第189話 発展に向けて
王国歴164年11月14日 午後1時 ノイエラント(クリッペン地区) 村長小屋前にて――
牛肉を皿一杯に盛りつけたレオンシュタインは、肉に舌鼓をうちながら様々な人たちとの会話を楽しんでいた。直接、お礼を伝えられるのは嬉しい。最初に向かったのはジーナとレベッカ姉妹の所だった。二人がベンチで水を飲んでいるところへ行き、隣に腰掛ける。
「ジーナ。レベッカ。素敵な船をありがとう」
二人はすでに真っ赤になっていた。
「村長! 私たちの船が命を救って嬉しいですよう」
ほとんど瞼を閉じているジーナは無理矢理自分の頬を叩きながら身体を左右に振っている。横ではレベッカが喉を鳴らしながらビールを飲み干し、ぷはあと息を吐き出す。
「村長、次は外洋船ですよ! 見ててください」
「はは、それは楽しみだね」
「あ~。嘘だと思ってる?」
「いやいや違うよ。二人ならきっとやってくれるって信じてる」
ジョッキを高く掲げながら、やや呂律の回らない口調でレオンシュタインに宣言する。できあがっている2人の話にしばらく耳を傾ける。
「絶対にい世界のお、果てまで」
寝てしまいそうな二人をベンチにそっと寝かせると、レオンシュタインはマグロ組の若者に囲まれているディーヴァの所に移動する。ディーヴァは仕事の話に熱中し、これからつくる建物のことを詳しく説明していて顔が輝いていた。
「ディーヴァ! 砦、ありがとうね」
「おお、レオン! いいってことよ!」
「あの砦が村を救ったよ」
「ま、みんなの力だけどな。でも、本当によかった」
そう言うとディーヴァはレオンシュタインの方を振り返り、手を強く握りしめる。片手をレオンシュタインの肩にかけながらディーヴァは気になっていたことを尋ねる。
「で、次はどうすんだ? まだ、危ないだろ?」
「うん。それをこれから話し合う」
手を固く握ったまま二人は笑顔で話し続ける。ふと、レオンシュタインは広場全体を見渡すと、そこには多くの笑顔が広がっていた。結局、夕方の6時まで飲んだり食べたりしながら、大騒ぎしたのだった。
§
「じゃあ臨時の会議を開きます」
翌日、村長室で、3ヶ月に1回開催されている会議を臨時で行うことになった。村の現状が分かる最重要の会議で、村長レオンシュタイン、統括改め宰相レネ、宰相補佐フォルカー、外交・財務フリッツ、参謀シノの5人だけで話し合うことになった。
まず、レネが口火を切る。
「村で現在取り組んでいる事業は、大学の設置、初等・中等学校の設置、移民促進、ヴァルデック領への船着き場づくり、兵士募集、軍事幹部候補の募集となっています。申請が上がっているのが、外洋船の建設、砦の拡大、港の建設です」
砦をさらに高くすることと兵士の急募をシノは提案する。
「梯子では攻められないように高く、そして弓隊をもっと多く配置できるようにすれば安心です」
全員が急務であることを認識し、早急に取り組むことを決定する。
「ジーナから外洋船の製造を提案されておりますが、川の運搬船の方が先です。ヴァルデック領モーリッツへ船着き場を建設することを提案します。そのため運搬船をつくることをジーナたちに依頼します」
ジーナの夢を応援するためにも、まずは村の発展ですとレネは付け加える。
「現在、ヴァルデック領は人心が安定してないッス。物流を多くして、早急に生活を安定させる政策が必要です」
やはりヴァルデック領が気になるようでフォルカーも発言する。
「分かりました。まず、フォルカーさんをヴァルデック城に派遣し、人心安定を図りましょう。施策として、1つ目は食料の無料配布。敵の糧食を全部持っていってください。2つ目は税制をクリッペン村と同じにします。3つ目は3ヶ月間は無税。その後6ヶ月間は通常の半分にしましょう」
レオンシュタインの提案を嬉しそうに聞いていたフォルカーは1つの提案をする。
「逃げた領民もいますので、無税にするために城に出向くように伝えます。戸籍を確認するのも急務ッスね」
レネは満足そうに頷く。
「けれども、9ヶ月の間、税金が優遇されるとは、みんな驚くでしょうね」
やんわりと期間が長いのではないかとフリッツは懸念を示す。
「いえ、それくらいだからこそ、みんなの気持ちが安定すると思います。それ以上だと逆に不公平感が高まりそうですね」
意外なレオンシュタインの才能に、みんなは笑顔で応じていた。
次にフリッツが人口等を伝達する。
「村の人口は10356人です。そのうち、18歳以上が6731人、それ以下が3625人となってます。人頭税収入は1ヶ月銀1枚ですので、銀貨6731枚(約6730万円)となっています。大金貨6.7枚です。ただ、人頭税は1年間半額ですので税収は大金貨3.3枚となります」
「また、土地所有に関する税金は、1アール(10m×10m)につき1ヶ月銀0.5枚となり、銀貨3625枚(約3625万円)枚となりました。大金貨3.6枚ですね」
そこまで話してフリッツはコーヒーを一口飲み込み、他のメンバーも合わせるように飲み物を楽しみながら耳を傾けていた。
「その他の収益は、大金貨で表しますと鉱山が35枚、石材5枚、木材5枚、バルノー川運搬1枚となり、1ヶ月の収益は大金貨52.9枚(約5億3千万)です」
「支出に関しては、月々の水道等のメンテナンスで大金貨10枚(約1億)です。私たち職員に関しては一人につき1ヶ月小金貨1枚(100万円)ですので、総額大金貨2.5枚(約2億5000万円)になります。月に大金貨12.5枚が出ていくことになります」
コーヒーを飲み終わり、カップを置く「カチャン」という音が村長室に響く。差し引き大金貨40.4枚の黒字である。フォルカーはその収益の多さに驚愕する。1ヶ月で大金貨40枚(約4億)の黒字だと、ヨシアスの借金などあっという間に支払える。
職員に1月小金貨1枚の給金であれば誰でも奮い立つだろう。しかも、ヴァルデック領にも恩恵が波及することで、更なる発展が見込まれているのだ。職員への恩恵は領民の後でいいというレオンシュタインの方針が心憎い。
(やはりお金は大事ッス)
その認識を深めるフォルカーだった。フリッツはさらに続ける。
「村の金庫には、現在大金貨800枚(約80億円)が残っております。グブズムンドルへの借金残高は大金貨2000枚(約200億円)です。現在は利息しか払えていない状況です。ただ、そんな危険な状況でもありません。鉱山次第ですが、1ヶ月に大金貨40枚(4億)の収益ですから、来年からは1年に200枚(利息100枚、返済100枚)をグブズムンドルに払うことができます。15年でいけますよ」
話を聞いていたレオンシュタインは、前途が明るく開けるのを感じた。
「では村の発展のために、宰相、宰相補佐は各事業を進めてください」
終了を宣言しようとするレオンシュタインを、レネは大きな声で呼び止めていた。
「レオンシュタインさま。1つ大事なことを伝え忘れておりました。我がクリッペン村はヴァルデック子爵領と正式に統合したため、領土の新たな名称が必要となります。その名称はいかがいたします?」
レオンシュタインは迷わなかった。
「ノイエラントにしましょう」
全員が起立し、頭を下げる。レネはさらに、
「これからはレオンシュタインさまは『村長』ではなく公式にはヴァルデック子爵となります」
と伝える。ノイエラントは王国に認められておらず自称だというのだ。
「自称……ですか。いつかは正式になるようにしたいですね」
レオンシュタインの決意で会議が終了する。
歴史書にノイエラントが登場するのは、この日からとなるのだった。




