が辺境伯の評判にも影響するし、それに何よりも……。

 

「とりあえず罰する姿勢を見せないと、申し開きが立たぬ」


 そう言うと辺境伯はレモン水を一息で飲み干す。その苦さが失敗の苦さと混じり合って、辺境伯の顔をますます暗く歪ませていった。


「再侵攻の準備をしなければならぬ……かもな」


 §


 一方、シュトラント城ではシュトラント伯爵マヌエルとエッシェベルク子爵マインラートが酒盛りをしながら、今回の進行で生じた被害について話し合っていた。シュトラント城のホールは相変わらず金箔の飾りで包まれた空間だったが、その金色がくすむような雰囲気が広がっている。


「兄上、我がエッシェベルクの損害は50名に達しております。領地経営にも影響が出そうです」


 赤ワインを流し込みながらマインラートは毒づいていた。長椅子の上に足を広げたまま座り込んでいる。


「シュトラントでは320名が戻っておらぬ。かなりの損害だ」


 サイドテーブルに置かれたチーズを1つ摘んだマヌエルは、そのまま口の中に入れる。野趣溢れるチーズの香りを楽しみながら赤ワインを口に含む。マインラートとは違って、伯爵の椅子に姿勢を正しながら座っているマヌエルも、やはり浮かない顔つきのままだった。


「兄上、あの方への報告はいかがいたしましょう?」

「正直に報告するしかあるまい。だが、しばらく侵攻はできん」


 手元のベルを鳴らしマヌエルは執事を呼んだマヌエルは一番気になっていたことを尋ねていた。


「私が留守の間、何かあったか?」

「2つほど小さな武装蜂起がございましたので鎮圧しておきました」


 それを聞いたマヌエルは満足そうに頷くと、すぐにその端正な顔つきを歪ませる。


「全くレオンシュタインがティアナを手放せばすぐに解決なのだが」

「しかし、いないと言っている以上、どうすることもできないのでは?」

「たしかにそうだが、このままでは……」


 自分たちの行動に反省の色は全く見られない。そのまま夜遅くまで愚痴を肴にワインを飲み続ける二人だった。


 §


 戦の後、ノイエラントには人口の流入が続いていた。侵攻軍を撃退したということもあるが、税金が安く働き口があるということで、若者たちが続々と村を目指していた。


「ノイエラント(新しく開かれた地)へ」


 移住を決断する人たちの合い言葉になっているノイエラントが正式名称となるのも近いように思える。また、避難してきたヴァルデック領の住民がそのままクリッペン地区(旧村)に住み着いたことも大きかった。レネが発布した「土地交換法」が功を奏した形だ。


 フォルカーが持参した戸籍には、所有している土地の広さも書かれており、その土地とクリッペン地区の土地を無料で交換するという法律が可能となった。実際、水路が張り巡らされているこの地区の方が、植物栽培には適している。何よりルカスという優れた農業指導者の存在も大きい。


「ま、マジッスか。あのルカスさんから、直接教えてもらえるなんて」

「本当らしいぞ。俺、あのジャガイモ食った時、感動したんだよな。俺もつくれるかな」


 ヒソヒソ話す2人の若者の後ろからルカスが声を上げる。


「できるよ! 一緒に美味しい物をつくって、みんなを幸せにしてやろうぜ! 十分、家族を養っていけるくらい稼げるぞ」

「おおおおおお!」


 毎日、農業希望者と畑で忙しいルカスなのでした。


(今度、イルマさんにジャガイモのパンケーキ、作っていくかな)


 人口も増えたことから、村と呼ぶには相応しくない規模になっているのだった。


 12月に入りヴァルデック領モーリッツに船着き場が完成すると、その流れはさらに加速した。ノイエラントからヴァルデック領の町モーリッツまでは約300kmの道のりがあり、今までは徒歩で10日もかかっていた。それが船を使うと3~4日で移動することができる。


 その上、船は馬車と比べて運賃が格安であった。バルノー川(ノイエラント←→ナレ砦間)は100kmで銀貨1枚、リベ川(ナレ砦←→モーリッツ)は180kmで銀貨2枚だった。船着き場は新たな雇用を生み出し、荷物の運搬は大きな利益を生み出すようになった。ジーナの工房は毎日のように仕事が舞い込んでいた。


「ジーナ姉さん。川運搬船の注文が入ったよ。これで、今月はもう三艘目だよ。手が回らないね」

「レベッカ! とりあえず求人募集出しときな。それと外洋船の設計図はできてんの?」

「まだだよ。忙しいから……」

「そんなんじゃダメ! 早くレオンさんに見せないと」


 ジーナの工房は自宅近くの川沿いに40m×40mの建物が新設されていた。ナレ砦近くの工房は第2工房として稼働している。いつの間にか工房だけではなく、運搬の仕事全般を取り仕切っているジーナの工房だった。


「猫の手も借りたい……」


 また1月になるとナレ砦の拡張工事が完了し、高さは20mと上を見上げると首が痛くなるほど高くなり、梯子での攻略は難しくなっていた。150名の弓兵が攻撃できるスペースも屋上に確保し、砦の攻略の難易度はさらに上がる。


 兵士の募集も順調に進んだ第1、2部隊は、正式名称を第1中隊、第2中隊と変え、隊員の数は各100名となっていた。また新たに第3中隊を設立し、その隊長にはケスナーが任命された。弓の腕前と面倒見の良さが抜擢の理由だったが、本人は任命された時には肩をすくめていたのだった。


「俺が中隊長ねえ」


 その運命の変転に驚いたケスナーだったが、任命されるやいなや部下に慕われる隊長となるのであった。


 ヴァルデック領は新設の第4中隊を守りにつかせることにし、その隊長にはゴート族のキヨマサが抜擢される。シキシマから初の隊長になったキヨマサは剣の腕前を見込まれたことも見逃せない。ノイエラント(旧クリッペン村)の守りには第1~3中隊がつき、ヴァルデック領は第4中隊が駐屯することになった。


 この急激な兵士の増加はレネが発表した屯田兵制度が大きく影響してた。

 

 屯田兵になると4アールの土地が貸与され、そこで住むことが可能となる。屯田兵は1日の半分が兵士訓練、残りは未開地の開拓に従事することになる。もちろん、給与も支払われる。3年が経つと貸与された土地を自分のものにできる。兵役も選択制となるこの制度は、ノイエラントの領土を広げつつ人口も爆発的に増加させていたのだった。 

 

 今日もルカスの指導の下、開拓に精を出す若者たちが多く見られる。


「国を守るにも、まずは食料生産だ。しっかり耕せ!」


 この制度によりノイエラントの食料生産量は急激に増加したのだった。

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