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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第4部 戦いの中で 第1章 敵が侵入って……。

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第187話 戦闘の終結

 王国歴164年11月9日 夜12時 ナレ砦周辺にて――


 連合軍が撤退するのを確認したゼビウス隊、イルマ隊が砦に戻ってきた。時刻は深夜0時を回り、辺りには漆黒の闇が広がっていた。兵士たちは満身創痍で馬にも疲労の色が濃くみえていたけれど、砦にいる味方は帰還してきた兵士たちに向けて感情を爆発させる。


「ゼビウス隊、万歳! イルマ隊、万歳!」


 砦に入った2つの隊の兵士たちは次々に地面に伏せってしまう。仲間がすぐに駆け寄り、肩を貸しながら宿舎まで移動していく。兵士たちは鎧を脱いでベッドに横たわると、すぐさま泥のように眠り込んでしまった。


 イルマとゼビウスも報告無用とのシノからの命令を聞いた瞬間、その場に崩れ落ちる。砦の中の簡易ベッドに運ばれた二人は、すぐに身体を横たえる。イルマの側にはレオンシュタインが付きそっていた。


「……主、勝った?」

「うん、イルマたちのおかげだよ」


 それを聞いたイルマは少しだけ微笑んで目を閉じてしまった。レオンシュタインはイルマの髪の毛を整えながら、その美しい寝顔をずっと見つめていた。


 シノが遠慮がちに声を掛けてくる。


「レオンさま、実は砦の前に100名ほどの兵が待機しております。リーダーらしき男がヴァルデック領のフォルカーと名乗っております。いかがいたしましょう?」


 立ち上がったレオンシュタインは砦の上に移動し、宿舎で寝ていたヨシアスを呼び寄せる。あくびをしながらヨシアスが声を掛けると、聞き慣れたフォルカーの声が返ってきた。松明で顔を確認すると確かにフォルカーだ。


 門が開けられ宿舎に案内されるとフォルカーたちも前後不覚で眠ってしまったのだった。


 シノと共にレオンシュタインは砦の上で警戒を続けていた。定期的に照明弾を打ち上げて敵の接近がないか確認する。先ほどまでの馬の嘶きや剣の響く音が嘘のように砦は静まりかえっていた。時々、薪のぜる音だけが響く。


「シノさん。今更なんですけど……怖いんです」


 敵が撤退した方面の暗闇を凝視しながらレオンシュタインはつぶやく。そんなレオンシュタインの側にシノがぴったりと寄りそった。


「ぼくの一言で、この谷に多くの血が流れました。今も血の匂いと死臭がまとわりついて離れないんです」


 そっとレオンシュタインの袖を引いたシノは気持ちを確かめるようにささやいた。


「レオンさま。後悔してますか?」

「いいえ。でも自分の感情をまだ整理できないんです」


 レオンシュタインから離れたシノは、砦の先端へ歩いていった。一番端の防壁に飛び乗り、レオンを振り返って手を前で結ぶ。


「レオンさま。今日も私の命令で多くの人が死に赴きました。私の人生の十字架になると思います。……でも後悔はしていません!」


 さらに一段高い場所に上がり両手を広げると、風が吹いてシノのキモノの袖がふわりと揺れる。


「私がレオンさまと共に歩むと決めたあの日から、私は自分の全てをレオンさまに捧げることにしました。私がレオンさまの罪を背負うのです。でも、やっぱり戦は怖いです。今日、手の震えをキモノの中に隠したことは1度や2度ではありませんでした」


 そう言うとシノはとんとレオンシュタインの側に降り立って、両手を広げる。


「本当は今も震えが止まらないんです。レオンさま、抱きしめてもらってもいいですか?」


 その瞬間、二人の間に1つの影が割り込んだ。


「ええ、いいわよ」


 両手を広げた黒仮面の女がシノを粗っぽく抱きしめていた。軽く舌打ちをしたシノはティアナを軽く突き放す。


「あら、いつの間に負傷者の輸送から戻られたんですか?」

「たった今よ。今! シノ! あなた士気が下がるから抱きつくな! なんて言ってた癖にどういうつもり?」


 ティアナは腰に手を当てながらシノを詰問するが彼女は袖で口元を隠し素知らぬふりをする。


「本当に腹黒いわあ。レオン、気をつけてね」


 それが砦戦の締めくくりの出来事となった。


 空には静けさが戻り、微かに星が光り始めたのだった。



 §



 翌日は、負傷者の捜索と遺体の回収になった。敵陣のあった場所には、おびただしい量の食料と武具のたぐいが置かれたままになっていた。


「これも回収だ!」


 ディーヴァは馬車を派遣してもらい、村まで運び込むことにする。また敵の負傷者も村で手当をすることに決まった。およそ200名の負傷者は船や馬車で村まで輸送されることになり、死傷者は山に設けられた墓地に丁重に葬られることとなった。


 それらの作業を終え、村に戻ることができたのは3日後のことだった。砦にはシキシマから送り込まれてきたサムライ50名を警戒に当てる。レオンシュタインたちはジーナの用意した船に乗り、ゆっくりと川を下っていく。この船は負傷者の運搬に大いに役立ち、たくさんの命を救うことになった。


 村でも命を救うための活動が続けられていた。アンドレア神父と3人のシスター、そしてローレなど看護経験のある人たちが不眠不休で治療に当たっていた。アンドレア神父はこの春に治療魔法を習得し、同時にシスターの3人も習得して村で治療活動を始めていた。


 関係者の疲労の色は強かったけれど、命を助けたいという使命感で溢れていた。


 もう1つ、命を救う活動をしていた集団があった。それはバルバトラスの手紙を受け取って村にやってきた医学部の教授ロッジェリオの一団だった。


「魔法だけでは命は救えない。人間を理解した学問がそれをなしえるのだ!」


 ロッジェリオは実践的な外科治療を専門としており、それを用いて負傷者の手当に当たっていた。同時に教会の薬とは別の薬の治療を行い、治療効果を上げていた。


 それらのおかげで亡くなる兵士が減ったのは事実だった。ただ最終的に今回の侵攻で亡くなった村側の人数は83名に上るのだった。

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